会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 窪田社長)

2025年11月20日

冒頭、川嶋専務理事より、令和8年2月24日(火)午後2時から経団連会館にて「信託協会創立100周年記念シンポジウム」を開催するので是非ご参加いただきたい旨案内したほか、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。

窪田会長

信託協会会長の窪田でございます。
これまでの約半年間を振り返りまして、信託協会の活動状況と今後の取り組みについて、報告したいと思います。

4月の協会長就任時に所信として、「信託機能の発揮による社会・経済への貢献」と「信託に対する信頼の確保」の2点を掲げております。

1つ目の「信託機能の発揮による社会・経済への貢献」については、「資産運用立国・投資立国の実現」、「社会的課題解決に向けた取組み」、「次世代を見据えたデジタル活用、信託活用の高度化」の3つのテーマに注力し、活動してまいりました。
資産運用立国・投資立国について、各種政策が進展する中で、「貯蓄から投資」への流れが加速しています。投資信託を含む資産管理型信託等の伸長に伴い、信託財産総額は令和7年3月末時点で約1,826兆円に拡大しました。信託業界は、インベストメント・チェーンを構成する各主体と密接に関わる立場として、引き続き信託の機能を発揮し、貢献してまいります。
足元では、行政においても、次期会社法改正を見据え、実質株主確認制度の創設や株主提案権の見直し等、信託業界に関わりの深いテーマが議論されており、法務省の法制審議会の下に設けられた会社法制部会の委員として、議論へ参画しています。今般の改正テーマはいずれも日本企業の成長戦略をより一層後押しするものであり、引き続き尽力したいと考えております。
これらの活動に加え、先般開催された「Japan Weeks 2025」では、当協会は全国銀行協会主催のイベントに共催の立場で参画し、コーポレート・ガバナンス改革の現状と展望のパネルディスカッションを行いました。こうした活動を通じて、信託協会の資産運用立国に係る取組みを広く認知してもらうとともに、日本への投資呼び込みを後押ししていきたいと思います。

2点目の「社会的課題解決に向けた取組み」につきましては、資産承継ニーズ等に応えるサービスの充実・普及を念頭に、今年度末に非課税措置の適用期限を迎える「教育資金贈与信託」について、その恒久化等を令和8年度税制改正要望として掲げており、文部科学省および金融庁においても税制改正要望に取り上げていただいております。
また、民間の公益活動が一層活性化するよう、令和8年4月に新公益信託法が施行されます。公益信託の主たる担い手である信託業界として、政府の研究会等へ参画し、政府令の検討やガイドラインの策定に携わってまいりました。
引き続き、社会的課題の解決に向けた取り組みを進めてまいります。

3点目の「次世代を見据えたデジタル活用、信託活用の高度化」につきましては、本年6月に改正資金決済法が成立し、信託業界からの提言も参考に、信託型ステーブルコインの裏付け資産について国債及び定期預金による運用を認める等、管理・運用柔軟化が措置されました。かかる制度整備が後押しとなり、今後もステーブルコイン普及をはじめ、ブロックチェーン技術等を活用した金融サービスの拡大に信託業界としても貢献してまいります。

続いて所信の2つ目である、「信託に対する信頼の確保」につきましては、国民の安定的な資産形成を図るために、金融事業者に対して顧客本位の業務運営の徹底が求められる中、各事業者における「プリンシプルベース」での顧客の利益を最優先にした業務運営を後押しすべく、協会内で昨年設置した「顧客本位の業務運営に関するワーキンググループ」において、各社の取組みに係る意見交換を行い、その内容を加盟会社全体で共有していく活動を継続しております。
引き続き、フィデューシャリーの本家本元である信託業界として、過去から受け継がれてきた理念を未来へと伝え、さらに高めていくという責任感を胸に、信頼の礎となるお客さま本位の姿勢を徹底し、受託者責任を全うしてまいります。

最後に、来年1月にむかえる当協会100周年は大きな節目であるとともに、信託機能の発揮をつうじた更なる社会課題解決を目指すうえでの通過点でもあります。当協会としては、これまでの100年を振り返ると共に、2050年に向けて策定した「信託業界のありたい姿」を念頭に、より良い未来を実現すべく、社会的価値の創出をリードする存在として、信託を発展普及させてまいります。


以下、質疑応答

高市新政権に対する評価について

問:

高市早苗政権が発足して11月21日で1カ月となるが、新政権の滑り出しをどのように評価されるか。また、高市政権の下ではこれまでよりも財政拡張的な政策が取られる可能性があり、本日も金利が上昇している。これによる国債市場への影響をどう見ているか。

答:

日本成長戦略本部や日本成長戦略会議において、AI・半導体や造船、宇宙等の17の戦略分野に対し、来年夏の成長戦略策定に向け、官民投資の促進策が取りまとめられていくものと理解しております。17の戦略分野を横断する課題として金融も掲げられており、岸田政権以降進められてきた資金運用立国推進については、高市政権でも継続されると認識しています。当協会としては2025年度の注力テーマの一つとして「資産運用立国・投資立国の推進」を掲げており、引き続き取組みを進めてまいりたいと考えております。
金利については、本日も10年債利回りが上昇していますが、高市首相が基礎的財政収支の単年度目標を取り下げることに言及され、新目標は今後示されるとしており、その影響を見極めていく必要があると考えております。日本は政府債務残高が対GDP比で高く、財政悪化は国債の安定消化や長期金利に悪影響を与え、日本国債や本邦金融機関の格下げリスクも高める可能性があるため、財政政策運営に対する配慮を期待しております。
一方で、高市政権は責任ある積極財政を掲げ、戦略的な財政支出を進める方針を示しており、経済成長期待は大きく、持続的な税収増による債務健全化を期待したいと考えております。

信託協会創立100周年への受け止めについて

問:

信託協会創立100周年への受け止めと取り組みについて伺いたい。

答:

ご承知の通り、信託協会は、来年(2026年)1月に創立100 周年を迎えます。これまでも信託法・信託業法の歴史とあわせて、その時代の社会的要請や解決すべき課題に応じ、信託業界は多様な商品・サービスを提供してきました。100年という節目の年を迎えることができるのも、この場にいる皆様をはじめとする多くの方々からのあたたかいご支援の賜物であり、改めて感謝申し上げます。
また専務理事からの冒頭挨拶にもあったとおり、100周年のタイミングにあわせて信託協会として周年イベントをいくつか計画しております。具体的には信託協会に携わっていただいた方々へ感謝の意をお伝えするとともに、これまで信託業界が歩んできた歴史を振り返り、未来へのビジョンを共有し発信していけるような、記念シンポジウムの開催や、会報信託・パンフレットを通じた対外発信などを予定しております。

ステーブルコインについて

問:

3メガバンクが共同でステーブルコイン発行に向けた実証実験を進めるという報道があったが、信託の活用が今後、徐々に広がっていくのか。企業の需要をどのように見ているか。これに関連して、ブロックチェーンを活用したデジタルの活用ということの今後の展望についても伺いたい。

答:

来年施行の改正資金決済法では、信託スキームを利用したステーブルコイン、いわゆる3号型について、これの特定信託受益権の発行見合い資金の管理・運営方法が柔軟化され、国債や定期預金での運用が可能となり、信託スキームを利用したステーブルコインの発行が促進されていくものと認識しています。
需要という観点で申し上げますと、個社の話になりますが、11月7日に3メガバンクと我々のグループ会社で持分法適用会社のProgmatとプレスリリースを出しております。これは金融庁にて、我々の信託型のステーブルコインを使った実証実験をFintech実証実験Hubで採択いただいものです。今回、三菱商事さんも加わり、この実証実験で様々な検討がなされるものと理解しています。信託型は送金金額の上限がありませんので、資金決済の即時化や、手数料の低廉化が期待でき、利用者にとって利便性の高い環境を整備できるのではないかと考えています。ただ、これは実証実験でしっかり進めてまいりたいと我々も考えております。
ブロックチェーンについても、デジタルの活用については世の中のニーズに応えるためには必要不可欠だと思っており、今回のステーブルコインもProgmatでブロックチェーンを活用しますので、引き続き様々な社会課題解決に資するよう信託協会全体でも取り組んでまいります。

ステーブルコインについて

問:

日本では円建てのステーブルコインの発行が始まったばかりだが、国際的な状況を見ると、アメリカが国を挙げて推進しており、シェアも圧倒的にドル建てが大きい。今後もそういう圧倒的なシェアで拡大を続けると思われるが、こうした状況が今後、金融業界にもたらす影響についてどのように見ているか。日本として、円建てのステーブルコインのシェアを拡大するにあたって、どういう取組みが必要になるか。

答:

ご承知のとおり、トランプ政権においてジーニアス法制定により、ステーブルコインの普及を後押ししているものと理解しています。こうしたアメリカの状況も踏まえ、一部個社の話になりますが、円建てのステーブルコインは日本のインフラに近いところがありますので、整備を進めていく必要があると考えており、今回の3メガバンクおよび我々の実証実験につながっているものと考えています。
但し、これはまだプレスリリースを行った段階であるため、今後、普及に向けた取組みを進めていきたいと考えております。
また、ステーブルコインにも様々な種類があり、我々は3号型の信託型ステーブルコインですが、他にトークナイズドデポジットやCBDCなどのデジタル通貨があります。信託型はすでに法が整備されており、ホストと繋げる必要がない点が最大のメリットと考えております。今後何が主流になるかはマーケットやユーザーサイドが決めるものですが、候補の一つとして信託型ステーブルコインは実証実験を通じて進めて参りたいと考えております。

税制改正要望活動について

問:

高市政権が日本維新の会との政策調整の中で、税制改正に関連して、租税特別措置法について聖域なく改革を進めて行くということがあったかと思う。信託協会は昨年から今年にかけて教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託について、租税特別措置法の適用期間の延長について要望しているが、昨年の要望項目であった結婚・子育て支援信託については、利用が少ないこともあり、検討の俎上に挙げられるのではないかと個人的に憂慮しているが、必要性と、どのようなことを訴えていくのかを伺いたい。

答:

結婚・子育て支援信託については、今年の3月に(租税特別措置法の適用)期限を迎えることとなっておりましたが、更に2年間延長していただいております。これは、お子さん、お孫さんの妊娠、出産、子育て資金について、当該制度を利用して祖父母の方々等が信託を設定した場合に、1千万円を限度として贈与税が非課税となる制度です。
教育資金贈与信託と比べると、まだまだ利用度が低い状況です。本制度は、結婚、出産、育児を支援する制度であり、我々が抱えている少子高齢化の少子化の解決に資するものと思っております。
来年度期限が到来しますので、今後も認知度向上に努め、少子化解決の後押しをしていきたいと考えています。

会社法改正に伴う実質株主の把握について

問:

冒頭の説明であった会社法改正の関係で、実質株主確認制度と株主提案権の見直しについて、不勉強であるが協会長が議論に参加されているという認識は寡聞にしてなかった。現状の議論の方向性と、信託協会としてどのような意見で臨んでいるかということについて、差支えない範囲でお聞かせいただきたい。

答:

説明がやや不十分でしたが、法制審議会会社法制部会には、私自身が会合に参加しているのではなく、信託協会が推薦した委員、会長会社の三菱UFJ信託銀行から選出された者が出席し、検討に参加していることから、冒頭のような説明を致しました。
現在、様々な議論をしておりますが、実質株主の透明性向上の取組みという観点で申し上げますと、発行会社が実質株主を把握できる制度ができるということは、発行会社と株主との対話促進の実現のために非常に望ましいと考えています。
ただ、当然のことですが、発行会社が効率的、安定的に実質株主の情報を取得できる仕組みを構築する必要がありますので、実務上の観点からも、法制審議会では私共の参加者を通じてしっかり説明しております。
もともと信託銀行は株主名簿管理人でありますし、一方、名義株主でもある資産管理銀行、私共の場合では日本マスタートラスト信託銀行の双方の立場から、本制度の実務構築の検討に関わり、また、実務検討会という全国銀行協会の会合にもメンバーとして参加し検討しております。特に株主名簿や、名義株主である資産管理銀行の実務は我々が詳しいので、実務上で何が一番正しく、かつ、発行会社が何に困っていて、どのようにすべきかについて、しっかりと意見発信をしている状況です。

プライベートクレジットに係る市場拡大および運用のリスク管理について

問:

日本でもプライベートクレジットへの関心がかなり高まっているところかと思う。まだ規模感は小さいと思うが、市場の拡大についてどのように捉えているのか伺いたい。
また信託銀行は機関投資家の資金を受託し、外部運用機関との連携やファンド受託を通じてオルタナティブ投資を支えていると認識している。プライベートクレジットについては米自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループなど一部の企業の動きを受け、市場では懸念が高まっているが、今後どのような投資受託機会として位置づけ、どのようなリスクを特に意識してモニタリングすべきとお考えか、伺いたい。

答:

個社としての見解をお話しすることになりますが、プライベートクレジットはファンドをはじめとしてノンバンク部門の領域で資産規模が急速に拡大している状況と理解しています。これは投資家の許容リスクや期待リターンに合わせて様々な投資の選択肢が必要だということで、そのニーズに応じて、このような商品、投資対象が拡大しているのではないかと思っています。日本におきましても、ファンドを通じた投資の選択肢が徐々に増えていると思っています。
後段の話とも重なりますが、信託銀行としましては、まさに運用サイドということもありますので、適切なポートフォリオの分散や、金利リスクの低減を通じて安定したリターンが確保できるということであれば、魅力的な投資対象の一つとして考えられるのではないかと思っており、我々としても様々な研究をしております。一方で、相対的に信用リスクが高いということと、資産の流動性が低いため、経験豊富な外部の機関も含めて連携しながら、信託銀行として投資先の選定や適切なポートフォリオの分散を図ることが重要だと考えており、これをしっかり投資家、委託者にも説明していくということが非常に必要だと思っております。
個社としては、プロパー運用のところでも、全体としてプライベートクレジットへの投資は自己運用でやっていますので、色々と分析をしています。ご指摘の米国での懸念は、今の段階では個社の話で、これが全体に一気に波及するということではないのではないかと思っていますが、十分に注視していく必要がありますので、プロパー運用についても市場部門に対して、しっかり分析するよう指示しています。

有価証券報告書の総会前開示への対応について

問:

金融庁が有価証券報告書の総会3週間前の開示ということを言っており、企業からは厳しいという声が聞かれるところであるが、今後、どのような対応を行っていくか。

答:

有価証券報告書の総会前開示、それも3週間程度前が望ましいという声が投資家からあるということと理解しています。我々信託銀行は投資家の立場もあり、これはより多くの情報に基づいて議決権行使の判断を行うことができるので、投資家から見れば当然望ましいです。かつ、企業と投資家の対話の促進の観点からも有用と理解しています。一方で、今おっしゃって頂いたとおり、発行体側からすると、3週間前に開示するということは、様々な開示情報を求められる中で、実務的には困難ということも認識しており、法制審議会会社法制部会において、有価証券報告書と事業報告を一本化できないかなどの議論を行っているところです。我々も当局等とディスカッションする中で、たとえば議決権の基準日をずらして株主総会自体を後ろ倒しにすることは考えられないかという話もあり、実際に数社は現状行っていますが、これはこれで発行体の実務負担があり難しい面があります。何が最適かということについて、我々は株主名簿管理人の立場でもありますので、実務対応支援や体制整備にしっかり貢献できるように今後も協力し、しっかり意見具申していきたいと考えています。

相続手続きのデジタル化について

問:

相続手続きのデジタル化について、規制改革要望に掲げているが、信託協会が提案される理由や、手続きの効率化につながると思うがまだ進んでいないことについてどのようにお考えか。

答:

これは昨年から規制改革要望で取り上げています。個社の話になってしまいますが、相続実務は、少量多品種であることから、実はデジタル化に一番なじまないところでありました。一方、今AIが出現したことから、それを利用して革新的に進む可能性があると思います。
そのためには、登記の関係やそもそも国の仕組み自体が紙であることを直していただかないとデジタル化ができないので、そういった要望を出しており、それをしっかり進めていただけるものと考えています。まさにAIもどんどん進化しているので、個社としてもこの領域はまだまだデジタル化が進められる領域だと思っていますので、昨年の規制緩和を受けてこれからさらに進めていくことができるものと考えています。

以上