会長就任記者会見(みずほ信託銀行 飯盛社長)

2017年04月04日

冒頭、振角専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長にみずほ信託銀行 飯盛徹夫取締役社長が互選により就任したこと、また、新副会長に三井住友トラスト・ホールディングス 大久保哲夫取締役社長が、新一般委員長にみずほ信託銀行 澤和久取締役副社長がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第92回信託大会を4月17日(月)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非出席いただきたい旨の案内および平成29年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。

会長就任の抱負

このたび、信託協会会長に就任いたしました飯盛でございます。
これから1年間よろしくお願いします。就任にあたりまして抱負を2点述べたいと思います。

既にご案内の通り、信託制度は我が国社会経済の重要なインフラとして発展を続け、昨年11月には信託財産総額は1,000兆円を超える規模にまで拡大しました。直近3年を見ても約200兆円もの大きな伸びを示しており、信託への期待は高まっていると考えております。
 
そのような中、抱負として第一に申し上げたいことは、信託機能を十分に発揮することにより、社会・経済の発展・成長に貢献すべく努力して参りたいということです。
 
少子高齢化の進展を背景に、円滑な資産承継や財産管理に関するニーズは着実に増えており、「遺言信託」や「遺言代用信託」、「後見制度支援信託」などの信託商品の利用が拡大しております。また、世代間の資産移転に資する信託商品である「教育資金贈与信託」や「結婚・子育て支援信託」は、多くのお客さまにご利用いただいております。引き続き、こうした商品の普及に努めていくとともに、お客さまの多様なニーズに応えて参りたいと考えております。

現在我が国においては、国民の安定的な資産形成の実現に向けて様々な取り組みが進められております。 こうした中、我々は資産運用や資産管理などの重要な役割を担っていることを確りと認識し、顧客本位の業務運営に努め、貯蓄から資産形成への流れを加速させるとともに、運用を受託する機関投資家としてスチュワードシップ責任を果たし、受益者の中長期的な投資リターンの拡大に尽力して参ります。
また、本年1月に、個人型確定拠出年金の加入対象者の拡大やリスク分担型企業年金の導入がなされましたが、こうした年金制度の普及・発展にも力を注いで参りたいと考えております。
信託制度は多様性や柔軟性といった特性を有しており、我々信託の担い手一人ひとりがこうした特性を活かして創意工夫に努め、新たな商品・サービスの開発・提供に知恵を絞り、社会・経済の発展・成長に貢献して参りたいと考えております。信託協会としても、これまで培ってきた経験を活かして、税制改正や規制改革等の要望・提言を行って参る所存でございます。

抱負として第二に申し上げたいことは、信託に対する『信頼』の向上に努めて参りたいということです。 お客さまのニーズが多様化し、信託の活用領域が拡大する中、信託に対する期待はますます高まっております。こうした期待に確りと応えていくために、フィデューシャリー・デューティーを全うし、信託に対する一層の『信頼』の向上に尽力して参りたいと考えております。

以上、信託協会会長としての抱負を述べさせていただきました。引き続き信託協会の活動につきまして、ご理解、ご支援をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

以下、質疑応答

信託財産額の増加の背景

問:

信託財産の総額が1,000兆円を超えたことについて、最近大きな伸びを示している背景分析をどう考えていらっしゃるか。期待が高まっているということですが、その期待に今後どう応えていかれるのか。先ほど顧客本位の業務運営という言葉もありましたが、一方でお客さまからするとまだまだ顧客本位が実践できていないのではないかという声があるのも事実かと思います。
そういった意味で協会としてフィデューシャリー・デューティーにどうやって取り組まれていくのかも含めてお答えいただければと思います。

答:

まず、急激な伸びを示している訳ですが、2004年に信託業法が改正され、いわゆる担い手並びに受託財産の範囲が拡大されました。その後、信託法の改正も経て、例えば遺言代用信託や後見制度支援信託という商品も販売され、信託というものが大変身近なものになってきているのではないかと思います。加えて、我が国が直面している様々な課題に応える形で、税制も確りと対応していただき、教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託といった商品を販売してきております。こういったところが拡大の背景にあると考えます。
一方、フィデューシャリー・デューティーの実践については、まだまだ不十分な部分があるのではないかというご指摘でございます。フィデューシャリー・デューティーは、昨今、顧客本位の業務運営と訳されておりますが、信託は委託者が受託者に財産権を移転し管理・運用するという制度であり、従来より、信託業界では「受託者責任」という言葉で委託者の信頼に応えることを信託業務の真髄と考えております。
「受託者責任」には3つの義務がございます。第一は「善管注意義務」でございます。善管注意義務を果たすために高度な専門性を磨くべく研鑚をしていく。第二は「忠実義務」でございますが、この忠実義務の根本をなすのが利益相反管理でございます。第三はいわゆる「分別管理」であり、分別管理した資産に関する情報の提供でございます。
只今申し上げたように、業界といたしましては、一般的なフィデューシャリー・デューティー、つまりベストプラクティスの部分、プリンシプルとその後のベストプラクティスということ以上に、重い、いわばハードローとしての受託者責任を担って参りました。今日的な課題も含めてこのフィデューシャリー・デューティーというものを、インベストメントチェーンに関係する各社のなかでも、我々はリードして実践していきたいという所存でございます。

スチュワードシップ・コードの改訂(案)

問:

先ごろスチュワードシップ・コードの改訂(案)が出てきていますが、これに対する協会としての受け止めを教えていただけますでしょうか。

答:

スチュワードシップ・コード改訂(案)につきましては、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」、「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」等における提言・議論を通じて、極めて質の高い内容になっているものと考えます。
運用機関のガバナンス、利益相反管理、エンゲージメントの拡大並びに議決権の行使結果の開示、こういったところについては業界各社も確りと対応をしているところでございますが、新たなスチュワードシップ・コード改訂版、これはまだ(案)の段階ではございますが、これを確り受け止めて対応していきたいと考えております。

相談役・顧問制度について

問:

経産省の研究会でガバナンスに関する報告書が出ており、その中でトップ経験者が相談役や顧問についたときの役割の明確化などについて盛り込まれています。日本企業は往々にしてトップ経験者が相談役・顧問に就いています。それは財界活動を担うためという一定の意義はあるわけですが、一方で現経営陣に対して別の形の権力の構造があるのではないかという指摘もあるかと思います。
飯盛会長はみずほのガバナンスの制度設計もされておりますし、銀行として取引先企業をいろいろ見てこられたと思いますが、この日本企業特有の相談役・顧問という制度について、どのようにお考えでしょうか。みずほの例も交えて教えていただければと思います。

答:

経産省の研究会で報告書が出されたことは承知しております。また、お話がございましたように、いわゆる財界活動ですとか財団の活動、社会貢献でしたり、あるいは過去の経験を活かして内外の広いネットワークをお客さまとのリレーションに使っていただくということが相談役・顧問の活動の中心だと思われます。但し、各企業で多様でございますので、一言でこういう形といったことを申し上げることは難しいと思います。
信託業界においては、コーポレートガバナンス・コードに関し、ガバナンス改革の中で相談役や顧問制度についても一定の役割を確りとアカウンタビリティーを持って示すような内容を含めたアドバイザリーをさせていただいております。そういった点において、業界としても透明感を高めていくということについてお役に立てるのではないかと考えます。
みずほの例ということでございますが、私どもの場合は、指名委員会等設置会社でございますので、社外取締役を中心とした指名委員会や報酬委員会で重要な役員の選出、報酬の決定がなされております。私どもの場合は顧問でありますが、何か影響を及ぼして改革の妨げになっているということはないとはっきり申し上げられます。

ロシアの地下鉄テロ事件による日ロ経済への影響

問:

今朝ロシアにおけるテロの報道がありましたが、年末に日ロ首脳会談があり経済協力も行っているということですが、テロの日ロ間の経済協力への影響について、所感を教えていただけたらと思います。

答:

協会長としてお答えする内容ではないと思いますので、私個人として回答します。まず、ロシアの地下鉄のテロでございますが、これはテロと断定されたかも寡聞でございますが、いずれにしろ痛ましい事故であり、被害にあわれた方にはお悔やみとお見舞を申し上げたいと思います。また、ロシアとの経済関係はますます緊密になりつつあるところであり、滞在していらっしゃる方、あるいは渡航する方の安全等については確りと注視して参りたいと思っております。
報道によると、安倍首相は、ロシア国民と日本は共にあると仰っていたかと思います。あくまで私見ですが、本件をもって日ロの経済関係に影響が及ぶということには繋がらないのではないかと考えております。

日本銀行のマイナス金利、金融政策について

問:

日銀が導入しているマイナス金利、今の金融政策についての評価を改めてお伺いしたい。

答:

マイナス金利については、昨年の2月から導入されておりますが、目標としているところは物価上昇率2%を実現することだと思います。今のところ残念ながら物価の2%という目標は達成をされておりませんが、一方で直近の日本経済を見ますと、間違いなく緩やかな回復というところで上昇基調にあるということかと思います。
マイナス金利については、プラス面マイナス面がございます。プラス面でいえば、金利低下が進んだ結果、社債の発行残高がかなりの額に上っているなど企業の資金調達面で好影響が出ているということでございます。
一方マイナス面を申し上げれば、預貸金とも金利が下がっていることによって、金融機関の経営におけるマイナス、また、金利が下がることによる企業年金におけるPBOが拡大してしまうことが挙げられます。
何れにしろ、プラス面マイナス面を見極めつつ、今後もマーケットとの対話、それから関係者との議論を確りと進めながら政策目的に対して、達成に向けて努力をしていただきたいと考えます。

信託業務の兼営について

問:

昨今話題になっている銀行業務と信託業務の関係はどうあるべきか、利益相反等、信託協会長として、どのようなお考えかお聞かせいただきたい。

答:

先程申し上げましたが、信託銀行にとって受託者責任、つまり信託業務に携わることの受託者責任の重さということは、まさに関係者が最もよく理解しているところでございます。2004年に信託業法が改正され信託を扱うことが出来る事業者が拡大した際、協会といたしまして倫理綱領を制定しております。その中に忠実義務を明記しており、そこに利益相反管理について記載しております。また今日的に改定を続けており、倫理綱領の解説において、利益相反管理に関してプリンシプルを示すだけでなく、ベストプラクティスを例示しております。
このような取組みを行っているわけでございますが、こういったことを確りといろいろな機会でお示しするとともに、議決権の開示の問題等、今日的な課題を通じて、確りと利益相反管理についての徹底を図って参る所存でございます。また、そのことについては、加盟各社についても確り取組んでいただけるものと確信しているということでございます。

地方への信託の拡がりについて

問:

信託財産が総額1,000兆円を超えたという話がございましたが、地方への拡がりという点ではどのような取組みが考えられるでしょうか。

答:

私個人の経験から地方における信託業務の重要性について少々述べたいと思います。確かに地方の中には、少子化・高齢化ということでマーケットが若干縮小しつつある地域もあります。特に、地方で家庭を築いていらっしゃる方のご子息あるいは娘さまが、首都圏や関西圏へ出ている場合が多いと思われます。最初に申し上げましたが、そうした高齢者の資産保全、世代間の資産移転という意味において、信託は非常に重要な機能を持っているということをビジネスの上で実感しております。
また、ご承知の通り地方には地域金融機関があり、それらに対し信託が持つ機能を確りと訴求し、協働することによっても、信託の普及を促進出来るものと考えます。

信託銀行の兼営業務・併営業務について

問:

信託銀行は信託業務だけをすべきではないかという声もあると思いますが、兼営・併営の理由、意義は何でしょうか。

答:

まず言葉を整理させていただくと、兼営法は金融機関が信託業務を営むということに加えて、例えば証券代行や遺言の執行などの併営業務を営むことができることとなっております。ご質問は銀行業務と信託業務を一緒に行うことの意義は何か、ということだと思います。
これについては、銀行の機能を併せ持つことで迅速な信託業務の遂行に役に立つ面もあると考えます。勿論信託銀行は信託勘定と銀行勘定を分別し、その間の利益相反を厳格に管理しているということは先程申し上げた通りです。これは幅広く、お客さまのためにスピーディーに信託業務を遂行していく上で一緒に行うことが有用であり、信託銀行という業態が現在確りと機能しているということをもって意義があるとご理解いただければと存じます。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の普及について

問:

先程の抱負の中で個人型確定拠出年金(iDeCo)の話が出ました。iDeCoがスタートして約3か月経過したと思いますが、出だしについてどのように考えていらっしゃいますか。

答:

当初はなかなか世の中の理解が進んでいない部分があったかと思いますが、1月は月間3万件くらいの増加があったということですので堅調であると考えています。信託業界は我が国の年金制度に深く関わっていますので、その普及促進に確りと役割を果たしていきたいと考えています。

地方銀行による不動産業務の兼業について

問:

信託機能を確りと提供していくために銀行の機能を使ってやっていくとなると、地方銀行が不動産業務や信託業務をやってもいいということにならないでしょうか。

答:

地方銀行が不動産業務を営むことの可否について、信託協会としてはお答えする立場にはありません。

以上