会長定例記者会見(みずほ信託銀行 中野社長)

2015年03月19日

1年を振り返り

信託協会会長の中野でございます。昨年4月の会長就任からまもなく1年になります。この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心より御礼申し上げます。
私は就任時に所信として、信託機能を十分に発揮することにより、経済・社会の発展・成長に貢献して参りたい、そして、信託に対する信頼の向上に努めたい、と申し上げました。
本日が信託協会会長として最後の会見となりますので、この1年間を振り返り、何点かお話したいと思います。

まず、信託への期待の高まりについてです。
この1年間で、信託財産残高は55兆円増加し、昨年12月末には886兆円となり、史上最高額を更新しております。また、高齢化の急速な進展を背景に、遺言代用信託や後見制度支援信託など、資産承継や資産管理に関する新たな信託商品の利用は大幅に増加しており、信託への期待がますます高まっていることを感じております。
このことを最も実感するのが教育資金贈与信託の受託実績です。昨年12月末には、契約数は10万件を超え、信託財産設定額は約7,000億円となるなど、「孫の教育のためにお金を出してあげたい」、という祖父母世代のニーズにかなった商品として、ご好評をいただいております。

次に、税制改正要望についてです。
先ほど申し上げた教育資金贈与信託については、制度の恒久化、利便性の向上等を要望しました。その結果、本税制の適用期限を平成31年3月末まで延長いただいたほか、非課税の対象範囲が通学定期代や留学渡航費まで拡大されるなど、利用者の皆様の利便性向上につながる改正になったものと考えております。

また、教育資金に続き、「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設されることとなりました。
若年層にとって将来の経済的不安が結婚・出産を躊躇させる要因の一つとなっていることから、結婚・出産・育児を後押しするため、両親や祖父母が信託銀行等の金融機関を通じて子や孫へ「結婚・子育て資金」を一括で贈与した際に、1,000万円を上限として贈与税を非課税とするものです。
法令等必要な準備が整い次第、速やかに商品を提供できるよう、準備を進めているところでございます。「結婚・子育て支援信託」の商品化に先立ち、一般の方を対象とした信託オープンセミナーを開催し、制度の周知にも努めております。

さらに、高齢化が急速に進む中、課題となっている中小企業の事業承継に関しましても、信託の活用について税制改正要望等の提案を行いました。具体的には、信託された株式について事業承継税制が適用されることを要望しております。中小企業庁を講師に招き、「事業承継における信託の活用」をテーマに信託オープンセミナーを開催するなど、引き続き信託の活用について働きかけを行っているところでございます。

最後に、成長戦略に掲げられたコーポレートガバナンス改革への対応について申し上げます。
今年度運用が開始された「スチュワードシップ・コード」については、信託協会では現在6社が受入を表明し、企業との対話を通じて企業価値の向上や持続的成長につながっていくよう取り組んでいるところでございます。
また、この3月には、有識者の検討等を経て、「コーポレートガバナンス・コード」が公表されたところでございますが、証券代行業務を担う信託業界として、ガバナンスの高度化に向けた各企業の取り組みをサポートしてまいりたいと思います。

以上がこの1年間の簡単な振り返りになります。

これまで申し上げた取り組みや成果は、当協会の活動に関係する全ての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて厚く御礼を申し上げます。

最後になりますが、信託協会会長会社の務めは、4月に三井住友信託銀行さんに引き継ぐこととなります。今後とも信託協会の活動に対して、一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

以下、質疑応答

教育資金贈与信託

問:

教育資金贈与信託の今後の受託見通しや、手ごたえについてお伺いしたい。

答:

教育資金贈与信託は、スタートして1年9ヶ月となる昨年12月までの実績として、件数で約10万件、金額で約7,000億円と、お客さまから大変ご支持をいただいております。昨年10-12月期につきましても、件数にして約12,000件の受託実績と、引き続きお客さまのニーズは高く、今後も増加していくものと考えております。
教育資金贈与信託は、祖父母の方々のお孫さんへの想いを、信託という形で示すことができる点が支持されていると思います。お孫さんの教育に資するということが目的ですが、父母世代の方々の教育資金負担が軽減されることで、消費に回る資金が増えるという経済効果もあり、社会的にも経済的にも貢献度の高い商品であると考えております。

景況感等

問:

2年間のアベノミクス、日銀黒田総裁の就任以降、株価は上昇し2万円近い水準となっているが、この2年間を踏まえて、足もとの経済環境や今後の経済見通し、株価水準についてどのようにみているかお伺いしたい。

答:

足もとの経済状況につきましては、日本経済は昨年4月の消費税増税以降、マイナス成長が続いておりましたが、昨年10-12月期からは回復傾向にあり、今後も緩やかな回復を続けていくとみています。企業収益も総じて好調であります。輸出、あるいは設備投資につきましても増加傾向にあり、足もとの原油安も、日本経済全体としては、プラスの効果があると思います。また、今後、財政による景気の下支え効果も発揮されるのではないかと思っております。
このところ、各社の賃上げ発表が行われておりますが、多くの企業で、昨年よりも高い水準での賃上げとなっております。賃上げが、消費の拡大、ひいては企業業績の向上へ波及するといった、経済の好循環をもたらすことが期待できます。従いまして、今後の日本経済は、緩やかに回復していくと考えております。
現在、日本経済は、持続的かつ安定的な成長に入って行けるかどうか、非常に重要な局面にあると思っております。経済の好循環を作り出していくことに加え、成長戦略や構造改革をしっかりと進めていくことが、重要であると考えております。このような取り組みを通じて、日本経済が持続的、安定的な成長に向かっていくことを期待しております。
株価の水準については、信託協会長としてコメントは差し控えさせていただきますが、株価上昇の背景についてご説明します。アベノミクスがスタートし、また日銀の金融緩和により、長期金利が低下し為替も円安が進行しました。そのような環境下で、景気が回復し、企業業績も回復して、株価の上昇に繋がっていると考えております。

結婚・子育て支援信託

問:

結婚・子育て支援信託について、現在法案が審議されているが、法案が通れば速やかに商品を提供できるのか、また、施行日の4月1日に間に合わなかった場合の影響についてお伺いしたい。

答:

各社毎に状況は異なりますが、当行におきましては、法案が通り次第、速やかに商品を提供できるよう準備を進めているところです。
商品提供が施行日に間に合わなかった場合の影響については、販売戦略上、特に大きな影響はないと認識しておりますが、私ども信託協会が要望し実現していく商品であり、速やかに商品を提供できるよう努めることが重要だと考えております。

スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コード

問:

スチュワードシップ・コードについてですが、受託資産を長期に安定運用することと、企業統治を強化してROEを高めていくということについて、両者が同時に実現できるものかどうかお伺いしたい。
また、コーポレートガバナンス・コードについて、今後の課題やこれに対してどのように関与していくのかお伺いしたい。

答:

スチュワードシップ・コードにつきましては、信託銀行も機関投資家として、昨年受け入れを表明し、実践に移しております。スチュワードシップ・コードの意義は、機関投資家と投資先企業が建設的な対話を通じて、企業価値の向上や持続的な成長につなげていくことと認識しています。信託銀行としましては、お客さまからお預かりした資産を安定的かつ適切に運用し、受託者責任をしっかりと果たしていくことが大切であります。このことは企業がROEを高めていくということと矛盾するものではないと考えており、受託者責任をより一層果たすための活動であると考えております。
コーポレートガバナンス・コードについて申しますと、私ども信託銀行は証券代行業務を担っており、株主名簿の管理、株主総会の運営サポートなどを通じて、株主戦略、資本政策、ガバナンス体制構築のサポート等のアドバイスを行っております。コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の機能強化や、監督と執行の役割をしっかりと果たすことで、企業の成長を促すことを目的としております。現状、高度なガバナンス体制を構築している企業もありますが、ガバナンスの高度化を進めていかなければならない企業もございます。信託銀行としては、企業がより高いレベルのガバナンス体制を構築できるよう、情報提供やアドバイス等のサポートを行い、企業の成長に貢献していくよう努力していきたいと考えております。

結婚・子育て支援信託

問:

結婚・子育て支援信託についてですが、この商品をきっかけにどのように信託ビジネスの拡大につなげていくのかお伺いしたい。

答:

結婚・子育て支援信託については、信託協会として要望してきましたが、私自身の思いとしては、今の日本にとって一番重要な問題というのは少子高齢化だと思います。また、地方創生と言われておりますが、地域の発展という点においても、この少子高齢化の問題というのは非常に重要であります。
このような認識のもと、資産の世代間移転を促進することによって、資金面の負担、経済的な要因で結婚や出産を躊躇するという問題の解決につながっていくように、信託業界として貢献していくことが重要であると考えております。
信託ビジネスにどのようにつなげていくのかという点について申し上げますと、当行では、教育資金贈与信託と同様に、結婚・子育て支援信託は、事務管理の手数料は無料とする予定でございます。教育資金贈与信託の場合で申しますと、お客さまの約半分はこれまで取引のなかった新しいお客さまです。加えて、商品の特性として祖父母の世代、父母の世代、子の世代という三世代に亘る取引関係を構築できます。高齢化に伴って相続などのニーズが高まっており、三世代のお客さまに対し多面的な取引関係を、長い時間軸の中で拡大していくことが信託ビジネスの拡大に繋がるものと考えております。結婚・子育て支援信託も同様でございます。

遺言信託

問:

遺言信託については、取り扱いが増加しており、エンディングノートや終活ブームを背景に、信託業界以外にも様々な業界が関心を示している分野であるが、信託業界として、今後、遺言に関わる分野についてどのように取り組んでいきたいと考えているかお伺いしたい。

答:

遺言信託や相続についてお客さまのニーズは非常に高く、信託業界としても重点分野として力を入れて取り組んでおります。お客さまのニーズの高まりを背景に、信託業界にとどまらず、他の業界や、同じ金融機関においても地方銀行などで関心が非常に高まっております。
様々な業態での商品提供に信託業界が協力していくことで、日本全体のお客さまニーズに応えていくことができると考えております。例えば、地方銀行と信託代理店契約を結び、その業務をサポートしていくことで、地方銀行のお客さまのニーズに応え、同時に地方銀行とのリレーションを強化するような取り組みも行っております。

東日本大震災の復興の支援

問:

東日本大震災から4年が経過したが、震災発生当時、被災建物の建て替えなどで土地信託が活用できないかということを言われていた。
改めて、信託銀行として、震災復興に対しどのような役割を果たしていくのかお伺いしたい。

答:

震災復興支援に関しては、被災地の地方公共団体が土地信託を行った場合にかかる登録免許税を非課税とする措置が手当てされ、震災復興に信託銀行として貢献していこうということで、取組んでまいりました。しかしながら、我々も役立てる道はないかということで、いろいろな提案を行っておりますが、財政資金が投入されており、土地信託等のニーズは顕在化しておらず、なかなか実際の活用に至っておりません。
また、信託協会といたしましては、東日本大震災事業者再生支援機構へ人材を派遣しているほか、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」に則り、債務者の自助努力による生活や事業再建の支援、被災地の復興・活性化に取り組んでいるところでございます。
東日本大震災の被災地域の復興は、わが国において非常に重要な問題だと思いますので、引き続き信託銀行としても、全力で取り組んでまいります。

以上