会長定例記者会見(みずほ信託銀行 梅田社長)

2020年11月19日

冒頭、振角専務理事より、本日の理事会において次期会長会社を内定したことの報告を行った。

半年間の振り返り

信託協会会長の梅田でございます。よろしくお願いいたします。
まず、現在までの期間を振り返りまして、これまでの信託協会の活動状況についてご報告をさせていただきたいと思います。

4月の協会長就任時に、所信として2点掲げさせていただきました。1点目は「信託機能の発揮によるサステナブルな社会・経済の実現への貢献」、2点目は「令和新時代における信頼の向上」。これまでの期間、この2点に沿って活動を行ってまいりました。
まず1点目の「信託機能の発揮によるサステナブルな社会・経済の実現への貢献」についてですが、協会といたしましては、「後見制度支援信託」や認知症対応商品、これらに代表されるような信託商品およびサービスの普及に努めることにより高齢化への対応に取り組むとともに、企業の株主総会におきましては、「バーチャル株主総会」や「スマートフォンによる議決権の行使」など、デジタル技術も活用して、コロナ禍における円滑な総会運営に尽力をいたしました。
さらに、日本版スチュワードシップ・コードの改訂を受けまして、「投資判断におけるサステナビリティの考慮」や「議決権行使結果の賛否理由の開示」などについて、加盟各社において取組方針に明記し、適切な対応を行っております。
また、「令和新時代における信頼の向上」についてですが、ここまで申し上げました取組みに加えまして、大きく社会が変化する中において、各社の創意工夫のもと、高い専門性を発揮してお客さまのニーズに応えることに注力して参りました。

続いて、今年度の当協会における税制改正要望についてお話しをさせていただきます。協会の9月の理事会におきまして「令和3年度税制改正に関する要望」を取りまとめさせていただいたところでございますが、この場におきましては、その中から主な項目3点について概要をご説明したいと思います。
まず1点目は「教育資金贈与信託に係る贈与税の非課税措置の恒久化」です。本制度につきましては、令和3年3月末に税制上の措置期限を迎えますが、教育資金贈与信託は令和2年3月末時点においても1兆6千億円の残高がある、依然として非常にニーズが高い商品でございます。「教育機会の拡充」や、「世代間移転の促進を通じた消費の活性化」に資するものとして、社会的意義も依然として極めて大きいものと認識をしております。つきましては、制度の恒久化、少なくとも適用期限の延長を要望させていただいているものでございます。
2点目は、同じく措置期限を迎える「結婚・子育て支援信託に係る贈与税の非課税措置の恒久化」についてです。こちらにつきましても、少子化対策、消費活性化の観点から非常に重要な制度と認識をしております。今申し上げました教育資金贈与信託と同様に、制度の恒久化、少なくとも適用期限の延長を求めて要望しているものでございます。
3点目は「事業承継における信託の活用」についてです。事業承継税制においては、平成30年度の税制改正にて、抜本的な拡充が措置されましたが、依然として「信託を用いた事業承継」については適用の対象外とされております。企業の休業・廃業が一層増加する現在におきましては、信託スキームについて事業承継税制の適用を認めていただくことは、事業承継のさらなる促進に資するものと考えておりますので、こちらも引き続き要望するものでございます。

以上、これまでの約半年間の活動状況についてご報告申し上げました。残る期間につきましても、協会長就任時に掲げさせていただきました所信をしっかりと実現すべく尽力して参りたいと思います。
引き続き、ご理解とご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

以下、質疑応答

議決権集計問題

問:

議決権行使書の処理をめぐって、いわゆる先付処理について、その手法が問題視された。当事会社から金融庁に報告書が提出されたが、業界としてこの問題を解決するために、電子化の推進など取り組みたいことはあるか。

答:

株主総会の議決権行使書の集計における、特に先付処理と言われる処理にかかる問題についてでございますが、こちらについては信託協会全体として議決権行使書の集計の取扱い自体に問題があった事案ではなく、私どもみずほ信託銀行を含めた一部の信託銀行における取扱いにかかる事案と認識しております。みずほ信託銀行に証券代行業務を委託していただいております委託会社の皆様、委託会社の各株主の皆様、ひいては資本市場の参加者の皆様に多大なご迷惑・ご心配をおかけいたしましたこと、この場をお借りして改めてお詫びを申し上げたいと思います。
みずほ信託銀行といたしましては、この取扱いに関しまして、速やかに現行の業務フローの見直し、再発防止に向けた業務体制の改善を行っていることに加えて、委託会社の皆様と次回以降の株主総会の運営についてコミュニケーションを開始して協議をさせていただいているところでございます。
業界全体の課題認識として付言をさせていただきたいと思います。株主総会に関することにつきましては、まず大きく課題としては2点あると思っております。1つは、昨今議論が活発化しております議決権行使の電子化の促進という点、もう1つが株主総会開催日の分散化でございます。まず現状把握しているところをお話しさせていただきますと、コーポレートガバナンス・コードが制定された2015年を契機といたしまして、議決権行使の電子化については徐々に進捗しているものと認識をしております。特に本年度につきましては、新型コロナウイルスの影響もあり、かなり多くの発行体企業の皆様が議決権行使の電子化を採用されたわけでございます。この傾向はおそらく来年度に向けても引き続き加速していくものと思います。協会といたしましては、特に株主総会開催日のピーク時における電子行使の行使比率等の情報還元などをしっかりと実施するとともに、必要に応じて加盟各社の意見を踏まえた要望活動を行うことで、先ほど申し上げました2点の課題についての促進・対処を行っていきたいと考えております。

コロナ禍による顧客動向の変化

問:

足元、新型コロナウイルスの感染者が再び増加傾向にあるが、コロナ禍における信託業界の動向について、信託商品をはじめとして、消費者の需要やアプローチの変化など、これまで起きていることについてあらためて伺いたい。

答:

ご指摘のあったとおり、新型コロナウイルスの影響が半年強、1年近く続いているわけでございますが、信託各社のお客さまにおいても、色々な影響が出てきているわけでございます。ここでは個人のお客さまと企業のお客さまと分けてご説明をさせていただきたいと思います。
まず個人のお客さまについてでございます。個人のお客さまについては、将来の不安がより増大している環境下において、万が一への備えという意識が一層高まっているものと体感してございます。そういった中で、円滑な資産の承継であるとか、企業のオーナーの方々においては、事業承継に関する問題意識が非常に高まっているというのが現状だと思います。信託協会加盟各社においては、例えば遺言代用信託でございますとか、もしくは事業承継に向けた株式の信託でございますとか、こういった商品に対するニーズがこの半年間で大きく高まっているというのが認識でございます。冒頭のご説明でも触れさせていただきましたが、事業承継税制における信託商品の適用についても、我々はマーケットニーズを強く感じておりますので、これについては引き続き要望をしていきたいと思っております。
続いて企業のお客さま、企業セクターの動きについてでございます。企業においても、これは大企業、中堅企業、中小企業でまた色々違いがございますけれども、一様に言えることは、この1年間、特に年度の前半においては資金調達を厚めに行い、不測の事態に備えて手元の流動性を厚めに置いておくという企業行動が見られたわけでございます。現状においては、財務上の要請に基づいて、バランスシートの改善、こういったニーズがセカンドクォーター以降、かなり強まっているのを感じているところでございます。そういった中で、バランスシート改善を目的とした、例えば資産の流動化であるとか、もしくは、不動産の世界で申し上げますと、特に昨今、注目が高まっているリモートワークも含めた働き方改革に向けての取組み、こういった中で、現在所有もしくは賃借しているオフィスをどのように見直していくかというご相談が非常に増えているわけでございます。また、製造業の皆様からも、今回の新型コロナウイルスの影響を受けて、サプライチェーンのあり方を考えなければいけないということで、不動産関連のご相談が急増しておりまして、信託の持っている機能を発揮していく場面というのは今後も非常に増えていくのではないかと感じているところでございます。

高齢化に対する今後の取組み

問:

今後、日本では少子高齢化がますます進んでいくが、協会として、高齢化に対する今後の取組みについて伺いたい。

答:

高齢化に向けて、これまでも、信託各社は工夫を凝らして商品提供してきている訳でございます。特に、前の質問でも触れておりますけれども、新型コロナウイルスの影響によって、特に超高齢化といわれる社会環境の中で個人の方の不安から生じるニーズも出てきているものと感じております。そのような中で、これまで例えば商品名で申し上げますと、後見制度支援信託でありますとか、認知症の関連商品、こういったものについて、私ども個社も含めて各社いろいろな工夫を凝らして商品を提供してきているところでございます。そういった中において、これまでの信託機能に加えて、例えば非金融のサービスを付与した商品の提供であるとか、こういったことを一層工夫していかないといけないと感じております。具体例としては、認知症関連の商品は、現時点においては判断能力があるご高齢の方が、将来の不安に備えて準備をしておくという背景が非常に強い中、我々もいろいろな機能を付けております。最近の発見といたしましては、家族を含めたご本人の周りのサポートする方々、そういった方々のニーズにもきちんと応えていかなければならないということでございます。具体的には、実際に認知症になられて判断能力が低下されたご本人をサポートする方々に対して、生活に必要な資金をきちんと信託が管理してお渡しいくという中で、例えば、個社の取組みでございますけれども、直近では代理人の名義口座でも必要最低限の生活資金を授受できるような機能を追加改善しております。こういった細かい工夫も含めて利便性を向上していくことに、より一層心を砕いていかないといけないと認識しているところであります。

株主総会のオンラインによる開催

問:

2点お伺いしたい。今年の株主総会ではリアルとバーチャルの混在したハイブリット型の株主総会を開催した企業が少なからずあったところ、ちょうど今日政府の成長戦略会議で、完全なオンラインでの株主総会の開催に向けた規制緩和を議論していると聞いている。経済界の要望も結構強いわけだが、まずこうした方向性に対する受け止めと、動議の扱い、出席者のカウントの仕方など少なからず課題もあると思う。そうした課題に対して協会あるいは個社としてどのように対応していくのかをお聞かせいただきたい。

答:

バーチャル総会、特に今ご指摘いただいた点について、日本において現時点では、リアルで開催することを前提にバーチャルを併用的に行うということが実態だと思っております。もちろん先ほどご説明申し上げたように、利用会社が増えてきており、我々信託協会といたしましても、加盟各社において、特にテクノロジーの面を中心として促進しているところです。一方、今ご指摘のあったとおり、方向感として例えば欧米で行われているような、バーチャル上だけで株主総会を開催するようなことについては、私どもが承知している範囲においては、まだ法制上のハードルがございますので、まずそこを越えていかなければならないと思います。それを前提として申し上げれば、基本的には株主の利便性を高めていく、より一層株主と発行体企業との対話を深めていくという観点から、いろいろな形の株主総会のあり方が認められるような仕組みができることについては、歓迎すべきところです。協会としても技術面や実務面の問題を含めて対処していきながら、しっかりと協力していきたいと考えております。
そうした中で、先ほどのご質問の中にあった、実務面でどういった問題があるかということについては、まだまだこれからしっかりと課題の洗い出しをしていかなければならないと思っています。例えば実際にバーチャルで参加される方の本人確認の問題や、画像・映像がオンラインに載ることになるので、本人の肖像権、プライバシーの問題等を一つ一つ実務上きちんと対処していくこと。また、バーチャル株主総会の議論の中で言われていることは、いわゆる参加型から出席型に変えていくという中で、通信状態が不調になったときにどう対処していくかといったテーマがあるわけでございます。こういったことも含めて実務面での検討をしっかり行っていかなければならない。但し、大きな面でいうと先程申し上げたとおり、基本的には歓迎すべきことでございますし、株主の利便性、ひいては発行体における、サステナブルな成長を促していくということですので、我々も貢献していきたいと考えております。

問:

21年度中の解禁を目指しているというようなことも聞いているが、今挙げられた課題をすべて解決して、来年の6月の株主総会のピーク時には完全なオンライン型、バーチャル型の株主総会に移行するという準備は、現実問題、信託銀行として可能なのか。

答:

今ご指摘にあったところについては、細かい部分を承知しておりませんので、なかなかお答えしにくいところですが、先ほど申し上げたような課題も含めて、法制面の整備が筆頭ですが、実務面についても、課題の洗い出し自体が終わっていないところがあると思いますので、現時点で一概にいつ頃できるというところまでは、コメントできるものではないと思っております。

不動産市況について

問:

信託業界としても不動産の仲介業務を含めて取り組んでいると思うので、せっかくの機会なので伺いたい。海外投資家を中心に、こういったプレイヤーの買いで、現物不動産の売買は活況を呈していると思う。日経平均株価も29年ぶりの高値圏にある一方、REITだけが出遅れている、取り残されている感じがする。不動産業務に長く携わってきた会長として、今のマーケットの動きについて、どのように分析されているか教えていただきたい。

答:

不動産投資マーケット全体については、今のご質問の中で触れていただいたとおり、この新型コロナウイルス感染症の拡大の環境下においても一定の売買が行われており、決してマーケットとして下降しているという肌感覚ではございません。不動産の売買というのは、デューデリジェンスといわれる物件の調査を行った上で交渉が行われますので、4、5月のほとんど外出できなかった環境下で滞ったことは否定できません。一方で、昨今報道でも報じられているように、特に外資系のファンド等を含めて海外の機関投資家による日本の不動産に対する投資意欲は高まってきておりますので、こういった意味合いからすると、ご質問にもありましたように、いわゆる売買マーケット自体の需給が決して悪化しているわけでもなく、特に7月以降については、非常に活発に売買交渉、売買に向けた動きも行われているところでございます。
加えてREITはどうなのかというご質問ですが、セクターごとの温度差は少しあると思っています。伝統的なセクターはオフィスや住宅ですが、これらに加えて、少し前にはホテルセクターの人気が非常にありました。最近では、投資家における投資評価が高いのが、住宅およびロジスティクスといわれる物流分野です。REITの各指数を見ても、住宅や物流は悪い動きを示していないと思います。一方、REITのセクターで大きな割合を占めるオフィスに関しては、先ほども触れましたが、リモートワークが進んでいくことによって、オフィスニーズが下がるのではないかという投資家の懸念を反映して、上向いていないというのが現状であるかと思います。ただ、オフィスセクターも、直近の動きだけ見ていますと、少し割安感が感じられているのか、今までの動きと少し違った感じになっているのではないかという観測をしております。

信託を用いた事業承継

問:

今日、税調の最初の日ということなので、税制改正要望についてお伺いしたい。信託を用いた事業承継は事業承継税制の対象外とのことであったが、なぜ信託を用いた事業承継は対象外であって、信託協会としてはなぜこれが必要で、今後、事業承継の更なる促進に資するものと考えているのか、伺いたい。

答:

(振角専務理事)
それについては、私の方からお答えさせていただきたいと思います。事業承継につきまして、我々も取り組んでいるのですが、当局からみると、まだそれ程ニーズが強くないと思われているということです。最近では受託件数が、100件近くになっているのですが、まだまだニーズの顕在化が見られないとの指摘を受けています。
また、我々の場合、今使っていただいているものの大部分は、現経営者が株式を信託銀行に信託していただいて、その方が死亡したときに、円滑に後継者、例えば長男の方等に、信託銀行が確実に承継させるというスキームが多いのですが、一方で、当局がやろうとしているのは、早期の経営移譲で、生前にできるだけ贈与をして、若返りをしてほしいということを考えている訳です。我々の場合は、亡くなった時にスムーズに移行する、そこには勿論ニーズはあって、受託件数が積み上がっているのですが、当局からすると、早期に移譲して若い経営者に代わって日本経済が活性化すれば、それは納税を猶予するインセンティブはあるけれども、死亡時に円滑に承継ということでは、まだインセンティブが弱いということで、今のところ対象になっていないということです。我々としては、そういう早期の経営移譲にも信託は使えるという事例の積み上げをするとともに、引き続き交渉しているところでございます。

以上