会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 長島社長)

2022年10月20日

冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、「規制改革に関する提案」をとりまとめ、内閣府規制改革推進室宛てに提出した旨の説明を行った。
また、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。

長島会長

信託協会長の長島でございます。
これまでの約半年間を振り返りまして、信託協会の活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。

協会長就任時に所信として、「信託機能を一層活用した社会・経済課題解決への貢献」と「信託に対する信頼の向上」の2つを掲げております。

1つ目の「信託機能を一層活用した社会・経済課題解決への貢献」については、デジタル化への取り組み、ESG課題への取り組み、家計の資産形成・管理・次世代への承継に関する取り組みの3つのテーマに注力し、活動してまいりました。
1点目の「デジタル化への取り組み」については、信託銀行が暗号資産を信託受託することが認められることとなりました。当協会では本年5月に規制改革要望を内閣府に提出いたしましたが、金融庁から施行規則や監督指針を改正し、本日より施行する旨が公表されております。暗号資産の管理や保全に信託銀行の財産管理機能を発揮することで、社会のデジタル化に貢献できると考えております。また、関連する領域では、先の通常国会で成立した改正資金決済法において、信託型ステーブルコインの制度整備が行われております。現在、政令・施行規則のほか、税制面の整備が進められており、協会として引き続き様々な提言を行って参りたいと考えております。

2点目の「ESG課題への取り組み」については、役員報酬制度において損金算入が認められる業績連動給与の算定指標に、ESG成果指標等の非財務指標を追加することを令和5年度税制改正要望として掲げさせていただきました。昨年度、伊藤邦雄先生を座長に迎え、「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」を設置して報告書を取り纏めておりますが、この報告書の周知等、税制改正要望活動に限らず我が国におけるESG課題解決の取組みが進むように、引き続き活動を行っていきたいと考えております。

3点目の「家計の資産形成・管理・次世代への承継に関する取り組み」については、今年度末に非課税措置の適用期限を迎える教育資金贈与信託、結婚・子育て支援信託についてその恒久化等を令和5年度税制改正要望として掲げさせていただいております。教育資金贈与信託については、教育機会の充実を通じた人への投資の促進に加え、資産の世代間移転の促進を通じた消費の活性化に資するものとして、依然としてその社会的意義は大きいと認識しております。また、結婚・子育て支援信託は、若年層の方々の結婚・出産・育児を支援するものとして、少子化問題への対応の観点から有用であると認識しております。

続いて所信2つ目の「信託に対する信頼の向上」につきましては、本年9月に当協会の倫理綱領を改訂しております。
当協会加盟会社は85社に上りますが、加盟会社各社がそれぞれ人権の尊重や多様な人材の活躍を促進するための環境整備をはじめとして、持続可能な社会の実現に取り組むことが必要であるということを明記するなど、SDGsやESGへの取り組みに向けた見直しを行ったものです。
社会課題の解決に貢献することを通じて、1922年の信託法制定以来100年にわたる長い歴史の中で培われてきた信託に対する信頼の更なる向上に努めてまいりたいと考えております。

以下、質疑応答

資産所得倍増プランへの要望

問:

政府が資産所得倍増プランをまとめる予定であるが、信託銀行・信託業界として、要望していること、望んでいることを教えていただきたい。

答:

本年6月に閣議決定された新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画の中で、4つの柱と、その1つである「人への投資」の中で「貯蓄から投資への資産所得倍増プラン」が示されております。信託協会は、先ほどお話したテーマで活動しており、税制改正要望では、貯蓄から投資への推進に貢献するような要望を取り上げております。その1つとして教育資金贈与信託と結婚子育て支援信託にかかる贈与税の非課税制度の恒久化を要望しており、資産移転の支援と教育費などの負担軽減を通じて、資産形成の促進に資すると考えております。
NISAについても制度の恒久化、簡素化、拠出限度額拡大等を要望しております。8月末に公表された金融庁の税制改正要望においても同様の内容が盛り込まれており、貯蓄から投資への流れを促していくものと考えております。

株主総会資料の電子提供制度への信託銀行としてのサポート

問:

会社法が改正されて、来年3月から株主総会を開催するにあたって、会社の資料をWEBサイトで掲載するという電子提供制度が開始される。株主総会をサポートしている信託銀行の立場として、制度の受け止めおよびどのようなことをしていこうとしているのか教えていただきたい。

答:

電子提供制度の開始によって、発行会社である企業は、株主総会資料をこれまでは紙で株主へ送付しなければならなかったが、WEBサイトへのアクセス方法をお知らせし、株主からサイトへアクセスし、株主総会資料を確認いただければよいことになりました。紙の省力、デジタル化が進んでいく制度になります。こうした制度が普及することによって、株主総会もバーチャル総会や、議決権行使もインターネット行使が普及していることも踏まえて、さらに電子化・デジタル化が進むのではないかと、非常によい制度だと受け止めております。
また、従来より一週間程度早く、総会資料が開示されることになります。投資家にとって、議案内容を検討する時間が確保され、企業と投資家の対話が促進されるため、信託協会としても大変よい制度と考えております。
企業へのサポートについてですが、各加盟会社で企業が株主宛てに通知物を発送するとか、リーフレットを入れるとか、いろいろな取組みをしていると承知しています。協会としても制度周知のためのリーフレットを作成しております。
こうした取り組みを通じて、各加盟会社が企業をサポートしていくと認識しております。

急速な円安の影響等

問:

急速な円安への受止め、特に、円安が信託業界に与える影響について、どのようにお考えか教えていただきたい。
あわせて、政府・日銀が先月円買い介入を行ったが、こうした介入を含め、ここまでの政府・日銀の姿勢についてどのようにお考えか教えていただきたい。

答:

円安への受け止めということで、今の円安というよりもドル高はロシア・ウクライナ問題に端を発しただけではなく、サプライチェーンの混乱もあると思うが、物価高から金融引き締め、金利上昇、ドル高という流れになっていると認識しております。信託業界への影響ですが、一番影響があるのは、受託している投信や、一任勘定の株式の特定金銭信託、指定単独運用、金銭信託など、受託財産への影響だと考えております。
プラス・マイナスの両面があり、円安になると、外貨建ての資産が膨らみ、投信の基準価額が上がりますが、信託報酬は基準価額に連動しているため増えることになります。一方で、ドル高の理由は、金利が上昇しているということでありますので、FRBが引き締めをしているということで、株価が調整しています。したがって、基準価格がその分下がるため、逆にマイナスの影響があります。こうしたプラスとマイナスの影響が相殺され、今のところニュートラルになっている状況かと思います。
お手元の統計資料に信託財産の金額が載せてあります。当協会で把握している信託財産は2022年3月末時点で、約1,500兆円ありますが、直近では若干減少している状況になります。これは私の解釈では、先ほど申し上げたように為替が円安になって増える分と、株価が下がってマイナスになる分が相殺されて、あまり変わっていないということだと受け止めていますので、プラス・マイナス両面あるというのが結論です。
為替の介入に対する見方については、私個人の捉え方ですが、今の為替介入は、足下、円安/ドル高が進み、ボラティリティが大きいので、その振れは経済活動上よろしくないだろうということで、急速なボラティリティを抑えるためだと理解しております。急激な為替変動というのは、経済活動にとっては、決してよいことではないため、為替介入は適切なのではないかと考えております。

人的資本経営への信託としての貢献

問:

人的資本経営で信託として貢献できることはどういったことがあるか。

答:

各加盟会社が行っていくことになりますが、人的資本についてスポットライトが当たっているのは、経済がソフト化する、あるいはそういった無形資産が企業経営・企業価値に及ぼす影響が非常に大きいということで、それをしっかりフォーカスして経営したり、あるいは開示したりすることで、投資家にしっかりと人的資本経営を行っていることを理解していただき、長期目線で投資をしていただこうという取り組みだと理解しております。企業にとって大事な取り組みのため、信託協会というよりは、信託銀行、信託会社として、特に開示面のサポートを行っていると理解しております。
従来からも取締役会のガバナンスの在り方はどうすればよいかなど、人的資本だけではなく、例えば、TCFDの脱炭素であるとか、グリーンへの様々な取り組みに対する開示に関しても、信託銀行は企業をサポートしており、同様にこうした人的資本経営だったり、投資家などに対しての情報開示は求められているので、そういったことに対するサポートを実施するということと認識しております。
また、加盟会社の信託銀行では年金領域での取り組みを行っております。年金事業は企業にとって大事な福利厚生の一環であることから、今後やはり人的投資が大事になってくると思います。年金だけではなく、退職金や人事制度周りなどのサポートが大事になってくると思いますので、そのあたりの取り組みを行っていくことになるかと考えております。

専門職人材

問:

信託銀行はいろいろなプロフェッショナル人材を抱えていると思うが、専門職人材のために今後必要と思われることはどのようなものとお考えか。

答:

各加盟会社の取り組みになっていくかと思いますが、信託銀行のみならず、信託会社も例えば、不動産や資産流動化の領域や、年金、証券代行ビジネスのプロ領域に係るビジネスを行っております。ますます先ほどの人的資本の話も含め業務が多様化、高度化しているため、ますますプロが必要になっております。
従来の汎用的な職員を育成するだけではなく、プロフェッショナルな職員を育成していく必要があるということで、専門職、プロフェッショナル用の人事制度であったり、処遇体系を用意していると聞いております。人材教育や育成プログラムを各加盟会社で作成していると認識しており、今後採用も含めてますますそういった専門家を処遇して育てていき、外部からも採用・登用するといったことが起こっていくことと思われ、ますますそうした取り組みは大事になっていくと思います。

世界経済の見通し

問:

先ほどの円安の質問とも関連するが、インフレが長期化して金利も株価もボラティリティが激しい状況が続いており、その中で世界経済の減速懸念が高まっている。こうした状況がいつ頃まで続くか、世界経済の見通しについて私見でも結構なので教えていただきたい。

答:

私見ということでお答えいたします。予想することはなかなか難しいですが、先週IMFが新しい10月の世界経済見通しを公表しております。経済見通し自体はグローバルに引き下げられており、相応に厳しい見通しになっています。世界経済が落ち着くには今のインフレ環境が、ある程度金融引き締めなどにより落ち着いていくことが必要ではないかと思っています。
今のFRBの見通しでは、来年半ばくらいには一応利上げが終わって定常状態、一旦終息状態に入ると言われておりますが、来年の前半くらい、第一四半期が終わるころになれば、一旦落ち着いてくるのではないかと個人的に思っています。
日本経済は実は先進国の中では相対的に一番しっかりしている予想になっています。それは、日本のリオープンが遅れたということもあって、需要がまだあるので、比較的IMFの予想の中でも引き下げ幅が非常に小さく、2023年の予想もしっかりしているので、日本経済は割合堅調な予想が多いと思います。ただ、心配なのは、質問にあったように、グローバル経済やエマージングなどがIMFでも心配だという話があり、そのあたりがものすごく混乱せずに落ち着いてくれば、来年の前半にはボラティリティも落ち着いてくるのではないかと思います。

規制改革要望

問:

規制改革要望を提出したことだが、こちらについては新規項目も5つあり、会長のお考えでも結構だが、ポイント、特に重視していうところはどのあたりか。

答:

継続要望も多いが、例えば相続手続きのデジタル化というものは、謄本などはペーパーが多く、行政の方でも徐々にデジタル化しつつあるが、そうしたことが一層進むと良いと思います。あとの項目は内容自体が結構テクニカルなものが多いため、相続手続きのデジタル化を紹介させていただきました。

バーチャルオンリー総会開催要件の緩和

問:

バーチャルオンリー総会の開催要件の緩和については、バーチャルオンリー総会がより開かれるようになれば良いという思いからの要望なのか。

答:

「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」の施行により、バーチャルオンリー総会の開催が可能な環境が整ってきていると認識しておりますが、さらなる普及に向けて、当協会としても取り組んでまいりたいと考えております。

中間層の投資の広がり

問:

資産所得倍増プランの関係で先ほどのお話と被るかもしれないが、今週の政府の資産所得倍増分科会で中間層の資産形成の支援策について言及があったが、中間層への投資の広がりに関しての課題感や信託協会として取り組みたいことについて教えていただきたい。

答:

信託銀行は株主名簿の管理を行っていますが、コロナ禍で、若い人たちがインターネット経由で証券口座を作り株式投資をしているケースが結構増えています。必ずしも中間層にフィットするかどうかはわかりませんが、そうしたデジタル化の進展というものも投資を広げるうえで大事だということを改めて認識したところです。アクセスの容易さということだと思います。

それから、おそらく中間層の方だけではないかもしれませんが、顧客本位の業務運営、投資教育の2つが非常に大事だと思います。顧客本位の業務運営は金融庁でも力を入れておりますが、特に投資商品に対する情報開示、手数料とリスクのバランスであるといったことが大事だと思います。また、裾野の広い投資教育についても各加盟会社が実施しておりますが、これも非常に長い期間で分散投資を行えば、ある程度のリスクを吸収できるということをご理解いただくことが大事だと思います。
このあたりは、信託協会でも大学で講座を提供したり、様々な方々を対象に講師派遣を行ったりしており、そうしたことを通じて一助になる活動になっていけばと考えております。

日本企業のガバナンスへの取り組み

問:

少しスパンの長い話になるが、アベノミクスが始まったころ、日本企業のガバナンス開示に対する期待が結構あったと思うが、最近、外国人投資家と話していると、その辺の期待が若干薄くなっているのではないかという感じがするが、そのあたりをどうお考えか。

答:

アベノミクスが始まりCGC改革が始まって、その時にはゼロとは申しませんが、(低いところからのスタートのため)変化値が大きかったため、海外投資家の期待があったかと思います。それから10年近く経っていて、ガバナンスの改革も相当進んでおり、変化値を踏まえると期待値が下がってもやむを得ない部分があると思います。相応にやってきたことが、そうした声が増えた要因の一つになるのではないかと思います。
ただ、相応に日本のガバナンス改革も進んできており、先ほどあった人的投資などもガバナンスコードに盛り込まれてきており、相当整備も進んでおり、投資家の話を聞いても、そうした内容の対話が企業とできているということをよく伺うので、海外投資家にも相応に評価していただいているものと思っています。

以上