会長就任記者会見(三井住友信託銀行 常陰社長)

2015年04月09日

冒頭、振角専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長に三井住友信託銀行 常陰均取締役社長が互選により就任したこと、また、新副会長に三菱UFJ信託銀行 若林辰雄取締役社長が、新一般委員長に三井住友信託銀行 土屋正裕取締役常務執行役員がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。

続いて、第90回信託大会を4月15日(水)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非出席いただきたい旨案内を行った。

また、平成27年度の信託研究奨励金の募集を開始したこと、「結婚・子育て支援信託」のリーフレットを作成したので、取材等で参考にしていただきたいこと、本年2月末の信託財産総額が史上最高額を更新して906.9兆円となり、初めて900兆円を突破したことについて説明を行った。

会長就任の抱負

この度、信託協会会長に就任いたしました常陰でございます。これから1年間よろしくお願いします。
就任にあたりまして信託協会会長としての抱負を述べさせていただきたいと思います。
抱負の一つ目として申し上げたいことは、「信託機能の一層の活用により経済や社会への貢献を図っていく」ことです。
具体的には、「新しい信託商品の開発」、「コーポレートガバナンス改革への貢献」、「アジア諸国との連携強化」の3点です。
まず、一点目の「新しい信託商品の開発」に関しましては、「教育資金贈与信託」が制度創設以来、ご契約が11万件を超えるなど大変ご好評を頂いています。
また、今般新たに創設されました「結婚・子育て支援信託」につきましても、この4月より取扱いを開始したところですが、この商品は結婚や子育てへの支援を通じて少子化対策に貢献するのみならず、地域経済の活性化にも寄与するものであり、今後の発展に期待しているところです。
我々は、これらの各種信託をより多くの方々にご利用いただけるよう、より一層の普及・促進に向けた活動に力を注いでまいりたいと考えています。
今後とも、地方創生や社会貢献への取組みをサポートするなど、時代の要請や社会のニーズに対応した新たな商品やサービスの開発、提供に向けて信託業界として知恵を振り絞っていきたいと考えています。

次に二点目の「コーポレートガバナンス改革」ですが、私ども信託は機関投資家として、ガバナンス改革における「車の両輪」の一方であるスチュワードシップ活動の担い手でもあります。
この役割と使命を十分に認識し企業との対話促進を通じて、我が国の「稼ぐ力」の向上に貢献したいと考えています。
三点目の「アジア諸国との連携」につきましては、アジア諸国との信託に関する連携強化を進め、その成長の果実を享受することも念頭に、我が国の信託制度の普及・促進を図るべく、相互理解に向けた交流や研究を推進してまいります。
抱負の二つ目で申し上げたいことは、信託の担い手として「受託者精神の重み」を強く意識しなければならないということでございます。
いうまでもなく、信託は、受託者に対する委託者や受益者からの高度かつ長期に亘る信頼を前提に成り立つ制度であり、高度な倫理観と専門性がその根本にあります。
私どもといたしましては、信託の担い手、受託者精神の「本家本元」として、今後もお客さまの信頼にお応えし続けるとともに、広く信託の理念を浸透させてまいりたいと考えています。

以下、質疑応答

今年度の取り組み

問:

今年度の信託協会の取り組みについてお伺いしたい。

答:

第一に、信託協会はこれまでも、社会・経済のニーズ、政策的な課題を捉え、信託の機能を発揮し、貢献していくことを考えており、教育資金贈与信託、結婚・子育て支援信託のほか、特定寄附信託、特定障害者扶養信託、後見制度支援信託等、さまざまな信託商品を開発・提供してまいりました。信託商品のラインナップが整いつつありますので、まずは各種の信託の制度や商品について、普及・促進を図り、認知度を上げていきたいと考えています。また、来年1月に、信託協会は設立90周年を迎えます。記念行事として、シンポジウム等の開催も予定していますので、そのような場も利用して、信託の制度や商品について普及活動を進めていきたいと考えています。
第二に、信託機能を活用した新しい商品の開発・研究を検討していきたいと考えています。各種の政策課題や構造的な我が国の課題に対し、新たな解決策の提示をしていきたいと考えています。具体的には、三点ほど考えております。一つ目は、少子高齢化とともに、大きなテーマとなっている地方創生について、政府や地方、関係業界等においてさまざまな提案や政策を進めようとされていますが、信託業界としましても、信託機能を活用しその一端を担えるような提案ができないか、まずは研究していきたいと思っています。結婚・子育て支援信託もその一翼を担うものであり、新しい商品とあわせてセットになって地方創生に貢献できればと考えています。
二つ目は、社会のニーズに応えるべく社会貢献制度の充実に貢献していきたいと思っています。この分野では既に特定寄付信託がありますが、昨今の低金利の影響を受け、公益法人等の活動範囲が狭まっている現状もあり、公益活動をさらに支援するために信託制度を活用するという切り口で、研究・検討していきたいと考えています。
三つ目は、経済・市場の活性化のため、貯蓄から投資の流れの加速と併せ、世代間の資産移転を促進、加速させるような観点での新たな制度の提案ができればと考えています。

結婚・子育て支援信託

問:

結婚・子育て支援信託に対する期待と、どのように活用してもらいたいと考えているか、お伺いしたい。

答:

結婚・子育て支援信託については、少子化対策ということ、地方創生の中でも謳われ地域活性化にもつながること、それから一括贈与の非課税制度により、資産の世代間移転を促進するという三つの趣旨で取組んでいるものなので、まずはこれらの趣旨に沿って利用が深まればと思っています。
具体的には、費用の対象項目をご覧頂くと、結婚に伴う費用も認められていますが、出産に関わることや、とりわけ育児・子育てに関する費用が非常に幅広く認められており、例えば、未就学のお子さまの医療費から始まり、保育園や幼稚園の費用まで認められていますので、このような子育て支援という点に着目してご活用頂ければと思いますし、個人的な考えで申しますと、今回の教育資金贈与信託と一連のものとして活用頂ければ、その活用余地も広がると考えています。
いずれにしても、信託にとっては教育資金贈与信託も相当の実績があり、教育資金贈与信託と同じように、信託を非常に身近なものとして感じて頂き、利用して頂ければ有難いと思いますし、協会としても、広報活動を含めて普及促進のための活動を進めていきたいと思っています。

相続税改正およびアジアとの連携・強化

問:

一点目は、今年の1月に相続税の改正がありましたが、その前後でお客さんの動きがどのように変わったのか、今後、信託協会としてどのようなサービスを提供していくのかお伺いしたい。
二点目は、先程の抱負にありましたアジアとの連携・強化について、目的と具体的にどのようなことおこなうのか、もう少し詳しくお伺いしたい。

答:

一点目の相続税制の改正に伴った動きについては、昨年から既に動きが始まっています。例えば、遺言信託の受託件数を見ても昨年9月末で9万2千件と、3年前の増加額に比べると約2倍の数字になっていますので、もともと高齢化が進み、相続に関する関心が高まったことに加えて、税制の改正がその動きを加速させた面もあるのではないかと考えています。その意味では、協会としても受託件数が増えること自体は当然歓迎していますし、それに伴い利便性を改善すべき点があれば新たに研究して加えていきたいと考えているところです。
次に、アジアとの連携についてですが、東アジアでは、中国、韓国、台湾は既に我が国に類似した信託制度がある程度整備されています。個社として活動する中で、ASEANの国に接触していても将来的には信託制度をもう少し確立したものとして導入したいといった要望が寄せられていることもあり、今後、各国で社会資本や経済資本が蓄積されていく上では有用な制度として活きていくと思われます。その意味では、制度輸出等まで視野に入れて協会として貢献をし、それが協会加盟各社の活動のフィールドがアジアにも広がっていくことにもつながることが望ましく、協会としても支援をしていきたいと考えています。

スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コード

問:

一点目は、スチュワードシップ・コードが導入され具体的な動きとして何か変わったことはあるのか、企業との対話についてこれまではどうなっていて、今はどのようになっているのか、変化について教えていただきたい。
二点目は、受託者責任について、金融庁のモニタリング基本方針でも、フィデュシャリー・デューティーという言葉を使って、より一層、責任の重みが課せられていると思うが、具体的に業界として何かを変えないといけないということになっていくのか、どのように対応されるのか伺いたい。

答:

まず、スチュワードシップ・コードについてですが、信託としては、コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード両方の担い手であり、その両面からガバナンス改革に貢献できればと考えています。具体的には、スチュワードシップ・コードにおける企業との対話促進ということですが、運用スタイルや運用対象、運用体制が各社においてそれぞれであるため、理念としての重要性を認識したうえで協会としての普及活動は行いますが、コードの内容を踏まえた活動は各社に任せています。
また、本年6月からのコーポレートガバナンス・コードの適用等を踏まえて、投資家の立場としても新たな対話をどのようにしていくのかは、スチュワードシップ・コードの際に各社が基本方針を公表しており、これらの内容をご覧いただくと各社ぞれぞれの内容となっています。実際の対話については、今後、どのような変化があるのかを見極めていく必要がありますし、各社においても対話を行う専門の部署もあれば、アナリストが対応することがあるなど、様々な対応・体制を考えているようなので、実態の違いは今後見ていただければという段階です。

次に、受託者責任についてですが、金融庁の方針においてもあまねく適用されるべき根本的な考え方であるとされていると思います。協会としては、受託者責任を理解してもらうための活動の1つとして、現在ルール化している顧客保護の重みやこの精神を受け入れることがどのようなことに繋がっていくのか、また我々なりの顧客保護というのはどのようなことか、会員各社に説明を行っています。金融界全体に改めてこのような精神が浸透していくと、顧客保護徹底の度合いというものがより良い方向に変わるのでは、といったことかと思います。

受託者責任

問:

昨今、ROEや配当性向を一律高めなければならないといった声が多いが、ROEにしても、配当性向にしても、業態や業界、企業の発展ステージに応じてそれぞれの水準や利用方法があると思うが、一律に株主還元を求めるという昨今の風潮をいかがお考えか伺いたい。

答:

ROEについても、今回、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの中で求められる議論の1つだと認識していますが、ROEも含めてスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードについては、基本は、各企業が各社各様の自らに適した水準やルールというものをしっかり考えることが原点であり、そのうえで、株主を中心としたステークホルダーにしっかり説明できるかどうか、そういったレベルにあるかどうか、内実が伴った対応となっているかということが最も重要なことだと認識しているところです。

以上