会長定例記者会見(三菱UFJ信託銀行 窪田社長)
2026年03月19日
1年間の振り返り
信託協会会長の窪田でございます。
昨年4月の会長就任から、まもなく1年が経過し、退任の時期が近づいてまいりました。これまでの皆様のご支援に深く感謝いたしております。心より御礼申し上げます。
足元、米国・イスラエルによるイラン空爆を契機に、中東情勢は緊迫度合いが高まっております。現在の状況が長引けば、エネルギー価格の変動や不確実性の高まりに起因した株価など金融市場の変動によって、企業や個人の投資意欲の低下などに繋がる可能性を秘めるため、情勢を注視しているところです。
さて、私は昨年の信託協会長就任にあたりまして、所信として、「信託機能の発揮による社会・経済への貢献」と「信託に対する信頼の確保」の2点を掲げました。この所信に沿いまして、1年間の活動をご報告させていただきます。
1つ目の「信託機能の発揮による社会・経済への貢献」については、「資産運用立国・投資立国の実現」、「社会的課題解決に向けた取組み」、「次世代を見据えたデジタル活用、信託活用の高度化」の3つのテーマに注力し、活動してまいりました。
1点目の「資産運用立国・投資立国の実現」につきましては、足元の中東情勢には留意が必要であるものの、高市政権が前政権から資産運用立国の路線を継承し、「貯蓄から投資」への流れが一段と加速しています。信託財産総額は昨年9月末時点で約1,848兆円となり、過去最高となりました。
信託業界は、インベストメントチェーンを構成する家計・企業・運用会社・アセットオーナーと広くつながり、幅広い役割を果たしております。こうした立場を活かし、各種制度整備に関する議論にも参画してまいりました。
例えば、次期会社法改正を見据え、実質株主確認制度の創設や株主提案権の見直し等について、法務省に設置されました法制審議会の会社法制部会に、弊社社員が委員として議論に携わり、信託実務の観点から意見発信等を行いました。
今後も、信託協会の知見やノウハウを活用し、資産運用立国の実現に貢献してまいる所存です。
2点目の「社会的課題解決に向けた取組み」につきましては、本年4月より施行される新公益信託法について、内閣府主催の研究会に弊社社員が参画し、実務知見などを活かし、政省令や公益信託ガイドラインの策定に貢献してまいりました。また既存の公益信託が新法へ移行する際に支障が生じないよう、体制の構築等の整備を進めております。今後は、公益信託のパンフレットを改訂するなど周知普及活動に注力してまいります。
なお、今年度末に非課税措置の適用期限を迎える「教育資金贈与信託」については、世代間の資産移転の促進による経済活性化等に資することから、その恒久化等を令和8年度税制改正要望にて掲げておりました。
結果としては残念ながら、今年度末で制度は廃止となりますが、既存のご契約者様においては契約終了時まで制度が利用いただけることから、これまでと変わらず対応していくとともに、次年度以降、社会課題解決に資する信託商品・サービスの開発を業界あげて進めていく所存です。
3点目の「次世代を見据えたデジタル活用、信託活用の高度化」につきましては、信託型ステーブルコインについて、裏付け資産の管理・運用柔軟化等の制度整備に加えて、金融庁ご支援による実証実験が行われており、実務的な対応の検討が進められております。また、昨年11月に開催しました当協会内の信託経済コンファレンスでは、「デジタル・AI活用」の観点から業界横断での生成AIの活用を、どのように社会課題解決につなげていくかを議論いたしました。今後も、業界として、信託とデジタルを掛け合わせた金融サービスの高度化に貢献してまいります。
続いて所信の2つ目であります「信託に対する信頼の確保」につきまして、当協会の加盟会社は前年度比2社増加の91社となりました。
フィデューシャリーの本家本元として、当協会は「顧客本位の業務運営に関するワーキンググループ」を通じ、全加盟会社と取組みを共有し、信頼の礎となるお客さま本位の姿勢を徹底することを共有しております。引き続き、信託に対する信頼を確保し、社会の期待・要請に応えてまいります。
当協会は本年1月22日に創立100周年を迎えました。
これまでの歴史を振り返ると共に、将来に向けたビジョンを共有することを目的としまして、2月に信託協会創立100周年記念シンポジウムを開催いたしました。当日は、転換期を迎える日本経済の現状や、信託の歩み・課題・将来への期待について、学識経験者、金融行政や商品利用者のそれぞれのお立場から、大変貴重なご意見を頂戴し、あらためて信託の可能性、社会的な使命を認識するとともに、信託の担い手としてより一層の信託の発展に貢献すべく、当協会をあげて取り組んでいく決意を新たにいたしました。
以上がこの1年間の振り返りとなります。
なお、これまで申し上げた取組みや成果は、当協会の活動に関するすべての皆様のご尽力の賜物であり、この場をお借りして、あらためて御礼を申し上げます。
最後に、会長会社としての務めは、この4月にみずほ信託銀行さんに引き継ぐこととなります。今後とも信託協会の活動に対し、より一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
以下、質疑応答
日銀政策決定会合結果への受け止めについて
- 問:
-
本日、日本銀行で金融政策決定会合があり、金利据え置きとなった。さきほどお話の中でも中東情勢や原油の話が出ていたが、原油が上がると景気の下押し、一方でインフレの押し上げ、なかなか難しい局面かと思うが、その中において日銀へ要望や期待があれば伺いたい。
- 答:
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個人的な見解としてお答えします。金融政策決定会合では利上げが見送られましたが、現在の中東情勢等を踏まえると、自然な判断ではないかと思います。
一方で物価の伸び率は、引き続き鈍化基調にあっても水準は高い状況にあり、金融正常化の方向性自体は当面変わらないのではないかと思われ、今後も利上げは継続されていくものと考えています。
ただし、今月に入り中東情勢の緊迫化から原油価格の高騰が続けば、当然物価の上昇を通じて経済への影響も大きくなります。また政府の政策運営、消費税減税も議論されており、地政学リスク等の状況を見極めながら、過度に市場を動揺させない形で、適切に運営を行い、利上げの適正なタイミングを探っていくのではないかと考えております。
高市政権の財政政策等への評価について
- 問:
-
冒頭の報告でも触れていたが、高市政権が現段階で掲げている積極財政等の評価や、実体経済に与える影響について、どのようにとらえているか伺いたい。
- 答:
-
高市政権では責任ある積極財政を通じ、17の戦略分野に関する成長投資などについて様々な議論が行われていると認識しております。また、8つの分野横断的な課題の中に金融も含まれており、資産運用立国実現についても、前政権から引き継がれ取り組みが進んでいると認識しております。
今まさに国民会議において、6月の中間報告に向けて議論が進んでいるものと認識していますが、戦略分野を成長させていくことによる税収増によって財源を賄っていくことが責任ある積極財政だと思っております。
一方で、消費税減税については財源や減税の仕組みなどを注視していく必要があると考えています。特に財源につきましては、消費税減税は、物価上昇がある中で、個人の消費を下支えする効果が期待されますが、全世代が広く負担する安定的な税目であり、社会保障財源でもあります。財源の議論は、場合によっては金融市場に与える影響も大きいため、しっかり見ていく必要があり、高市政権には責任ある財政運営を進めていただきたいと思っています。
消費税減税方針が信託業界に与える影響について
- 問:
-
消費税減税について、国民会議で議論が進んでおり、先ほど投資力のお話もあったかと思うが、信託協会として、この消費税減税が進んでいった場合にどのような影響があると思われるか、お聞かせいただきたい。
- 答:
-
先ほどの質疑と少し重複しますが、当然消費税減税が行われることにより、物価高による家計の負担感を和らげることに繋がる点は望ましいと考えています。一方で、その財源や制度設計においては、中長期的な財政運営に悪影響を及ぼす可能性もあり、先ほど申し上げたように責任ある財政運営を進めていく必要があると認識しています。
そういった意味では、この金融市場の動向に与える影響も引き続き注視していきたいと思っております。
信託業界においては、資産運用立国実現に向けて日本経済全体に好循環が生まれつつある中で、足元、日本の10年国債利回りは約2.2%で推移しておりますが、責任ある財政運営についてマーケットの期待から外れるようなことがあると、金利が急騰しマーケットが崩れるリスクがあると考えています。その場合、現在の資産運用立国・投資立国実現に向けた流れが変わってしまう可能性があり、信託業界としても注視していく必要があると思っています。
我々は、インベストメントチェーンを構成する家計・企業・運用会社・アセットオーナーと広く関わっておりますので、非常に責任を感じておりますし、しっかり対応していかなければならないので、まさに今の国民会議で議論されている消費税減税の動きについては良く注視し、マーケットに与えるインパクトも見ていかなければならないと思っています。
LBOファイナンスについて
- 問:
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プライベート・デット・ファンドの中で特にLBO分野の取組みを伺いたい。今、足元M&Aが非常な盛り上がりを見せていて、LBOに関しての環境整備が急務になる中、プライベート・デット・ファンドの活用が一つの案としてあり、個別社の話で、三菱UFJ信託銀行は参入しており、将来的には例えばもう少し大きいような生保・年金などの機関投資家に対して幅広いプライベートアセットの投資先としての選択肢としてもあり得るのではないかと思う。改めて会長としてのこの辺りのご認識と、取組み、プライベート・デット・ファンドの活用意義をどのように見ているかご見解を伺いたい。
- 答:
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ご指摘の通り近年、事業承継や事業再編が増加していく中で、LBOファイナンスはこれらの資金ニーズに応える重要な資金供給手段として増加していると認識しています。一部報道でMFSの問題が報じられておりますが、まだこれは個社の問題ではないかと考えており、このプライベート・デットの領域において、LBOファイナンスなどについては、それらの問題とは切り離して、まだ発展していくのではないかと思います。そのような観点で、投資家の裾野拡大に繋がる環境づくりが重要ではないかと考えております。
ここからは個社の話になりますが、我々は特に裾野拡大に向けた取組みに注力しており、MUFGグループ各社とも協働しまして、LBOファイナンスを投資対象としたファンドを設定しています。年金等の機関投資家はオルタナティブ資産への投資ニーズが高いため、ファンド提供通じてLBOファイナンス市場の拡大に貢献してまいります。
LBOファイナンスについて
- 問:
-
先程の質問の更問であるが、今後もLBOファイナンスを対象にした投資ニーズがあるということだったが、これは機関投資家向けに進めて行くということで、今富裕層のところでいろいろな解約が進んでいるとか、こういった商品を富裕層に販売して良いのかという議論があると思う。この辺りのお考えと、何か対策やそういったことができているのかを伺いたい。
- 答:
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個社の話となりますが、現状、個人の富裕層への商品提供はこれからというところです。まずは機関投資家に対し商品に関するディスクローズ等をしっかり行っていくことが重要だと考えています。ご指摘の通り裾野拡大においては、個人の富裕層も選択肢の一つではあると思いますが、これまで以上にディスクローズや商品の仕組みも含めてしっかり説明していく必要があると思っています。
アクティビストの活発化の影響について
- 問:
-
TOBの場面でアクティビストから価格や条件の見直しといった対抗提案が出るケースが増えてきている。信託銀行としては、TOB事務や株主名簿管理にかかわっていると思うが、株主判明調査や、SR支援など企業の株主戦略にかかわる中で、こうしたアクティビストの活発化が実務や企業の株主対応にどのような影響が出ているのか。信託銀行の対応の仕方にも変化があるのか伺いたい。
- 答:
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昨年6月の株主総会では、全てがアクティビストではありませんが、113社に対して株主提案がありその大宗がアクティビストからの提案ということでした。株主提案は最終手段であり、その手前の段階を含めると、一部新聞報道にも出ております通り、アクティビストの活動は非常に活発になっていると理解しています。当然、その中には中長期的な課題への対応ということで、発行体側も対応しなければいけないことが含まれていますが、一方で、一部には短期的な収益獲得を目的としたアクティビズムも見受けられます。これらの動きに対して、信託銀行が、発行体側に立って対応していくことが非常に重要だと思っており、日本経済の発展にも貢献できるものと考えています。
そういった意味では、まさに株主提案が出されプロキシーファイトとなるような、有事の際に対応することは当然ですが、一方で、アクティビストがどのようなことを言ってくるのか、つまり企業価値向上につながることについて、しっかり平時から対応していくことが重要であると考えています。個社の話になってしまいますが、平時からアクティビストからの要求を想定して対応を進めるホワイトペーパーコンサルなどのニーズが非常に強く、取り組みを強化しています。
信託業界としては、実質株主の判明調査を行っておりますが、今まさに法制審議会の会社法制部会で実質株主を把握できる制度の創設が議論されていると認識しています。発行体が効率的・安定的に実質株主の情報を取得できることは非常に重要だと考えており、信託業界としても制度を通じて判明する実質株主の名簿整備など、インフラ構築に積極的に参画していきたいと思っています。
有価証券報告書の総会前開示について
- 問:
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有価証券報告書の総会前開示について、法制審における検討状況をどのようにご覧になっているか伺いたい。
- 答:
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現在まさに法制審議会の会社法制部会で議論されている内容であり、先ほど冒頭挨拶でもお話させていただきましたが、当協会から推薦した委員、かつ弊社から選出された実務担当者が検討に参加しております。当然、株主総会前に開示することができれば、発行体と機関投資家とのコミュニケーションが進みますので、非常に有用であると理解していますが、現在望ましいとされています3週間前開示となると、発行体の負担が非常に大きく、実務上は課題が多いと考えており、実務を担っている我々信託銀行から意見具申をしております。
また、法制審議会では、早期開示の実現に向け、例えば、有価証券報告書と事業報告書および監査を一本化するなど、発行体の負担を減らすことによって実現できないか議論していると認識しております。我々信託銀行は株主名簿管理人として、株主名簿管理業務を行っておりますので、法制度の議論の動向をしっかり見極めつつ、一方で発行体である上場企業の意向も実務面も含めて反映できるようにこれからも取り組んでまいりたいと考えております。
ステーブルコインについて
- 問:
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ステーブルコインの今後の展開についてご見解を伺いたい。
- 答:
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改正資金決済法が昨年成立しまして、本年施行を迎えます。特定信託受益権の発行見合い金の管理・運用柔軟化が今回盛り込まれることで、信託スキームを利用したステーブルコインの発行が促進されると認識しております。
ステーブルコインの取組みは各社で対応が異なりますので、当社の取組みについてご紹介させていただきますと、我々は従来からこの法規制に準拠する形で、自らが発行体の一角として、発行の準備を進めてまいりました。当社としては、2026年度中に発行体制を整備すべく準備を進めております。
ステーブルコインの発行により、資金決済の即時化や、手数料の低廉化が期待できますので、利用者にとって、利便性の高い環境が整備できると考えており、それに向けてしっかり取り組んでいきたいと考えております。
コーポレートガバナンス・コードの改訂について
- 問:
-
コーポレートガバナンス・コードの今後の改訂に、企業の現預金の活用が盛り込まれる予定だが、信託銀行として企業向けのコンサルという側面と機関投資家の側面、両側面からどのように対応していくか伺いたい。
- 答:
-
まず企業向けコンサルの観点では、現預金を過剰に保有していると当然資本効率が悪くなりますので、企業価値の向上につながらないという面があります。これについてはビジネスモデルや経営戦略、財政状態を踏まえて、我々は不動産や証券代行、年金など様々なツールがありますので、単なるコンサルだけではなく、ソリューションと一緒に、企業価値向上に繋がるような提案をしていきます。一方で、企業の状況によっては、現預金を相応に持っておかないといけない場合もありますので、それぞれの企業に応じたオーダーメイド型のコンサルをしっかり行っていく必要があると認識しております。
機関投資家の観点では、こちらも企業向けコンサルと同様ではありますが、現預金を過剰に持っている場合は、その部分を資本効率向上のために成長投資に活かすことや、バイバック等の株主還元を行う必要があるということ、そしてそのための様々な開示を求めていかなければならない立場であります。
個社の話になりますが、当社では金融資産が総資産の50%以上を占めており、ROEが一定の水準、現在は8%にしておりますが、これを下回る場合には、代表取締役の再任に反対する議決権行使基準を設けています。
以上