会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 池谷社長)

2020年03月19日

冒頭、振角専務理事より、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から会見会場を変更した旨、ならびに政府の基本方針を踏まえた当局からの要請について当協会から加盟会社に周知し、信託業界としても感染拡大の防止に鋭意、取り組んでいる旨の説明を行った。

1年間の振り返り

信託協会会長の池谷でございます。
昨年4月の会長就任から、まもなく1年が経過致します。
この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心より御礼申し上げます。

なお、足元、今、専務理事からもありましたように、新型コロナウイルス感染症につきましては、国を挙げて取り組んでいる状況でございまして、関連するご質問も後ほど出てくるかもしれませんが、まずは、協会長として、この1年を振り返った当協会の取り組みをお話しさせて頂ければ幸いでございます。

さて、私は、会長就任にあたって、所信として、「信託に対する信頼の維持・向上に努めてまいりたい」、ならびに「信託制度の活用によって、社会・経済の持続的な発展に貢献してまいりたい」と申し上げてまいりました。
その中から、まず、「信託に対する信頼の維持・向上」につきまして、触れさせて頂きます。

金融業界では、顧客本位の業務運営の定着や、高齢社会への対応が急がれるとともに、フィンテックの活用など様々なイノベーションが進み、あるいは進められようとしております。
そうした中、社会・経済を支えるインフラとして、信託の果たすべき役割はますます大きくなり、足元の1,200兆円を超える信託財産残高には、信託に対する期待やその責任の大きさが反映されているものと思っております。
また、信託の特長であります、財産の「運用」、「管理・保全」、そして次世代への「承継」といった機能が、様々な場面で活用されるところ、その根底には、「信じて託される者」としてのフィデューシャリー・デューティーの理念が、共通して存在するものと考えております。
私どもは、引き続き、安心して信託をご活用いただけるよう、信託に対する信頼の維持・向上に努め、同時にその担い手として、私ども自身が信頼される存在であり続けなければならない、と考える次第でございます。

さて、こうした「信頼」の下、「信託制度の活用による社会・経済の持続的な発展への貢献」に向けて、今年度も様々な取り組みを進めてまいりました。
当協会の主要活動でもある規制改革や税制改正の要望活動では、信託の利用促進や制度の充実を図るという観点から各種の提言を行い、その実現に向けて、関係省庁や関係団体との折衝を重ねてまいりました。
その結果、老後生活の維持・安定に重要な役割を担う「企業年金」の積立金に関して、特別法人税の「課税凍結期間の延長」が措置される見込みとなったほか、確定拠出年金の「加入年齢の範囲」が拡大されるなど、一定の成果を得ることができたと考えております。

また、今年度は、持続可能な社会・経済の実現に向けて、高齢社会、とりわけ認知・判断能力の低下に対する商品の研究・開発や、学校、各団体における金融教育の推進、さらには、企業の持続的な成長を後押しするスチュワードシップ・コードの普及や、有識者会議への参画などに、各社あるいは協会ベースで取り組んでまいりました。

そのほか、当協会では、フィンテックや金融ジェロントロジーの分野に関し、専門家をお招きし、オープンセミナーを開催したほか、協会内の経済研究会では、「SDGs」をテーマに取り上げ、協会主催のコンファレンスでその研究成果をご報告するなど、社会・経済の課題に対する意識向上にも、意欲的に取り組んでまいりました。また、グローバルにも目を向け、海外の信託業界との相互交流も活発に行ってまいりました。

さて、振り返りますと、昨年4月の就任時は、新しい時代「令和」に向けて、足を踏み出そうとする、まさにそうしたタイミングでありました。わが国の信託制度が、明治を黎明期に、大正、昭和、平成、そして令和へと続く中、私どもは、変わらぬ信頼のもと、様々なニーズに対応し、社会・経済の健全かつ持続的な発展に寄与・貢献できるよう、引き続き業界を挙げて取り組んでまいる所存でございます。    

以上がこの1年間の簡単な振り返りとなります。
なお、これまで申し上げた取り組みや成果は、当協会の活動に関するすべての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。
最後に、会長会社としての務めは、この4月にみずほ信託銀行さんに引き継ぐこととなります。今後とも信託協会の活動に対し、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。

以下、質疑応答

新型コロナウイルス感染症の信託業界への影響

問:

新型コロナウイルス感染症に関して、消費の落ち込みや実体経済への影響も出ているが、マーケット面でも、足元、ダウが2万ドルを割り込み、国債価格も下落状況が続いている。こうした実体面での影響、マーケット面での影響が信託業界に及ぼす影響についてどのように考えているか。

答:

今仰ったとおり、マーケットは非常に厳しい状況であります。その中で、ご質問にお答えをさせていただきますと、個別業務ごとの影響につきましては、業界全体で取りまとめているということはございませんので、恐縮ですが、足元の個社への影響ということでお聞きいただければと思います。
弊社としても、業績面での影響度合いを見極めている状況でありますが、今日は信託協会の会見の場でありますので、信託特有のところで申し上げると、不動産の事業であるとか、証券代行事業、これは株主名簿管理、総会支援のところです。このほか、企業年金や投資信託などの受託財産を管理・運用していますけれども、この辺りに一部影響が出てくる。足元、出ているものもありますし、これから出てくるであろうと想定されるものもございます。
例えば、不動産事業でございますが、足元の決済がキャンセルになったとか、そういうことは弊社ではあまり多くは見受けられないのですけれども、この状況でございますので、わが国だけではなくて、様々な国・地域で、新型コロナウイルスの影響が出てきている。とりわけ、わが国の中で申し上げると、インバウンド消費の減少や個人の消費活動の停滞の影響、その他諸々の影響が出てきておりますので、これが不動産市況にどう影響を及ぼすかというのは、足元ではまだ想定し得ないところでございますので、ここは非常に注視をしていくべき、まず1つ目の分野というふうに思っております。
2つ目でございます。今ご紹介した信託銀行ならではということについて申し上げますと、証券代行事業がございます。こちらは、株主総会の開催の支援などを行っており、今は12月決算・3月総会がこの3月の下旬に向けて進んでいますけれども、3月決算・6月総会というのが今後やってまいります。たぶん12月決算分の5倍ぐらいの数になろうかと思います。今後の株主総会の開催にあたっては、総会への参加者・関係者に対するコロナウイルスの対策が目下、考えていかなければならない課題となります。足元、開催されている総会に関してもそうです。すでに発行会社からは、株主総会運営時の感染予防策に関して、招集通知への記載方法であるとか、具体的な安全対策、これは会場が中心だと思います。あと、昨今、注目が集まりつつありますバーチャル株主総会を併用するといったご相談などが様々寄せられています。引き続き、適切な各種の情報提供や、状況に応じた支援体制を構築して、お客様とともにこうした課題に対応しているという状況でございます。
また、最後に、企業年金とか投資信託といった受託財産の管理・運用についてですが、これもしっかり、確実な業務運営を続けていかなければならないということであります。と申しますのも、足元の有価証券マーケットのボラティリティの大きさがございますので、一層の緊張感、約定件数も増えていますので、その中で受託者としての責務をしっかり遂行するということ。あと、信託銀行は運用も行っています。ですから、有価証券のファンドマネージャーの発注から、保管・決済に至るまでのこの一気通貫の中で、しっかりとした業務運営をしていかなければならない。このように気を引き締めている状況でございます。
信託業務に関わる足元の状況ということで申し上げれば、今申し上げたところが中心になろうかと思います。

日銀金融政策決定会合への受け止め

問:

日銀が先般(3/16)前倒しで金融政策決定会合を行い、結果的にETF買入れの当面の間の倍額などが決定したが、こうした決定事項への受け止めと、会見の中で総裁が更なる深掘りも辞さない構えを示しているが、こうした発言についても、何か受け止めがあれば伺いたい。

答:

今回、日程を前倒しされて、今週の月曜日に大きく3点を打ち出されたと認識しております。
1つ目は、やはり市場への流動性の供給。一昨日でしたか、ドルオペも行われたわけでありまして、円・ドル両方ともに流動性を供給している。これが1点目でございます。2点目が、企業金融の円滑化確保に向けた措置ということで、これは資金繰り支援の政策。3つ目が、今ETFと仰ったリスクプレミアムに働きかける、この倍額の策ということでございますので、足元、考え得る必要な手立てを、今回、日程を繰り上げて実施されたと評価されております。
総裁の会見の中でもあったかと思いますが、やはり今回はリーマン・ショックの時とは異なっていると思います。リーマン・ショックはやはり、金融機関発で、金融システムの問題だったかと思いますが、今回はそうではない。金融機関に関しては、先ほど資金繰り支援に触れさせていただきましたが、これから資金を必要とされている各企業への円滑な供給について日銀をはじめ、関係各所と協力しながら進めていかなければならないということかと思います。
それともう1つ、日銀が今回、景気判断につきましても仰っていたと思います。新型コロナウイルス感染症拡大などの影響により、このところ弱い動きとなっているという表現があったかと思います。このように下方修正をされていますけれども、一方で、中国では感染者数のピークアウトとともに経済機能が回復方向に向かっているという報道がございまして、この先、時間差を持ちながら、日本経済、その後、欧米経済へと正常化への波が広がることが期待されているということかと思います。
金融の円滑化に関して申し上げると、私ども信託業界におきましても、当局からの要請も踏まえて、また、全国銀行協会とも歩調を合わせまして、各社においてそれぞれ対応に当たっております。すなわち信託銀行におきましても、全銀協が取りまとめた銀行界の申し合わせにも沿う形で、片側で感染拡大の防止・抑制に取り組むとともに、社会機能の維持に必要となる決済・資金供給等の重要業務の業務体制を継続しながら、ならびに、一番大事なのは、お客様への迅速・的確かつ柔軟な対応。これに努めてまいりたいと思います。
深掘りにつきましては、今回、取り上げられなかったということで、さらにこの先あり得るのかというお話でございますが、今回もそのようなご判断をされたかと思いますけれども、副作用とのバランスにおいてのご判断を当局としてされた、日銀としてされたというふうに受け止めておりますので、より一層、今後の状況をよく見て、見極めていただきながら、ご判断をされることだというふうに期待をしております。

スチュワードシップ・コード

問:

スチュワードシップ・コードについて、環境についての文言がコード改訂で規定され、記載される方向になっているが、それについてのお考えを伺いたい。

答:

スチュワードシップ・コードにつきましては、われわれは運用にも携わっていますし、その受け入れ表明を既にしている観点で、とても重要なコードだと考えております。今仰った環境に関わる部分に関しましても、やはり目的は持続的な成長が期待される企業をどうコードに基づいたエンゲージメントのもとで取り上げていくかということかと思いますので、ここもとの注目度の向上も相まって、より一層コードを踏まえた適切な対応を取っていくというふうに考えています。

株主総会への対応

問:

先ほど言及のあった株主総会について、3月の総会が来週から本格化・集中すると思うが、新型コロナウイルス感染症が拡大している中ではやむを得ない部分もあると思うが、発行体の方からは、あまり大勢出席して欲しくないというメッセージが招集通知などから見て取れる部分がある。一方、個人株主としては経営者に対面で会う機会がなかなかない中で、このような対応についてどのように見ているか。また、バーチャル総会について、バーチャル限定で総会を開催すべきではないかというふうな議論もある中で、このような議論を早期に進めるべきかについて、会長個人の考えでもいいので伺いたい。

答:

今、ご質問は2点あったかと思います。1問目は悩ましいことで、現状で申し上げると2問目にもつながると思うのですが、場所が法的にも求められているので、実開催というのがベースになった上でバーチャルをどうするのかという話と、実開催を決まった会場で行う必要がある中で、出席して欲しくないという受け止めにつながるのか、マスクを置いたり、消毒液を入口に置いたりと、リスク低減の対策は取っており、そのような努力もする中で、よくよくご判断の上ご来場くださいという趣旨だと思いますので、そこの悩ましい部分はぜひ汲み取っていただきたいと思います。
そう申しますのも、あまり準備期間もない中でこういう状況下に陥っているということもありますので、そこは先ほどの招集通知への記載云々も、6月総会が山だとすれば、そこまでには新型コロナウイルス感染症が終息してほしいのですが、今後も工夫の余地があるのかもしれませんが、ご容赦いただきたい部分なのかなと思います。
2問目のバーチャル総会だけというような議論は、正直申し上げて、足元では、まだそこまでの段階には至っていないのが実状だと思いますし、個人株主の皆様の感覚や期待値の中にも、会場で直接経営者の顔をまじまじと眺めたい、直接質問をぶつけてみたいというようなニーズも引き続き強くあるかもしれませんので、そういう意味で申し上げると、今トライをしているのは併用ということでございまして、バーチャル総会も経産省からガイドラインが出ていますが、参加型と出席型との対応の違いとか実務上の課題とかまだまだあって、ネットでつなげればすぐできるということでもないと思っています。ネットでつなげない時にはどうするのか、法的にはどういう解釈なのかということを含めて、これからまずは併用の形で遠隔地等々から参画できるようなバーチャルの普及についてまずは力を入れて、上場会社・発行会社と色々な対話を進めながらやっていきたいというのが正直なところです。

日銀の金融政策

問:

日銀の金融政策について伺いたい。ETFの買入れ額を増やすという措置をとっていて、今、市場の5~6%ぐらい日銀が株主であると言われており、これがガバナンスを歪めていないかという議論が常にあると思うのだが、先日、黒田総裁の会見の中では、日銀のETFをマネージしている信託銀行が適切な議決権の行使をしているので、歪めているということにはあたらないというふうに仰っていたが、いかがお考えか。

答:

実際に携わっていないので想像の部分があろうかと思いますのでご容赦いただきたいのですが、信託銀行イコール運用会社であったり、という側面がありますが、各運用機関が適切に行使しています。運用機関として、議決権行使の考え方やガイドラインをお示しして、それを軸に議決権行使をするということ、これは実は歴史はかなり古く20年くらい経つのですが、足元ではそこは注目度が高いわけでして、ここからは想像ですが、そういう考えに基づいた行使をなされているのだろうと思います。ここの確信はありませんが、そういうことを踏まえた総裁のご発言だったのではないかと推測致します。

問:

それはつまり、これからどんどん増やしても、ガバナンスの面でいえば、信託銀行なりが議決権を適切に行使しているのであれば、これは市場を歪めてもいないし、問題ないということになるのか。

答:

ガバナンス上どうかというのは、程度の問題はウエイトによって違ってくるのかもしれませんが、足元の状況を踏まえれば、そういう懸念は少ないと思われているご発言だと思いますし、それに関して私もそうだろうと思います。

以上