会長定例記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 大久保社長)

2018年10月18日

冒頭、振角専務理事より、本日の理事会において「規制改革に関する提案」を取りまとめ、内閣府 規制改革推進室宛てに提出したこと、信託統計のポケット版を作成したことの報告を行った。

半年間の振り返り

信託協会長の大久保でございます。
それでは、この半年間を振り返りまして、これまでの活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。
協会長就任時に所信として、「信託機能の活用を通じた社会・経済の発展への貢献」、「変化への対応と安心の提供」の2点を掲げ、活動してまいりました。
「信託機能の活用を通じた社会・経済の発展への貢献」と致しましては、少子高齢化が進展する中、円滑な資産承継や財産管理を後押しする「遺言代用信託」や「後見制度支援信託」、世代間の資産移転により経済活性化に資する「教育資金贈与信託」等の信託の特性を生かした商品の更なる普及に努め、引き続き多くのお客さまにご支持を頂戴しました。
また、機関投資家として「スチュワードシップ・コード」に基づき、投資先企業との建設的な対話に努めるとともに、代行機関としては、コーポレートガバナンス・コード改定を踏まえ、各企業のコーポレートガバナンスの深化・機関投資家との対話の深化に係る取組みを積極的に後押ししてまいりました。
これらの取り組みに加え、信託経済研究会において、高齢社会における信託・金融サービスのあり方をテーマに、高齢者の資産運用やフィンテックの活用について研究を行うなど「変化への対応」に資する活動も継続しているところです。

次に、今年度の税制改正要望でございますが、9月の理事会にて、信託の活用促進等に関する要望を盛り込んだ「平成31年度税制改正に関する要望」をとりまとめました。この場では、主な項目3点について概略をご説明申し上げます。
まず、平成31年3月末日に措置期限を迎える「教育資金贈与信託に係る贈与税非課税制度の恒久化・制度改善」についてご説明申し上げます。
本制度は、多くの方々にご利用頂く中、当協会の実施したアンケートにおいても、本制度が教育機会の充実へ寄与していること、将来的な利用ニーズが高いこと、が示されました。これらも踏まえ、我が国の教育機会の充実・人材育成等に資する本制度の恒久化を要望するものです。一方で、利用者の皆様からは、更なる利便性向上・負担軽減に対するご要望も頂戴しており、これらの実現に資する制度改善要望も合わせて実施しております。
次に、同じく措置期限を迎える「結婚・子育て支援信託に係る贈与税非課税制度の恒久化」です。世代間の資産移転を通じた若年層の結婚・出産・子育ての後押しや消費活性化を一層促進する観点からも重要な制度であることから、恒久化を要望するものです。
最後に、「事業承継税制の信託への適用」について申し上げます。事業承継税制は、昨年度税制改正にて抜本的に拡充されましたが、信託を用いた事業承継は引き続き対象外とされております。円滑な事業承継の実現を促していくことは、我が国の重要なテーマの1つでもあることから、信託を活用した場合も事業承継税制の適用対象とすることを要望するものです。

以上、この半年間の活動状況についてご報告申し上げました。残る半年につきましても、税制改正要望活動のほか、信託関連法の改正を検討中の韓国への現地調査やアジア諸国の業界団体等との交流を通じたノウハウ・知見の提供など、所信の実現に向け尽力してまいりますので、引き続き、ご理解、ご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

以下、質疑応答

共通KPI

問:

金融庁の共通KPIについてお伺いしたい。顧客が金融商品を選ぶ目安として成果指標(共通KPI)を順次公表している。金融商品のひとつである投資信託等の販売窓口として信託業界の果たす役割は重いと思うが、こうした動きについて見解をお聞かせ願いたい。

答:

「貯蓄から資産形成へ」の流れの中で、投資信託の販売や運用に対する信託業界の位置付けは大変重たくなってきていると考えています。信託銀行に限らず各金融機関が、顧客本位の業務運営の取組みを進める中で、「見える化」をさらに促進する観点、お客さまの立場からすると、各金融機関の取り組みの進捗・定着度を客観的に比較・評価できるという観点から、今回の共通KPIは非常に意義があると思っています。また、金融機関としても、このようなデータの公表を通じ、お客さまのリターンの向上を高めていく努力を続けていくものと考えています。

地銀の信託業務参入

問:

相続ビジネスに注目して、地方銀行を中心に信託業務に進出する事例がこの半年間の間に見受けられる。協会としては裾野の拡大という意味では歓迎すべきことと思われるが、一方で個社としては競合相手が増えるとも考えられることから、協会と個社の立場として、立場の違いというものはあるか。

答:

協会としての立場で申し上げれば、地方におけるお客さまのニーズの多様化、高齢化への対応ということも進めなければならない中で、これまで以上に地方銀行を中心に、信託への本体参入や信託代理店制度の更なる活性化の動きがあります。こういった動きは信託制度の普及・発展の観点から、歓迎すべきものと思っています。
個社の立場としても、各信託銀行は地方銀行と色々な形で密接な取引を行っており、信託制度の普及・発展が地方にも広がっていくにあたって、様々な形で地方銀行と役割分担をしてサポートすることで、信託制度が日本全国に広がっていく、というメリットがあると考えています。
信託制度は安定的・継続的な業務体制を構築する必要があるので、例えば業務フロー構築のためのコンサルティング等を通じて、これからも積極的にサポートしていきたいと考えています。

信託に関するアジア諸国との交流

問:

就任時に掲げられた韓国との交流について、今月実施されたかと思うが、今後、ノウハウを提供していくなかで、この半年間でどういった進展があったのか。

答:

韓国への訪問は来週になります。これまでも、中国や韓国の信託の関係者が来られて意見交換しています。
ご承知の通り、韓国においては、日本以上に少子化・高齢化のスピードが速まっています。そういった中で先方の金融業界や個別行は、日本の信託業界が持っている教育資金贈与信託や遺言代用信託、後見制度支援信託等の高齢者向けの資産管理・資産承継のノウハウに大変高い関心を持っています。日本の制度がそのまま諸外国のマーケットに合っているかどうかはわかりませんが、我々の経験やノウハウを提供してアジア各国の発展に貢献できればと考えています。

仮想通貨

問:

仮想通貨について、4月の会見時から、当局の判断や個社の取り組みも重視する中で、スタンスが変わりないかということと、今般、流出事件もあったことで、スタンスの変化があれば、今後の見通しも含めて教えて欲しい。

答:

仮想通貨に関して言うと、当局での検討を含め、色々進んでいると思います。その間にも色々な事象がありましたが、例えば、「仮想通貨交換業等に関する研究会」が開かれていまして、私どももオブザーバーとして参加させていただいております。そういう中でも、仮想通貨に関する色々なビジネスを適正に行っていく上での必要な制度等に対する議論がなされていると思っています。
例えば、ご存知かと思いますが、倒産隔離と言うことで信託を義務化するというような議論も出ています。信託業界からすると、信託の義務化ということについては少し難しいのではないかと思います。大きく理由としては2つ。例えば信託銀行自体の受託のキャパシティというものがボトルネックとなり、なかなか進まないということが危惧されることと、個別の信託銀行、信託会社にしても、受託審査ということで、ある意味ビジネスジャッジをしながら受託をしていますので、義務化となると、ビジネスジャッジと義務化というところの中で、齟齬が生まれてくるのではないかという疑念を持っています。
また、仮想通貨自体の私法上の位置づけが明確になっていないので、その辺りの整理を待ちたい。整理がなされれば、また次の展開ということが出てくると思います。個社ベースで言うと、当然、どのようなビジネスになるか、というところは引き続き調査研究を継続しています。

個人情報の信託の受託

問:

個人情報を預かり、それをビジネスにするという情報銀行というものがアイデアとして出てきており、実証実験も始まっている状況である。個人情報が信託の受託財産にあたるのかというところも、論点としてあると思うが、会長として、どのようにお考えか。

答:

今、情報銀行とか情報信託とかいう言葉が出ていると思いますが、個人情報も含めて、様々なデータをさらに利用・活用していこう、という流れは非常に歓迎すべきだと考えておりますし、この辺りのビジネスが拡大することについては、それはあるべき方向ではないかと考えています。この情報銀行とか情報信託というものに関しては、かなり個社毎の判断での取り組みということになっていますので、協会長としてのコメントは差し控えたいと思っています。
個社ということで申し上げますと、私どもも、複数の企業とコンソーシアムを組んで、調査研究をしている事実はあります。
もう一つの質問については、情報の利活用ということで、銀行なり信託銀行ということのある意味の信用というものが、制度の発展にプラスに働くことについては、期待されているということも含め我々としては真摯にしっかりと受け止めていきたいです。

問:

協会として、あるいは業界として、個人情報を信託の財産としてどう取り扱うかの研究については、今どういう状況か。

答:

個人情報が、信託として、いわゆる信託法上とか信託業法上の信託財産として受託できるかどうかというところまでの検討はまだ行っておりません。

銀行の窓口網の維持

問:

少子高齢化が進んでいく中で、銀行、特に地方銀行では、色々なコストを考えると、過疎地の支店の維持ができなくなるところも数多くあるとお聞きするが、信託こそ少子高齢化、特に高齢化時代の力強さを発揮しなくてはいけない業界だと思うが、窓口網の維持について、課題や改善策を業界で考えていることがあったら教えて欲しい。

答:

個社ごとに考え方が異なるので、個社ベースで申し上げますと、信託銀行は支店の数が国内でも限られています。それを補完するために、例えば地方銀行と信託代理店の契約を結ぶことで、お客さまとの接点を広げています。引き続き、地方銀行や信用金庫のネットワークを活用させていただいて、隅々までというのは難しいかとは思いますが、全国ベースで信託に対する色々な期待にはお応えしていきたいと思っております。信託ビジネスですので、毎週や毎月お会いしないといけないということではなく、ある程度、例えば、地方銀行の支店ともちょっと離れているというところでも、色々なお客さまの対応の仕方というのがあるのだろうと思っています。

規制改革に関する要望

問:

規制改革に関する緩和要望を出しているが、共通して重視した考え方はあるか。

答:

まずは、私からお答えし、その後、振角専務からも補足をさせてください。信託という制度が活用されている分野がかなり広がっていますので、見ていただくと、かなり幅広い分野で、簡素化、緩和、見直しという項目が多くなっています。一つ一つの信託制度の活用範囲が広がっていく中で、手続きが、利用される方の負担になっているところがありますので、さらに制度の活用を広げるといった観点からも、色々な緩和措置をしていただきたいというのが全体の考え方です。

(振角専務理事)
細かく言うと、(要望項目の)1から3までが金融関係、4以降が年金関係です。年金関係が多いのは、項目13にも書いてありますが、昨年、リスク分担型企業年金という新たな制度ができたため、それに伴ってより簡素化してほしい、利用者利便の向上につなげたいといった要望が出てきたためです。手続きの簡素化や利用者利便の向上という観点から、色々なところから出てきた要望をまとめています。

マーケットの動向

問:

マーケットの動向についてお伺いしたい。米国金利が急ピッチで上昇し、今後もFOMCの利上げ路線が続くとなれば、金利の先高観が続くということになり、外債運用している信託銀行のバンキング業務としても一定の含み損も懸念する状況になると思うが、協会としてどのように受け止めているか。

答:

個社としてお答えします。
一般的なマーケットの見方ということですが、今の米国の長期金利は3.2%程度ですが、それが絶対値として高いかどうかということは別として、確かに近時やや上昇傾向にあります。これは、ある意味好調な米国経済を反映した金融政策がとられているということですので、これが何か意図する動きであるとは感じておりません。一部の新興国、アルゼンチンとか、トルコとかが、多少為替の問題、金利の問題ということで影響を受けているとの報道もありますが、各国のファンダメンタルズに基づく動きになっているのではないかということで、それが横の国に伝播していく動きにはなっていないと考えています。
外債運用については、個社ベースでお答えいたしますが、各社とも様々なヘッジ手段や、ポジション調整を行っていると思いますので、これが業界として大きな影響にはならないのではと感じています。

以上