会長就任記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 高倉社長)

2024年04月03日

冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長に三井住友トラスト・ホールディングスの高倉透取締役執行役社長CEOが互選により就任したこと、また、新副会長に三菱UFJ信託銀行の長島巌取締役社長が、新一般委員長に三井住友トラスト・ホールディングスの松本篤執行役常務がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第99回信託大会を4月10日(水)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非ご来場またはオンラインにてご参加いただきたい旨の案内および令和6年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。

会長就任の抱負

このたび、信託協会会長に就任しました高倉でございます。1年間、よろしくお願いいたします。
まず、はじめに、令和6年能登半島地震により、不幸にしてお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された方々に対し心よりお見舞い申し上げます。被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
それでは、就任にあたっての抱負を、大きく2つ述べさせていただきます。
抱負の1つ目は、「社会・経済課題の解決を通じた豊かな未来への貢献」で、具体的には2点ございます。
まず、1点目は「人生100年時代のWell-being」についてです。
人生100年時代においては、長寿化に伴う認知症への対応、急速に進行する少子化やその背景にある若年層の将来不安への対応など、多くの課題が存在します。
信託業界は、世代ごとのニーズに合わせ、信託ならではの商品やサービスを提供し、国民の「資産形成・運用」、「資産管理」、「資産承継」に貢献してきました。
今後とも、幅広い世代の国民が安心して健やかに生きていくことができるよう、国民のWell-beingの実現に向けた取り組みを継続してまいります。
また、家計金融資産等の運用を担う資産運用業やアセットオーナーの高度化・機能強化に向けた取り組みを加速し、資産運用立国の実現に貢献してまいります。
これにより、約2,000兆円の家計金融資産が企業への投資に回り、企業の成長が促進され、企業価値の向上・拡大の恩恵が金融資産所得の増加という形で家計にも及ぶ「成長と分配の好循環」の実現を目指してまいります。
次に、2点目は「ESG・サステナビリティ課題への取り組み」についてです。
カーボンニュートラル実現には様々な分野での投資が必要となり、今後10年で官民合わせて150兆円を超える巨額の資金が必要とされています。
政府や機関投資家の資金だけでなく、家計の金融資産の活用も有用であり、信託の機能を活用した資金還流の促進など多様な取り組みにより、カーボンニュートラルの実現を後押ししてまいります。
また、社会がより複雑化している中、多様なニーズにきめ細かく対応し、社会的課題を解決するため、民間の主体的関与が期待されています。
公益信託法の改正により、担い手の増加や取り組みの多様化が見込まれる中、公益信託の担い手である信託業界として、公益活動の活性化にも貢献してまいります。
続きまして、抱負の2つ目は「受託者精神に立脚した『安心』の提供」でございます。
委託者・受益者と受託者との高度な信頼関係を前提とする信託の基本精神は決して変わるものではなく、今後、最善利益の義務化など、お客さま本位の業務運営が一層求められます。
フィデューシャリーとして、委託者・受益者をはじめとするステークホルダーから信頼される存在となり、お客さま本位の姿勢と忠実義務をはじめとする受託者責任を全うし、国民や社会への「安心」を提供してまいります。
以上、私なりに抱負を申し述べさせていただきました。

以下、質疑応答 

資産運用立国の実現に向けた取り組み

問:

昨年末、政府により「資産運用立国実現プラン」が策定されたところ、信託協会および信託銀行として資産運用立国の実現に向けてどのように取り組んでいくか。

答:

政府の「資産運用立国実現プラン」は、金融資産などの運用を担う「資産運用業」や「アセットオーナーシップ」の改革等を通じ、日本経済の成長と国民の資産所得の増加を目指すものと理解しています。その中で信託業界が果たす役割は大きいと感じています。
具体的には、運用会社がファンド運営に、より多くのリソースを割くことのできる環境を整備できるように、運用資産の管理を担う我々信託銀行がファンド計理事務等の受託サービスを提供することで、資産運用業の高度化に貢献できると考えています。
また、我々信託銀行は企業年金を始めとしたアセットオーナーに対し、これまでも様々なサービスを提供しています。企業年金以外の様々なアセットオーナーにも影響する今回の改革を注視し、多様なアセットオーナーの運用力向上に貢献していきたいと考えています。
最後に、金融経済教育について、信託業界として強みのある年金や承継分野を始めとする様々な領域で「金融経済教育推進機構」の取り組みを後押しし、国民の金融リテラシー向上に寄与していきます。

令和7年度の税制改正および令和6年度規制改革の要望

問:

令和7年度の税制改正および令和6年度規制改革の要望は、どのようなものを考えているか。

答:

要望活動については、これから検討する段階ですが、会長会社としては、人生100年時代のWell-beingの推進に繋がる要望や、ESG・サステナビリティなどの社会・経済課題解決に資する要望を検討していきたいと考えています。
人生100年時代のWell-beingに関しては、規制改革要望として、相続手続きのデジタル化を要望しており、相続手続きのオンライン完結によるお客さまの利便性向上を目指していきます。
税制改正要望としては、信託銀行各社が商品提供している「結婚・子育て支援信託」に係る税制措置が本年度末に適用期限を迎えるため、引き続き、本商品を通じ、「結婚」「出産」「子育て」を後押しできるよう、要望していきます。
ESG・サステナビリティに関しては、業績連動報酬にESG要素を反映する企業が増えてきています。役員報酬制度において損金算入が認められる指標を非財務指標に拡充するよう要望する等、ESG課題の解決に資する活動を続けていきます。

アセットオーナーに関する取り組み

問:

具体的にアセットオーナーに対しどのように働きかけることで運用力向上へ貢献していくのか。

答:

「資産運用立国実現プラン」の中でも、アセットオーナーに関する施策は非常に重要な分野であると考えています。アセットオーナーといっても様々な投資家がいらっしゃいますので、その投資家の方々の置かれた状況やニーズによって、協会として貢献していく方法は様々だと思います。
具体的には、各社がアセットオーナー毎に様々な取り組みを行っていくことになります。一例として申し上げますと、小規模な確定給付企業年金の方々には専門人材の確保が難しい、あるいは運用効率の向上に工夫が必要という課題があると承知しています。「資産運用立国実現プラン」では、企業年金連合会が実施する共同運用事業の発展に向けた取り組みを促すことが掲げられていますが、信託銀行は従来から小規模な確定給付企業年金の方々にも規模のメリットを受けていただけるよう、複数の確定給付企業年金からお預かりした資金を合同して運用するといった投資機会を提供しています。確定給付企業年金の運用目的や期待利回りの捉え方も基金毎に違っていますが、今後もその様な企業年金毎のニーズに寄り添って投資機会を提供し、運用力の強化を支援する活動を進めていきたいと思っています。

相続手続きのオンライン完結に係る規制改革要望

問:

先ほどの規制改革の質問への回答で、相続手続きのデジタル化について言及されたが、具体的にどういった制度変更を求めていくのか。

答:

大きなテーマとしては、信託業界のデジタルトランスフォーメーションを進め、社会に貢献したいということです。その一つとして、先ほどは相続手続きのデジタル化、オンライン完結の話をさせていただきました。相続時に発生する金融機関などの手続きは、金融機関毎に異なり煩雑で、お客さまには多くの書類をご用意いただく必要があります。デジタル化の進展により相続手続きのオンライン完結が目指せるような時代になってきたのではないかと考え、以前より規制改革要望を掲げています。加盟会社各社でもデジタル技術を活用した各種手続きの利便性向上に取り組んでいると承知しており、規制がその妨げにならないよう協会として活動していきたいということです。お客さまの様々なニーズを確りとお聞きしながら進めていきたいと思います。

金利と為替相場の動向

問:

先月、日銀がマイナス金利を解除した一方で、円安傾向が続いている。昨今の金利と為替の動向が日本経済に与える影響についてどのように分析されているか伺いたい。

答:

海外への投資機会を探り円高を期待されている方や、事業を行う上で円安にメリットがある方など、様々なニーズをお持ちの市場参加者がいらっしゃるため、日本経済に与える為替影響をひと言で説明するのは難しいという考えです。断定的なコメントは控えさせていただきますが、基本的な見方として米金利が低下傾向に転じれば、日米金利差の縮小を背景にドル円レートは緩やかに円高に向かう材料となります。既に米金利は下がり始めた状況であると認識していますが、日本銀行による政策変更後もドル円は円安傾向が続いており、今後のインフレ率次第で利上げが進むのか、予測が難しい局面にあります。ただし、特に企業は為替変動に対応されてきた経験があり、環境に応じて前向きに事業に取り組むことができる耐久性も備わってきているものと認識しています。
円金利は久しく動きませんでしたが、今後、企業は金利動向にアジャストしながら事業に取り組んでいく状況になったと認識しています。予想通りにいかないケースも出てくると思いますが、当面はそうしたアジャストを繰り返しながら適正な金利水準、為替水準を市場が探していくことになるものと考えています。

問:

為替に絞って伺うが、今の足下150円を超える円安の水準は、政府は結構警戒を強めているが、少し行き過ぎという印象をお持ちか。

答:

行き過ぎとは思ってはいませんが、もう少し円高の水準を求めている市場参加者が多いのではないかと思います。私個人としてもそのように考えています。

同意なき買収への対応

問:

同意なき買収が増えているが、どのように受け止めているか。

答:

証券代行業務を担う信託銀行として、様々なご相談をいただいています。その中で、各社の企業価値向上のため、情報提供やアドバイスを行ってきており、今後もそういった活動が続くと考えています。
「同意なき買収」という表現で報道されている事案があることは承知していますが、一つ一つの事案はそれぞれ個別性が強いと思いますので、総括的なコメントは差し控えさせていただきます。信託業界としては、実務的なサポートのみならず、各社の企業価値向上に向けた支援を進めてきたいと考えています。

株主総会の傾向

問:

今年の株主総会のトレンドをどのように見ているかを伺いたい。

答:

既に12月決算の企業の株主総会が開催され、いよいよ3月決算企業の株主総会の時期になってきます。
昨年は株主総会資料の電子提供制度が開始された初年度でしたが、大きな混乱はなかったと認識しています。バーチャル株主総会は昨年も進んだわけですが、伸び率は鈍化傾向にあります。スマートフォン等を利用した議決権行使は毎年着実に増加してきており、昨年は株主数で過半を超えました。このように、株主総会のデジタルトランスフォーメーションは着実に進展してきており、今後も、時代に合わせて進展するものと考えています。
6月の株主総会の大きなテーマとして、どのようなことが取り上げられるかについて、全体を見通すにはまだ早いかと思います。昨年までの傾向を見ますと、株主提案が徐々に増えてきていますので、今年も株主提案は増加するトレンドになるのではないかと現時点では考えています。
また、株主提案に至らなくとも、株主総会でNGO団体等から気候変動に関する質問が行われることが、最近の傾向としては増えてきています。地球温暖化についての関心が非常に強くなってきていますので、この傾向も続くものと考えています。
先ほど申し上げましたように、現時点で今年の大きなトレンドをコメントするのは難しいですが、昨年まで増加傾向が続いてきたテーマは、引き続き今年もテーマになってくると思います。

マイナス金利解除に伴う住宅ローン金利の環境

問:

マイナス金利の解除を受けまして、住宅ローンの変動金利について関心が高まっている。各社がどのように競争環境を整えて住宅ローンの変動金利を設定するかについて、変動金利がどうなっていくとお考えか教えていただきたい。

答:

住宅ローンについても、日本銀行の政策金利が長らくゼロ金利、マイナス金利のゾーンで推移し変動しない状況が続いていた中で、銀行間の競争もあって融資が進んできたという状況だと思います。変動金利が今後どうなっていくかという点については、私自身はすぐに状況が大きく変わっていくという感覚は持っていません。それはなぜかと申し上げますと、日本銀行の金利政策の今後の動向もまだしばらく見定める必要がある環境でもあるからです。団塊ジュニアの世代が45歳を越えて50歳になってくるようなタイミングを迎えており、人数の多い世代の年齢が高くなっています。このため、新規の住宅着工あるいは住宅購入がなかなか伸びづらい環境になってきている中で、金融機関の競争と需要とがどのような動向になっていくかというところが大きいと思います。各金融機関の住宅ローンの施策についても、かなりウエイト高く関心を持って取り組んでいる金融機関もありますし、色々な取り組みの中の一分野ということで取り組んでいる金融機関もあり、それによって異なってくる可能性もあります。こうしたことから、現時点では変動金利の先行きの動向は見通しづらい状況にあると思います。

静岡県知事の辞意表明の企業活動への影響

問:

静岡県の川勝知事が辞意を表明したが、これは自治体の許可が得られないことによって民間の企業活動がストップするといった混乱を招いた案件であったと認識している。知事の辞意表明を受けた所感を伺いたい。

答:

リニアの件と承知していますが、関係者毎にそれぞれの立場でのお考えがあろうかと思いますので、この場でのコメントは控えさせていただきます。

外貨建て保険の販売

問:

報道ベースで恐縮だが、金融庁が外貨建て保険の販売について、解約が多いといった調査結果をまとめ、近く報告書を出すという報道がある。個社の話で言うと、昨年、三井住友信託銀行は昨年外貨建て保険の販売方針を変更されたという経緯があるが、外貨建て保険の販売について信託協会としてどのようにお考えか。

答:

外貨建て保険全般について協会としてどう考えるかという観点で申し上げますと、各金融機関で取り扱っている商品も異なり、各金融機関の判断で取り組んでいるものと認識しています。
個社としての状況を申し上げますと、当社で取り組んでいる目標到達型の保険については他の保険と比べて解約率が少し高めでした。保険ですので、本来は長期間の安心を提供することが重要ですが、途中での解約が多いということは長期間の保障機能を十分活かせないという状況でもありましたので、当社では目標到達型の商品の販売をストップするという判断をしました。

信託銀行のDX化への取り組み

問:

信託は対面が多い業種で、中々他の商業銀行とは違う部分がある。信託業界全体としてDXは他の金融機関に比べて進んでいない面があったのか、足元の状況を教えていただきたい。

答:

ご質問は、個人のお客さまに対して、他の業界と比較した場合に、DXの観点で信託業界がどのような状況にあるか、ということだと思います。信託ビジネスには、個人のお客さま向け、法人のお客さま向け、そして投資家のお客さま向けのビジネスがそれぞれ多くあります。投資家のお客さま向けのビジネスでは、グローバルにデジタル化が進んできている領域であり、信託協会に参加されている各社においても、様々な方法で先進的に取り組まれています。一方で、個人のお客さま向けのビジネスは各社各様です。先ほど、デジタル活用により利便性改善が期待できる時代になってきた中で、ライフイベントにおいて労力がかかる分野をDXで変えていくことの一例として、相続手続きを挙げました。また、運用商品の小口化で多くの方に参加していただけるようなマーケットにしていくこともにもDXの活用が期待できます。民主化とも言われるテーマですが、その中でもセキュリティ・トークンを使う仕組みも多く報道されていると思います。セキュリティ・トークンの仕組みの裏側にも信託の機能が使われており、その様な分野でも各社が先進的に取り組んでいます。

以上