会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 池谷社長)

2017年03月16日

1年間の振り返り

信託協会会長の池谷でございます。
昨年4月の会長就任から間もなく1年が経過致します。この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心より御礼申し上げます。
私は、会長就任に当たりまして、所信として、「信託制度の更なる普及、健全な発展に努め、社会・経済に一層貢献して参りたい」ということと、「信託に対する信頼の確保に努めて参りたい」ということを申し上げてきました。
本日は、信託協会会長として最後の会見となりますので、この2点に沿いまして、この1年間を振り返った感想などをお話ししたいと思います。

まず、「信託制度の更なる普及・発展」についてでございます。
信託法が平成18年に全面改正されてから10年、この間、少子高齢化・人口減少社会の到来に対応し、財産の保全・世代間移転に資する信託商品として順次導入してきた「遺言代用信託」、「後見制度支援信託」、「教育資金贈与信託」等について、更なる普及に努めてまいりました。
毎年取り組んでおります税制改正要望や規制改革要望につきましても、社会課題に応えるための既存商品の利便性向上や、アベノミクスにおける成長戦略への貢献に資する、といった観点で提言を行いました。
この中では、国民の老後生活の維持・安定を図る上で重要な役割を担う「企業年金」や「確定拠出年金」などの積立金に対する特別法人税について“課税凍結期間の3年延長”が措置される見込みとなりました。また、近年、信託スキームを用いた業績連動型株式報酬制度の導入企業が増えている中で、一定の要件を満たす場合に、在任中の役員に付与するケースにつきまして損金算入が認められる等、一定の成果を得ることができました。
引き続き、信託ならではの商品・サービスの更なる普及・発展に向けて、知恵を絞って取り組んで参ります。
加えて、昨年より、公益信託法改正に向けて、法制審議会信託法部会での審議が開始されており、公益信託の健全な普及・発展に向けて、私どもも確りと議論に参加して参ります。

次に、「信託に対する信頼の確保」でございます。
私ども信託の担い手は、お客様の信頼に応えるフィデューシャリーとして、法的義務を果たすことはもとより、高い倫理意識と専門性に基づいて、常にお客様のために誠実に行動することが求められており、かかる観点で見直しを行った当協会の「倫理綱領」について、会員各社への普及・徹底に努めて参りました。
また、昨年から今年に掛けまして、金融審議会のワーキンググループや有識者検討会において、「顧客本位の業務運営に関する原則」の策定や、「日本版スチュワードシップ・コード」の見直しに向けた議論が行われており、当協会もこれに参加しております。
こうした流れの中で、私どもは、我が国を代表する機関投資家として、また、インベストメントチェーンにおける商品開発、販売、運用、資産管理等、様々な立場で資産運用ビジネスに携わる者として、原則・コードの趣旨に沿った取り組みを、会員各社が工夫をしながら積極的に進めているところであります。

さて、昨年11月、信託財産残高が史上初めて1,000兆円を突破いたしました。これは、長い歴史の中で培われてきた当業界への信頼をベースに、信託がわが国の社会に深く浸透し、経済発展にいくばくかの寄与・貢献していることの証である、と認識しております。
大変有り難いことであり、また、私どもの社会的な責務の重さに、改めて身の引き締まる思いをいたしております。
今後とも、信託への信頼の確保に引き続き努めるとともに、信託機能を活かした商品・サービスのご提供に邁進することで、社会・経済の健全なる発展に向け貢献をしてまいる所存です。

以上がこの1年間の簡単な振り返りになります。
これまで申し上げた取り組みや成果は、当協会の活動に関係するすべての皆様のご尽力の賜物でありまして、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。
会長会社の務めは、この4月にみずほ信託銀行さんに引き継ぐこととなりますが、今後とも信託協会の活動に対して、一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。

以下、質疑応答

FEDの利上げ

問:

今日の話ですが、アメリカの方でFEDが利上げを表明しました。これによる日本経済への影響および米国経済の見通しをどう見ているか教えてほしい。

答:

まさに旬な話だと思います。結論を申し上げれば、日本経済にとっても非常にプラスの出来事だったのではないかと考えております。アメリカの金融政策は正常化の過程にあるわけですが、イエレン議長のご発言にもありましたように、非常にしっかりと経済が成長しているということが今回の利上げにつながったものだと思います。言わずもがなですが、世界最大の経済大国・米国ですので、このようなしっかりとした経済成長が続いているということは、我が国を含む世界経済にとってポジティブなこと、これがまず大前提となります。
一方で、発表前にマーケットは様々な心配をしていたと思いますが、2点あろうかと思います。

1点目はやはり、利上げを急ぐような動きになるのではないかという懸念ですが、これに関しましては、利上げを急ぐ姿勢は見られておりません。今回を含めて今年都合3回利上げがあるというようなことが見受けられます。これに加えて、バランスシートの縮小に関しましても、方針の決定には至っていないという表現をされていますので、まさにこれからの議論になるということかと思います。したがいまして、アメリカの金融政策が急激に何か動いていくというよりも、緩やかなペースで正常化が進んでいくというような解釈・評価をしております。そういった観点から考えますと、ニューヨークマーケットも株価が上昇し、10年債も買い戻されるような動きが見受けられましたので、今申し上げたような評価をマーケットも同じように感じている、ハト派的な利上げに至る考え方であろうかと思います。

一方で、日本経済に関しましては、まず、今申し上げた大前提の米国経済が堅調であり、緩やかなペースでの利上げというようなことが見受けられることに加えて、28.1兆円といった経済対策の効果が今後期待されるというようなこと。あと、この日米の金利差を考えていけば、円安の基調が今後期待できることから、日本の経済、企業業績に関しても、特に製造業に関しては、ポジティブな見方ができるのではないかと考えています。企業業績に関しましては、確か、短観の前提がまだ慎重な水準だったかと思いますけれども、これが足元のレベルであれば、今年度も更なる上方への決算ができる可能性もありますし、既にそういったレベルで考えれば、企業業績自体が過去最高の水準になるといったことで、株価のことを言うのはなかなか難しいのですが、日本の株価にとってもプラスの成長が期待できるのではないかと思います。加えて、世界経済にとっても、アメリカがしっかりと成長していくということは、各国にとってフェイバーな状況かと思います。

日本の非製造業に関しては、消費はしっかりしているけども、という状況かと思いますが、円安傾向が続けば、来日される外国人観光客にかかる期待も出てこようかと思います。こういった諸々の観点から、経済にとってフェイバーではないかというのが私の考えであります。

個人型確定拠出年金の対象拡大

問:

今年の1月から個人型確定拠出年金の対象が主婦や公務員まで拡大しましたが、約2ヶ月経過した中で、課題や手応えをどのように捉えているか教えてほしい。

答:

いわゆるiDeCoと呼ばれている新しい個人型確定拠出年金は主婦・公務員の方が新しく加入できるようになりましたが、従前から確定拠出年金は、毎月少額で息長く積み立てることができる商品ですので、この新制度に関しましても、投資経験の少ない方も含めて国民の安定的な資産形成に資するものになっていかなければならないと思っております。
なかなか計数は取りにくいですが、厚生労働省が1月の加入者の数字を発表されていて、1か月で約3万人弱増えています。その前月の12月以前は月平均で言うと約5,000~6,000人でしたので、スタートした直後ですけれども、数倍の方が加入されていると言えようかと思います。まだまだ始まったばかりですので何とも言えないところもありますが、やはり関心の高い制度としてスタートは切れたのではないかと思いますし、私どももこれがさらに発展できるように工夫・努力をしていかなければならないと思っています。
その工夫・努力という観点で申し上げますと、まずは加入していただくことがスタートになりますが、さらにその運用の中身について申し上げると、既存のDC年金もそうなのですが、どうしても元本確保型商品を選択される個人の方が多くいらっしゃいます。そのような実態を踏まえると、時間・年数を有効に活用した長期投資という観点で投資商品を少しずつ組み入れていけるような、そのような形で私どもも様々なことを考えて工夫をしていかなければならないと思っています。
個社というか、MUFGグループで申し上げますと、三菱東京UFJ銀行と共同でiDeCoの運営管理業務に携わっておりまして、今回の新制度に向けて、ライトコースという新商品を設けました。これは、わかりやすく手掛けやすいというコンセプトで設けたものですが、中身に入っている運用商品の選択肢が従来の半分の10本くらい、元本確保型の定期預金や保険などが2本ほどで、あとはバランス運用だったり、株や債券のインデックス運用だったり、その中から、手掛けやすく選びやすいようなコースをご用意し、運営管理の手数料に関してもお得な設定にすることで、長期投資が広がる工夫を進めているところです。個人型の確定拠出年金制度が発展していくということが非常に大切なことですので、それに向けて私どもも引き続きできるだけの努力をして参りたいと思います。

日銀によるイールドカーブ・コントロール

問:

昨年9月に日銀がイールドカーブをコントロールするという政策を導入して間もなく半年になりますけども、この間、政策の影響で長期金利はずっと一定になっています。
この半年間を振り返り、信託各社の資産運用であるとかそういったものに対してポジティブだったのかネガティブだったのかお伺いしたい。

答:

信託ならではということで申し上げれば、特に私ども個社で言えば受託財産運用では、といったことになりますけれども、10年債をゼロ近辺ということで、昨今では指値オペも含めてイールドカーブ・コントロールは機能しているという中で、運用はその中でどのような選択をしていくかということかと思います。
JGBだけで運用するわけではありませんので、より分散投資を進めるとか、いわゆるアセットクラスを少し工夫していくことだと思います。
例えば今の企業年金の世界で申し上げれば、株式・債券はグローバルにポートフォリオを組むということに加えて、やはり少しリアルアセット的なもの、つまり不動産やインフラとか、こういったものを金融商品化していくことですが、これは年数が長くかかりますし、従前からも考えてきたわけですが、そういった工夫を引き続きしていくことで、資産運用に対して全体的に安定したパフォーマンスが出るよう努力をしていくということかと思います。

日銀による金利政策

問:

今日、決定会合があり、政策は現状維持ということになりました。世界経済がどちらかと言うと上昇傾向にある中で、おそらく、長期金利をターゲットにいずれ上げるということかと思うのですが、そういうものが信託各社にどういう影響をもたらすか、あるいは、それに対して何か備えが必要と考えるか。

答:

金利政策に関わることなのでいつ頃どう出るかということを想定するのは非常に難しい話かと思いますが、一般的に、アメリカの長期債の利回り上昇などを見れば、短期的には運用する者からするとヒヤッとする局面もあるのかもしれませんが、やはり一定程度の金利水準があるということで申し上げれば、それを前提としたインカムゲインをベースにした運用に、過去もそういう発想で運用してきましたけれども、いわば戻していくという発想で取り組むのではないかと。
いずれにしても変わり目に関しては上げも下げもそうですけれども、リスク管理をしっかりやっていくということ以外に方策はないと思っておりますので、そういったことを常々留意しながら時々のイールドに合わせた運用をしていくということかと思います。

問:

利上げの幅にもよると思うのですが、場合によっては損失につながるというリスクも考えながら運用していくのか。

答:

一般論で言えばそうですよね。フィクスドインカムで運用していればそういう局面はあろうかと思います。

東芝の決算発表の延期

問:

個別企業のことで恐縮なのですが、東芝が決算を再延期されました。融資している立場からその受け止めと、東芝側の説明に納得しているかという点について教えていただけますか。

答:

個別の企業に関わるご質問には回答を控えさせていただきたいものの、一言だけ個社として申し上げると、仰ったとおり二度に亘る延期ということで、ガバナンス面はきちんと効かせていただきたいというのはあります。「納得されていますか」というようなご質問かも知れませんが、私どもも融資行の1行として、納得できるご説明を引き続き求めていくというのが足元の状況かと思います。

問:

昨日のバンクミーティングでは担保という話も出たようなのですが、今後の融資姿勢というところはどのようにお考えでしょうか。

答:

これもお答えが非常に難しいことでございますので、姿勢についての回答は控えさせていただきたいものの、一般論で申し上げれば、担保についてのやり取りと言いますか、お話が出てきたということで言えば、融資の保全という観点で言えば、一般的にはプラス材料だと見受けられますが、まだまだこれから色々な詰めが必要なのかなと思っている次第です。
それと、やはり、今後の事業の損失についての見通しであるとか、それを踏まえた今後の新しいビジネスモデルであるとか、そういった観点も併せて、融資している立場としてはしっかり精査をして判断していくつもりです。

利益相反

問:

フィデューシャリー・デューティーと言うか、金融審議会の議論にも関係してくることですけども、利益相反の問題なのですが、MUTBさんとしては、この間、例えば人事異動の関係ですとか色々遮断されるようなことを対策として打ち出された一方で、会社として分けてしまうという選択肢を他行では取られているが、主に個社としてお考えになることかと思うのですが、会社として分けるということに対するお考えというか、そこまで必要なのかどうかとか、それじゃなくても十分なのかとか、そういうことについてお考えをお聞かせいただきたい。

答:

事実を申し上げれば、今回、3月1日付で、私ども個社として、会社の中にスチュワードシップ委員会を設けました。このスチュワードシップ委員会は、いわゆる第三者の目を入れるということで、委員長は社外の取締役とし、さらに有識者を加えて過半数が社外の方という構成で設置しました。
ただ、モニタリングをする対象は受託財産運用、我々でいう他人勘定という言い方が一般的なのかはわからないのですが、企業年金等々を中心とした信託財産に関する運用全体のガバナンスであるとか、議決権の行使であるとか、あるいは、最近多様化しているパッシブ運用におけるエンゲージメントであるとか、こういった観点でモニタリングをきちんとやるということを目的に設けましたので、会社を分けて云々ということでなく、この形で進めたいと思って判断した結果です。

信託銀行の兼営業務

問:

信託銀行の兼営と併営についてお伺いしたい。「信託業務以外のことに力を入れ過ぎではないか」という声がある一方で、信託業務だけでご飯を食べていけるかと言うと、信託報酬ははっきり言ってもの凄く多くないし、信託業務は本来の業務から言うとそこであまりお金を儲けてはいけないようにも思うので、併営・兼営に力を入れてそこで収益を上げることが本当に悪いことなのかなと思ってしまうのですが、この辺について、信託銀行のトップとしてどのように思われているか。

答:

信託が担う商品・サービスというのは、先程、冒頭の発言でも触れましたように、少子高齢化の中での商品なども多数ございますし、法人向けで申し上げましても、先程来、スチュワードシップ・コードの話が出ていましたが、一方で、コーポレートガバナンス・コードに対して、従前から、証券代行業務に携わっている延長線上で、例えば、監査等委員会設置会社に移行する際のコンサルティング業務であるとか、こういったことを色々手掛けてきております。
何を申し上げたいかと言うと、私どもも、商品・サービスのレベルを上げて、そのレベルに相応しいフィーをいただくといった努力をしないといけない。薄利多売のイメージがあろうかと思いますし、長年にわたる契約なので年数をかけながら収益をいただくという発想も従前からあるのですが、信託が果たせる役割というのはそれだけではない。信託としてのコンサルティング的なところもそうですけども、今申し上げたような新しい発想を信託商品としてご提供していく。
例えば、私どもの商品名で言えば、役員報酬のBIP信託というものがあるのですが、これを管理・運営していくソリューションは当然私どもが携わっており、このノウハウは企業年金のポイント管理のノウハウを使っているのです。
こういったことも含めてお役に立てる、あるいは、今までにないものを開発し、それに対してフィーをいただくといったことはずっと努力を続けていきたいと思う。それなくしては、何のサービスレベルも上がっていないのに、フィーを値上げするのか、それはやはりお客様にとっては納得できないことだと思いますので、そういった観点がWin-Winということだと私自身は思っておりますので、そういう努力は必死になってやらなければいけないと思っています。

以上