会長定例記者会見(みずほ信託銀行 梅田社長)

2024年03月21日

1年間の振り返り

信託協会会長の梅田でございます。
昨年4月の会長就任から、まもなく1年が経過いたします。
これまでの皆様のご支援に深く感謝いたしております。心より御礼を申し上げます。
私は、会長就任にあたりまして、所信として、「信託機能の発揮による社会課題解決と経済成長の同時実現への貢献」「信託の次の100年に向けた信頼の向上」の2つを掲げました。この所信に沿いまして、1年間の活動をご報告させていただきます。

まず、1つ目の「信託機能の発揮による社会課題解決と経済成長の同時実現への貢献」については、3つのテーマに注力し、活動してまいりました。「貯蓄から投資の加速による経済成長と資産所得の好循環への取り組み」、「高齢化および少子化への取り組み」、「ESG・サステナビリティへの取り組み」の3点です。

1点目の「貯蓄から投資の加速による経済成長と資産所得の好循環への取り組み」については、個人からスタートアップへの資金供給促進に向けて、個人が信託を通じてスタートアップに投資した場合におけるエンジェル税制の適用を税制改正要望として掲げ、措置をいただきました。
また、金融審議会市場制度ワーキング・グループの「資産運用に関するタスクフォース」や「顧客本位タスクフォース」にオブザーバーとして参加し、資産運用立国の実現などに向けた議論に参画いたしました。今後、金融経済教育のより一層の充実、金融リテラシー向上に向けて、新設される金融経済教育推進機構の活動についても、信託協会の知見やノウハウを活用し、さらに貢献してまいりたいと思います。

2点目の「高齢化および少子化への取り組み」については、令和6年3月末に期限が到来する事業承継税制に係る特例承継計画の提出期限を延長することを税制改正要望として掲げ、2年間の延長措置をいただきました。
また、「結婚・子育て支援信託」「教育資金贈与信託」について、非課税制度の恒久化を税制改正要望として掲げるとともに、両信託の認知度向上・利用増加を図るべく、マスメディア等を活用した周知活動に注力してまいりました。これらの非課税制度は、先送りの許されない少子化への対応や教育・人材育成を支援するために有用ですので、今後も積極的に活動してまいりたいと思います。

3点目の「ESG・サステナビリティへの取り組み」については、公益信託制度の改正にあたり、公益信託が公益法人に比して劣後することのないよう、必要となる税制上の措置を講じることを税制改正要望として掲げ、措置をいただきました。また、内閣府主催の「公益法人等制度改革に関する対話フォーラム」にパネリストとして参加し、新しい公益信託による公益の活性化に向けてPRを行いました。
信託協会では、企業のESG・サステナビリティへの取り組みを促進する観点から、役員報酬制度において損金算入が認められる業績連動給与の算定指標に、ESG成果指標等の非財務指標を追加することを要望しています。また、今年度より、環境省主催の「ESG金融ハイレベル・パネル」の委員に就任し、議論に参画いたしました。信託業界としては、責任ある機関投資家としての立場、また企業の抱える様々な課題解決を支援するアドバイザーの立場から、ESGやサステナビリティに関する取り組みに貢献してまいりたいと考えております。

続きまして、所信2つ目の「信託の次の100年に向けた信頼の向上」についてです。このテーマにおいては、信託の認知度向上に注力し、テレビCMやYouTubeなどを活用し、積極的な情報発信をいたしました。
信託財産残高においては、昨年9月末時点で約1,577兆円となり、史上最高額を更新しました。近年、この残高は加速度的に伸びています。これは、信託制度が我が国の重要なインフラとして、社会・経済の発展に貢献し続けている証しであると認識しております。
今後も、信託の特性である柔軟性と高い専門性を活かして、様々なニーズに応えていくことを継続し、次の100年に向けた信託に対する信頼向上に努めてまいりたいと思います。

以上がこの1年間の簡単な振り返りとなります。
なお、本日、ここまでご説明を申し上げた取り組みや成果は、信託協会の活動に関わる全ての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、改めて御礼を申し上げます。
最後になりますが、会長としての務めは、この4月に三井住友トラスト・ホールディングスさんに引き継ぐこととなっております。
今後とも信託協会の活動に対し、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
ありがとうございました。


以下、質疑応答

信託協会の課題認識について

問:

信託協会の課題認識について、今後どのように取り組むべきかということも含めて伺いたい。

答:

来年度への課題は多岐にわたりますが、主なものは3点です。
1点目は約100年振りとなる公益信託法の改正への対応です。税制面については先程お話しした通り、公益法人に劣後しない措置をいただきました。来年度以降は新しい公益信託の利用拡大に向け、色々な活動をしていかなければならないと思います。特に公益法人と比較すると、公益信託は「軽量・軽装備」で簡便に利用しやすいという特性があります。この特性をしっかりとPRさせていただくなど、公益信託の認知度向上に向けた活動が重要になってくると思います。
2点目は少子化・高齢化に向けた対応です。結婚・子育て支援信託、教育資金贈与信託の非課税制度の恒久化に向けた対応が引き続き重要な課題です。結婚・子育て支援信託については2025年3月末、教育資金贈与信託については2026年3月末に各々税制適用の期限が到来するため、次年度については、更なる認知度向上のため、テレビ、新聞、YouTube等のメディアを活用した周知活動に引き続き取り組む所存です。また、実際に利用件数をどれだけ増やしていけるのかということも重要な課題であると思います。
3点目は資産運用立国の実現に向けた対応です。資産運用立国について、信託は色々なテーマで関与がありますが、例えば金融経済教育推進の中では、特に私的年金の領域、資産承継・事業承継・遺言等の領域において、我々が貢献していく余地が非常に大きいと考えています。また、投資信託の基準価格にかかる一者計算の実現に向けて、投資信託協会等の関連する団体と協議を進めており、しっかりと取り組んでいくことが重要であると考えています。

日本銀行の金融政策について

問:

一昨日マイナス金利の解除が決定されたが、金利のある世界における信託業界の役割をどのようにお考えか。

答:

今回、金融政策について新たな展開が示されましたが、賃金や物価の情勢など、デフレスパイラルからの脱却に連なる背景がありました。
まず、金融機関としては、ポジティブな受け止めをしています。その中で、信託の領域で関わりが大きい点について言うと、個人の方々によるものを含めた資金運用の領域、および、企業を中心とする資金調達の領域が挙げられます。これらの領域においては、これまで以上に色々なバリエーションが広がってくると思われ、その中で信託が貢献する余地も広がってくると思っています。
具体的に申し上げると、まず、個人の方々による投資商品へのニーズは増加すると思います。これまで、伝統的な運用対象である株式や債券の運用も当然増えているのですが、不動産やインフラなど、これまで個人による投資の領域では投資対象としてのリーチがなかったものについても、例えば、セキュリティ・トークンという形での投資が可能になりました。こうした動きは、今後一層加速していくものと思います。また、幅広い年齢層の方々が運用を増やしていく中で、単純に投資商品のバリエーションの拡充のみならず、例えば、世代間の承継の機能や認知症対応の機能の提供など、信託が果たす領域の広がりが大きく期待されるところではないかと思います。
それから、もう一点は資金調達にかかる領域です。これからは金利コストが増えてくることが見込まれるため、資金調達サイドにとっても、これまでとは違った対応が必要になってきます。多くの事業法人においては、これから様々な設備投資やM&A等の事業投資などに向けて資金調達が必要になってくるわけですが、従来のコーポレートファイナンスだけではなく、いわゆる保有資産、これは不動産、債権など色々な形態のアセットがありますが、こうしたアセットを活用したアセットファイナンスのニーズが一層増加してくると思います。
この領域では、これまでも信託を活用した色々な資産流動化が行われています。これまでの不動産や売掛債権などの資産流動化に加えて、今後は無形固定資産などを対象とする取り組みも増えてくると思われますので、我々、「信託」がしっかりと頭をひねって商品もしくはサービスを提供していく余地があると思います。

公益信託法改正への対応について

問:

来年度の課題として、公益信託法改正への対応があり、今年度の税制改正要望でも措置されたとのことだが、今後の期待について、教えていただきたい。

答:

公益信託の特徴なども含めて、お話しさせていただきます。公益信託法の改正は約100年振りの制度改革となります。今国会に法案が提出されており、これをベースにこれから見直しが進んでいくことになります。主な改正ポイントは4点あります。1つ目は、受入れ財産の拡大です。これは金銭等に限られていたものが緩和されます。2つ目は受託者の範囲拡大です。信託会社のみならず、様々な担い手による受託が可能になります。3つ目は事業内容の拡大です。例えば、美術館や学生寮の運営などの事業も信託の中で可能になります。4つ目は主務官庁制の廃止です。許認可に係る手続きが統一化されます。
先ほど、事業承継や資産承継の話にも触れましたが、これから一層、個人・法人を問わず、財産を次の世代や社会事業、社会貢献につなげていくという動きが広がっていくと思います。実際に、フィランソロピー的な活動は拡大してきていますので、公益信託などの器を使って、財産を次世代もしくは社会貢献事業につなげていくなど、信託が貢献できる役割は増えていくと思います。公益信託の特徴は「軽量・軽装備」であることです。公益法人との比較において、大きな構えや人を備えてということではなく、軽量化されている中で、色々な方々が取り組みやすいことがポイントになります。我々としても法改正を機に、知恵を絞って取り組んでいきたいと思います。

自然災害に対する信託の役割

問:

能登半島地震への信託業界の対応と、自然災害に対して信託がどのような役割を果たすことができると考えているかを伺いたい。

答:

能登半島地震については、各加盟会社が、現地の復興に向けた金融支援も含めて尽力しているところです。
自然災害に対して信託がどのような役割を果たすことができるかというご質問については、個人的な考えも含めてお答えします。東日本大震災の時もそうであったように、今後の自然災害の局面においても、公的な補助金や私的な支援が大きく増えていくものと思います。その中で、信託の一つの特性である財産管理機能を発揮して、補助金を安全に確保・運用し、受益すべき人々にしっかりとお渡しするという番人としての役目を果たすということは信託の大きな役割であると思います。公的な補助金等の信託はこれまでもありましたが、このような領域で信託が活躍できる局面は、これまで以上に広がっていかなくてはいけないと感じています。このような機能を世の中に知っていただけるよう、努力を続けていきたいと思います。

地方から都市への資金流出について

問:

地方から都市に資金が流出しているが、信託業界としてはどのような方法で資金流出を防ぐことができると考えているか。

答:

個社としての活動などを踏まえて、お答えします。地方に在住されている方々に相続が発生した場合において、その相続人が大都市圏に住んでいることが多く、相続財産が地方から大都市に移っていくということは、社会課題の一つであるかと思います。
信託協会には、信託業を行う地域金融機関も多く加盟しており、信託商品を使って相続などに伴う資金流出を防ぐ取り組みを行っています。また、個社として取り組んでいる地域金融機関との連携において、地域金融機関には信託銀行の代理店としての役割を担っていただいて、信託勘定の運用先をその地域金融機関の預金等とするといった取り組みもあります。これは課題に対する一助でしかないと思いますが、地域金融機関との連携やこうしたスキーム上の工夫などにより、対処できていくのではないかと思います。

証券代行業務について

問:

信託銀行は証券代行業務をやっているが、直近の株主総会等において、発行体企業に対して、どのような支援をしているか。

答:

これまで証券代行業務において、上場会社等の株主名簿管理業務を中心に株主総会の支援を行ってまいりました。昨今では、発行体企業によるエンゲージメント強化を始め、株主・投資家とのコミュニケーションのあり方が変わってきています。近時においては、株主総会のみならず、年間を通して、各種エンゲージメントによるコミュニケーションを増やしていく傾向が強まっています。また、新型コロナウイルス禍において、参加型のバーチャル総会の普及が進みました。昨年5月に5類に移行してからは、パンデミック対応の株主総会から従来型の株主総会へ戻ってきています。
注目すべきポイントが2点あります。1つ目は電子提供制度の普及です。2024年度は制度開始から2年目にあたりますが、昨年は初年度ということもあって、株主向けの送付書類もフルセットでお送りしていた企業が多かったのですが、電子化が進んできて、サマリー版やアクセス通知のみを送る企業も増えてきています。
2つ目は株主提案の増加です。いわゆるアクティビストのみならず、機関投資家、株主による提案件数が増えてきています。2024年3月に開催される株主総会における株主提案は、昨年の7件から11件へと増加しています。株主提案が増加していく傾向は、おそらく株主総会のピークとなる6月に向けても継続して増加していくものと考えています。
証券代行業務の受任者として、発行体企業が株主提案に対して、どのように対応していくべきか、また、実際に株主提案を受けてはいない段階からどのような準備や株主への情報発信・開示をしていくべきかなどの課題についてのコンサルティングを行っています。また、機関投資家が注目するポイントの把握に向けて、機関投資家向けのサーベイ等も行っています。このように、証券代行業務についても従来の業務のみならず、様々な広がりが出てきています。

貯蓄から投資への流れについて

問:

「貯蓄から投資へ」と過去20年程度言われ続けているが、いまだに動きが鈍いところがあると思う。今後、この流れは進んでいくと考えているのか。進むとすると、どのような理由で進むと考えるのか伺いたい。

答:

過去と比較すると、これまでと大きく異なるパラダイムシフトにつながっている兆しは十分にあると思います。足元の動きでは、春闘の賃上げ率の第一回集計の数値は昨年に比べると、強いものが出てきました。また、これまで20年余りにわたって、インフレ率2%をなかなか達成できなかった中においても、コスト・プッシュを起点として上がってきたインフレという経緯はあるものの、これからの期待感も含めて申し上げると、徐々に個人消費も盛り上がってくる兆しは感じています。本日に至るまでにおいては、賃金の上昇がインフレ対比でみて、実質的に上がり切るには至っていませんが、今後も継続的に賃上げの動きが続いてくれば、実質的な賃金上昇につながっていきます。また、様々な業界・企業において、着実にコストの価格転嫁は進んでいるように感じます。為替の状況や半導体や自動車業界の明るい兆しが、色々な側面で後押しをすることになり、貯蓄が投資や消費へと移っていく流れは見えてきていると思います。

政策保有株式の削減について

問:

政策保有株式について、損害保険業界は一連の問題の後、政策保有株式をゼロにするという話になったが、信託協会としての政策保有株式の削減についての考え方を伺いたい。

答:

信託協会として、加盟各社の政策保有株式に関する政策についてコメントする立場にはありません。ただ、信託にまつわるビジネスに関して申し上げますと、これは非常に大きなテーマです。これはもちろん昨今の損害保険業界の問題を契機に始まった話ではなく、ここ数年、金融機関や上場会社が政策保有株式の削減に向けて努力をされていますし、機関投資家においても議決権の賛否の基準に設定するケースが出てきていると思います。
政策保有株式を削減する方法は色々あるわけですが、政策保有株式を持っている企業から、有価証券の信託という形で受託をして、コーポレート情報からの遮断を行った上で、出来高等、マーケットインパクトを考えながら適切に売却をしていく、いわゆる有価証券処分信託の取扱いがここ数年増えてきています。
マーケットに過度な負荷を与えないよう、着実に政策保有株式の削減を進めていくために、有価証券処分信託が非常に有用な商品だと思っています。

みずほ信託銀行の社長交代について

問:

個社としては、4月に社長交代になるが、社長としての振り返りをお願いしたい。

答:

2020年4月にみずほ信託銀行の社長に就任し、同時に1回目の信託協会の会長に就任しました。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時期ですので、通常とは違う環境の中での船出でした。
信託協会の活動も含めてお話しさせていただくと、最初の2020年度においては、教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託におけるその時点での税制適用期限延長の活動に邁進したわけですが、無事に実現することができました。2回目の信託協会会長となるこの1年を振り返った時に、信託協会加盟各社のつながりが、とても強くなっていると感じています。信託協会が協賛している「信託未来プロジェクト」は、信託協会加盟各社の若い社員が中心となって、学生に信託を分かってもらうための活動等をやっています。また、DX等の面でも信託銀行、信託会社が手を取り合って、信託の普及に向けた活動をやっています。こうした動きは従来なかったものですし、心強いと感じています。4月から立場は変わりますが、こうした活動について、引き続き、尽力していきたいと思っています。

日銀の政策修正について

問:

マイナス金利の解除が決定されたが、一方で緩和的な環境が続いていくということがある。当面の金融環境をどのように捉えているのか伺いたい。また、現時点で信託業界への影響をどのように想定しているか伺いたい。

答:

日銀の金融政策について、コメントする立場ではないので、個人的な意見としてお話しします。日銀においては、マーケットともしっかりとコミュニケーションを取っていただいて、的確な金融政策を執行されていると思います。今回、マイナス金利の解除を決定した一方で緩和的な政策は継続していくとコメントされています。金融業界のみならず、激変は好ましくないので、これからもマーケットとのコミュニケーションを続けていただきたいと考えています。これまで、先進各国の中でも特殊なマイナス金利という対応を続けてきましたが、今回のマイナス金利解除、イールドカーブ・コントロールの撤廃等を含めて、政策の移行という局面において非常に的確な対応をされていると思います。
その中で、信託が関連する領域は色々ありますが、資産価格に対してどのような影響を与えるかというところは大きな点であると思います。分かりやすいのは株式や不動産ですが、マイナス金利は撤廃することになりましたが、長期金利がこれから大きく上昇していくということは、今の段階で見込まれていません。現在のインフレ率や長期金利を見据えて考えると、実質金利は他の先進国と比べると低い水準にあります。我々も不動産業務が重要な役割を占めており、投資家と話す機会も多いのですが、グローバルな不動産投資家も日本の不動産に対して、ポートフォリオの中でのアロケーションを増やしているように思います。このあたりは我々信託業界にとって非常に大きな影響を与えるところでもあります。一方で、これが行き過ぎてしまうと、資産バブル的な様相を帯びてくるので、両面を合わせ見ながら考えていかないといけないと思います。

企業の非上場化への対応

問:

東証の市場区分再編に関連して伺いたい。最近MBOによる非上場化が増えてきているが、どのように受け止めているか。また、信託業界ではどのように取り組んでいくのかを伺いたい。

答:

非上場化やMBOの動きが多くなっていることは認識しています。この動きについて、我々が賛否を申し上げる立場ではありませんが、様々な資本のあり方の中で、これからバリエーションが増えていくと思います。
信託が大きな役割を担っているという領域として、資産承継や事業承継があるわけですが、特に今ファミリービジネスと称される、いわゆる同族経営の強みというものも見直されていると思います。
一部個社としての動きにもなりますが、ファミリービジネスに対して、会社の所有と経営をいかにマネジメントしていくかについて等のコンサルティングが非常に増えています。
さらに、これから金利のある世界になってくれば、企業の新陳代謝が進んでいくと思われます。そのような中で、親族外も含めたM&AやMBO、もしくは親族内の承継であればファミリービジネスの強化など、私共のコンサルティングも大きく広がりを見せています。会社の事業承継やサステナビリティを維持するための施策はより重要になってきており、こうしたビジネス機会は一層増えていくものと考えています。

セキュリティ・トークンの広がりについて

問:

セキュリティ・トークンは不動産投資にも使われているとのことだが、今後広がっていくためにはどうすればよいかと考えているのか。

答:

これまで、セキュリティ・トークンの発行に当たっては、受益証券発行信託を活用して、信託が器になるケースが多くなっています。特に不動産を原資産とするセキュリティ・トークンは、急速に広がっており、私ども個社としても取り扱っています。これまで、個人単位では、大きな不動産に投資する機会は多くありませんでした。REITへの投資はできましたが、あくまでポートフォリオを運用する不動産会社に対する出資であるので、セキュリティ・トークンにより、個別の不動産を見て投資をする機会が個人単位で出来るようになったことは大きな広がりだと思います。対象資産としては不動産が多い状況ですが、これからは、インフラやプライベートエクイティなど、これまで個人単位ではリーチできなかった対象資産に対して、セキュリティ・トークンの仕組みを使って投資できるようになると思います。これから重要になるのは、セカンダリーマーケットがどのように出来上がってくるかだと思います。既にODXにおいて市場は作られているわけですが、これからどのように利用者が増えてくるのか、大手も含めた証券会社がどのように対応していくのか。今後のセキュリティ・トークンもしくはブロックチェーンを通じた商品の広がりという意味では、このあたりが一つの大きなポイントになるのではないかと思います。

過去の利上げについて

問:

マイナス金利が解除されたが、過去2回2000年、2006年には利上げをして結果的に経済回復が遅れたのではないかという批判もある。過去2回の利上げについてどのように考えているか伺いたい。

答:

信託協会として金融政策にコメントをする立場にはないので、個人の見解としてお話します。過去の利上げのタイミングと比べて、日本の資本市場や企業を取り巻く環境、新しいNISA制度も含めた個人の運用資産が投資に向かっていく兆しが見えていることなど、当時との環境の違いは見いだせるのではないかと思います。先進各国の動きを見ても、局面によっては利上げが経済の大きな後退につながった失敗事例は直近も多く見られます。今後も、マーケットの対応をしっかりとっていただく中で、その様な失敗がないように対応していただくということが重要であると思います。

協会長としての最後の会見について

問:

本日が信託協会会長としての最後の会見になるので、改めて感想があれば伺いたい。

答:

改めて、この一年間本当に皆様にお世話になりました。申し上げたとおり、新型コロナウイルス禍から正常化に向けて動き出した一年だったと思います。新型コロナウイルス禍においては、このような場で皆様と直接お話しすることは考えにくかったのですが、すっかり以前の形に戻ったという実感を持っています。
信託という領域については、貯蓄から投資への促進、DXを活用した投資商品の広がり、コーポレートガバナンスの強化など、信託の力を発揮していかなければならない局面がまだまだたくさんあると思います。
これからは、従来以上に信託協会内のつながりや加盟会社間の連携が必要になってきます。この点についても成果の兆しが見えた一年だったと感じており、今後も大いに期待が持てると思います。

以上