受託者の義務

信託は受託者が信託財産の名義人となって管理・処分などを行うものであり、受託者に対する信頼が前提となっています。そこで、信託法上、受託者に対してさまざまな義務が課されています。

受託者の義務のうち、最も基本的なものとして、以下の3つを挙げることができます。

  • 善管注意義務:
    受託者は、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければなりません。
  • 忠実義務[※1]
    受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければなりません。
  • 分別管理義務[※2]
    受託者は、信託財産に属する財産と固有財産(受託者の個人財産)や他の信託財産に属する財産とを、分別して管理しなければなりません。

このほか、受託者は、以下のような義務・責任を負います。

  • 信託事務の処理の委託における第三者の選任・監督義務:
    受託者は、信託事務の処理を第三者に委託する場合、適切な者に委託しなければならず、また、当該第三者に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません。
  • 公平義務:
    受託者は、受益者複数の信託において、受益者のために公平にその職務を行わなければなりません。
  • 帳簿等の作成等、報告・保存の義務等:
    受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成しなければなりません。また、毎年1回、一定の時期に、貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成し、その内容について受益者に対して報告しなければなりません。さらに、信託に関する書類を、一定期間、保存しなければなりません。そして、受益者の請求に応じて、信託に関する書類を閲覧させなければなりません。
  • 損失てん補責任等:
    受託者がその任務を怠ったことにより、信託財産に損失が生じた場合または変更が生じた場合、受益者の請求により、受託者は、損失のてん補または原状の回復の責任を負います。
[※1]
信託法は、忠実義務に関する一般規定を新設した上で、広く受託者・受益者間の利益相反行為を制限する規定を設けました。
すなわち、信託法は、受託者は受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない旨を定め(30条)、その上で、受託者の利益相反行為の制限(31条)および競合行為の制限(32条)を定めました。信託法31条は、利益相反行為として、信託財産に属する財産を固有財産に帰属させ、または固有財産に属する財産を信託財産に帰属させることなど4つの類型を挙げています(同条2項各号)。また、競合行為の制限とは、受託者がその権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産またはその利害関係人の計算でしてはならないことをいいます(32条1項)。
信託法は、利益相反行為の制限についても競合行為の制限についても、信託行為にこれを許容する旨の定めがある場合などには制限が解除されることを明定して、これらの規定が任意規定であることを明らかにしました(31条2項、32条2項)。
[※2]
信託法は、分別管理の方法について、財産の種別に応じて定めを置いています。すなわち、(1)登記・登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記・登録、(2)金銭を除く動産については、信託財産に属する財産と固有財産および他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管すること、(3)金銭および(2)に掲げる財産以外の財産(例えば債権)については、その計算を明らかにする方法、(4)法務省令で定める財産については、法務省令で定める方法です。分別管理の方法については信託行為で別段の定めを設けることが許容されていますが、信託行為の定めにより信託の登記・登録をする義務を完全に免除することはできません。

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