会長定例記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 大久保社長)

2019年03月22日

1年間の振り返り

信託協会会長の大久保でございます。
昨年4月の会長就任からまもなく1年が経過致します。この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心より御礼申し上げます。
私は、会長就任に当たりまして、所信として、「信託機能の活用を通じた社会・経済の発展への貢献」と「変化への対応と安心の提供」の2点を申し上げました。
本日は、信託協会会長として最後の会見となりますので、この2点に沿いまして、この1年間を振り返りたいと思います。

まず、「信託機能の活用を通じた社会・経済の発展への貢献」についてです。

毎年取り組んでおります税制改正要望や規制改革要望におきましては、経済の発展や社会の課題の解決に貢献すること、信託の活用促進等に資することを念頭に提言を行って参りました。

特に、平成31年度税制改正要望活動においては、制度の恒久化、少なくとも延長を要望していた教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託に関する一括贈与の贈与税非課税制度について、2年間の延長が措置されることとなりました。
これらの制度は教育機会の充実や世代間の資産移転を通じた消費・経済の活性化に資するものであり、今後制度が更に利用されるよう普及に努めて参りたいと考えています。
この他、昨年10月には信託関連法改正の動きのある韓国への現地調査を実施し、監督当局や業界団体、信託業を営む金融機関との意見交換を行う等、アジア諸国における信託制度の普及・発展に資する活動にも取り組んで参りました。
更に、公益信託法制の見直しについては、当協会も議論に参加して参りましたが、2月に開催された法制審議会総会にて改正に関する要綱が決定し、答申が行われました。とりまとめにご尽力頂いた関係者の皆様に改めて感謝申し上げるとともに、私どもといたしましては、引続き公益信託の健全な普及・発展に貢献して参りたいと考えています。

次に、「変化への対応と安心の提供」についてです。
当協会では、有識者の方々で構成する信託経済研究会において、「高齢社会における信託・金融サービスのあり方」をテーマに研究を行って参りました。本会においては、急速に変化する社会・経済の情勢を踏まえた高齢社会における信託や金融サービスのあり方について研究を行い、12月の信託経済コンファレンスにおいて有識者の方々よりその成果についてご報告頂きました。

また、安心の提供という観点では、信託セミナー等を通じ、法令遵守等に関するテーマについて協会加盟会社への啓蒙・情報提供に努めて参りました。
こうした1年の活動は、当協会の目的である信託制度の普及・発展に資するものであったと考えている次第です。今後とも、時代の要請やニーズを踏まえた商品・サービスのご提供に注力するとともに、信託への信頼の確保に努め、社会・経済の発展に貢献して参りたいと思っています。

以上がこの1年間の簡単な振り返りになります。
これまで申し上げた取り組みや成果は、当協会の活動に関係する全ての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。

最後になりますが、会長会社としての務めは、4月に三菱UFJ信託銀行さんに引き継がせていただきます。皆様におかれましても、今後とも信託協会の活動に対して、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

以下、質疑応答

アジア諸国交流

問:

アジア諸国との交流や研究について、韓国調査を含め、これまでの取り組みについてお伺いしたい。

答:

信託協会としては、これまでも韓国に限らず、中国や台湾の信託協会との交流や調査を通じ、各国の信託制度や活用状況に関して、情報収集するとともに研究を行って参りました。
昨年10月に、信託関連の法改正の議論が行われている韓国に往訪し、監督当局や金融機関の実務者等と意見交換を行っています。
韓国は、我が国と同様か、それ以上に高齢化が進展しています。こうした環境の中、韓国の金融機関においては、例えば日本で言う遺言代用信託等の高齢者向け商品の開発・提供に努めていますし、さらに、それを促進させるために、信託関連法制の整備に関して検討が行われているということで、我々が蓄積してきた色々な知見・経験をご説明するとともに、色々な情報交換を行ってきました。
これからも韓国に限らず、アジア諸国に対して、我が国の信託の発展の歴史を説明すること等も含めて、制度の発展に貢献して参りたいと考えています。

人生100年時代への貢献

問:

「人生100年時代」に備えて、信託業界としてどのような貢献が出来ると考えているか。

答:

これまでも急速に進む高齢化社会の対応と言うことで、遺言代用信託や後見制度支援信託等の資産管理・承継等に関する信託商品の提供に努めてきました。
以前から信託経済研究会というものを当協会で作っていまして、この研究の成果をご報告頂く場となる信託経済コンファレンスにおいては、学者や実務家の方々から様々なご示唆を頂いています。例えば具体的には、加齢と認知機能・金融判断能力の変化を踏まえた金融サービスのあり方等についてご示唆を頂戴したところです。
金融審議会市場WGでも、「高齢社会における金融サービスのあり方」で信託に関する議論が行われており、当協会もオブザーバーとして同WGに参加し、これまでに得られた知見等をご説明しています。
信託業界としては、このような活動も通じて、引続き、これは個社ごとと言うことになるかもしれませんけど、時代の要請や日本の社会構造の変化に応じたサービス・商品を提供していきたいと考えています。

FATF第四次対日相互審査に対する信託業界としての対応

問:

マネロンの関係で、今年、FATF第四次対日相互審査があると思うが、信託業界の対応はどういう状況になっているのか教えて欲しい。

答:

信託を含めた日本の金融業界に関して、非常に重要な対応であると思っています。第四次対日相互審査が今年ありますが、金融庁のマネロン・レポート(「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」)でも、信託業界の一部の対応の遅れというご指摘を受けています。
こういうことにも対応して、信託協会としても加盟会社に対して、経営者向けのものも含めて複数のセミナーを開催したり、現状のヒアリングを行ったりというような活動を行っていますが、引続き監督官庁・業界団体と連携してしっかりと対応していかなければならないと思っています。

仮想通貨

問:

暗号資産の信託に関しては、協会としても研究をされていたかと思うが、具体的なニーズや今後の対応等、進んでいるのか。

答:

仮想通貨に関しては、これまで、金融庁の研究会(仮想通貨交換業等に関する研究会)でも、仮想通貨をこれから普及・発展させていく上で、信託はどういう役割があるのかという検討がされています。我々もそこで当協会としての意見を申し述べてきているところですが、具体的な動きに関しては、個社の対応ということになると思いますし、仮想通貨自体に関しては、まだ一部私法上の取扱いも明確でないというところもあります。
以前もご質問があった仮想通貨の受託の可否についても、協会として何か申し上げるタイミングにはないと思っていますが、各社ごとの色々な調査・研究というのは引続き進められているという認識です。

マイナス金利

問:

マイナス金利から3年。年金運用への影響について、どのように考えているのか。

答:

このような低金利の状態が続いているので、運用に関して言うと、全般に関してはマイナスの影響ということになります。そういう中で年金の運用については、例えば、オルタナティブな運用だとか、株式だとか、海外の投資商品だとか、かなり運用対象のスコープを広げて、個社ごとに対応してきていると思います。今はある程度長期、安定的な運用として国内債をベースとしていたような以前の運用環境と大きく変わっているので、各社それぞれ工夫をしながら、対応してきているということだと思います。

問:

オルタナティブにしろ、株式にしろ、一般的にボラが高い商品の運用が増えているのだと思うが、年金は比較的、長期安定運用とか、あるいは年金システムの安定性の観点からいうと、マイナス金利でおのずとそういった世界に行かないといけないが、そうすると今言ったような、長期とか安定性とかといった観点から、影響はないのか。

答:

国債の金利が以前のようなレベルであった時と今と比べて、結果としてどうだったのかはコメントしにくいですが、年金資金の性格というのは長期で安定的に運用するという性格の資金です。投資対象をオルタナ商品や海外の色々な運用対象に広げていくとなっても、分散であったり、何らかのヘッジ機能を持って効かせるというようなリスク管理面について、従前以上に各社とも相当力を入れ、年金資産の性格も踏まえた運用に対応していると思います。

マイナス金利、外貨建て保険

問:

財務大臣からは日銀の金融政策を巡って、例えば2%の物価上昇目標に対する発言が相次いでいるが、率直に、現状のマイナス金利政策に対してどう評価しているのか。

答:

私どもは金融政策に対する評価を申し上げる立場にはありませんが、一般論として申し上げれば、金融政策は影響の範囲が非常に大きく、プラス、マイナス両面の影響があり、そのバランスが重要であると考えています。例えば超低金利政策が続いていると、景気刺激面ではプラスの影響がある一方で、マイナス面では、金融機関の業績への影響があります。それ以外にも、年金や預金の低金利が非常に長く続くとなると、高齢化という社会構造変化もありますので、一般的には消費に対するマインドは少し保守的になると思われます。また、国債の流動性等で、マーケット自体の機能に対するマイナスの影響もあるのではないかと思います。要するにプラス、マイナスのバランスを勘案して金融政策がとられていく、ということだと思います。

問:

プラス、マイナス両面があるが、どちらかといえばマイナス面の影響が上回っているという認識か。

答:

定量的な分析は難しいと思います。ただし、このような状況が長期化することになると、従来よりはマイナス面の影響が増えるのではないかと思います。

問:

苦情が増えている外貨建て保険について、全銀協が生保協会と共同で実質利回りを記載した募集用の補助資料を窓口の現場で配付するとのことであり、信託協会としても資産形成に資する保険商品の販売を行っていると思うが、どういった対応をするのか。

答:

信託協会宛の外貨建て保険に関する苦情等は特にありませんが、個社としてお答えすると、外貨建て保険については従前から商品特性やリスク等に関してしっかりとした説明をしています。また、販売時のルールとして高齢者に対してはご家族の同席をお願いしています。ここにきてお客様からの声も出てきているので、分かりやすい説明資料の提示や、実質利回りの提示についても検討しています。

問:

協会としては今検討していることはないのか。

答:

信託協会はあくまでも信託関係の業界団体であるので、個社での対応になります。
もし信託協会宛に外貨建て保険に関する苦情・相談があれば、適宜、関係先にフィードバックしていくことになると思います。 

消費増税

問:

昨日、FRBが当面の利上げを見送るという発表をしており、海外景気などを中心に落ち込みも目立つが、10月の消費増税を予定通りするべきかどうか考えを伺いたい。

答:

信託協会の立場ではなく、個人の考えになります。21日にFOMCで2019年の利上げはなく、9月末で資産縮小停止という発表がありましたが、ヨーロッパと米国から見た海外経済の鈍化、それに伴う米国経済の成長の減速というものを受けたものだと理解しています。国内外の経済情勢については、今のところは、欧州や中国の経済の減速、ブレグジットの影響、米中の貿易摩擦の影響等々、懸念材料はあるものの、経済成長のスピードが従来より落ちてきたというレベルだと思います。
日本経済を振り返っても、実感なき景気拡大といわれていますが、少子化の関係により人手不足で賃金は上昇傾向、設備投資については、中身は合理化・省力化であるものの、拡大傾向にあります。そういったことから、ある程度、景気拡大は緩やかであるが継続するという前提に立つと、日本の財政状況や消費税増税の副作用に対する対応が手厚く行われる予定があり、基本的には予定通り消費税増税を行うことに対して、それを妨げるものはないのではないかと考えています。

以上