会長定例記者会見(みずほ信託銀行 飯盛社長)

2018年03月15日

1年間の振り返り

信託協会会長の飯盛でございます。
昨年4月の会長就任から間もなく1年が経過します。この間の皆様のご支援に深く感謝するとともに、心よりお礼申し上げます。
私は、会長就任にあたりまして、所信として、「信託機能の発揮による社会・経済の発展・成長への貢献」と「信託に対する信頼の向上」を申し上げました。
本日は、信託協会会長として最後の会見となりますので、この2点に沿いまして、1年間を振り返りたいと思います。

第1点目は「信託機能の発揮による社会・経済の発展・成長への貢献」についてでございます。
少子高齢化の進展を背景といたしまして、円滑な資産承継や財産管理に関するニーズに応える「遺言代用信託」、「後見制度支援信託」、「教育資金贈与信託」といった商品は、引き続きご好評いただき、残高も順調に増加しております。
税制改正要望・規制改革要望につきましても、社会・経済の発展・成長への貢献という観点で提言を行って参りました。なかでも、税制改正要望では、特定受益証券発行信託の更なる活用に繋がる外国税額の二重課税調整や外国証券取引の安定に資する消費税の取り扱いの明確化が措置されることとなっております。
また、信託におけるリスク管理強化のために、CLS決済の推進や国債決済期間の短縮化といった外為・証券決済リスク削減に関して、関係団体等と連携し、検討・意見発信を行って参りました。
更に、現在、法制審議会信託法部会で公益信託法制の見直しが進んでおり、当協会も公益信託の普及・発展のため議論に参加しております。昨年12月に同部会で「公益信託法の見直しに関する中間試案」が取り纏められ、パブリックコメントに付されましたが、当協会としても、見直し後も円滑な運営が可能な制度設計がなされるよう、意見提出を行っております。今後とも、民間公益活動を支える公益信託制度の普及・発展に貢献したいと思っております。
以上の通り、各種信託商品の普及や税制改正・規制改革要望を通じて、多様化するお客さまのニーズにお応えし、引き続き社会・経済の発展・成長に貢献して参りたいと思います。

次に、第2点目の「信託に対する信頼の向上」についてでございます。
信託協会では、加盟各社が、信託の担い手としてフィデューシャリー・デューティーを果たし、社会からの信頼を維持・確保するため、「倫理綱領」を定めております。昨今、国内外において、持続可能な開発目標、いわゆるSDGsの達成に向けた様々な取り組みが進められていることを受け、信託協会においても、持続可能な社会の実現に向けて社会的責任を果たすため、「倫理綱領」を改定しました。
また、外部講師を招いた日本版スチュワードシップ・コードに係る信託オープンセミナーや、信託代理店や新規加盟会社向けの研修を行い、フィデューシャリー・デューティー等の周知に努めております。
お客さまのニーズが多様化し、信託の活用領域が拡大する中、信託に対する期待はますます高まっております。そうした期待に確りとお応えしていくため、加盟会社が、より高度なフィデューシャリー・デューティーを果たし、信託に対する一層の「信頼」の向上が図られるよう、引き続き必要な活動に取り組んでいきたいと思っております。

以上がこの1年間の簡単な振り返りになります。
これまで申し上げた取り組みやその成果は、当協会の活動に関係するすべてのみなさまのご尽力の賜物でありまして、この場をお借りして、改めて厚くお礼を申し上げます。
会長会社の務めは、この4月に三井住友トラスト・ホールディングスさんに引き継ぐことになりますが、今後とも信託協会の活動に対して、一層のご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

以下、質疑応答

仮想通貨の信託

問:

「仮想通貨を不動産や金銭と同じように信託財産として扱えるか」といった議論がありますが、協会としてのご見解をお伺いしたい。また、協会として金融庁等と協議している事実はあるのでしょうか。

答:

仮想通貨に限らず、AIやIoT、ビッグデータ等、デジタルイノベーションが我々の社会・生活に浸透し大きな変化を及ぼす中で、金融業界としてもフィンテックに対して確りと前向きに取り組むことによって、お客さまに新たな利便性やサービスを提供していくということが極めて重要な課題であると認識しております。私ども信託協会も信託経済研究会において、フィンテックの活用や、その中で仮想通貨についても研究しているところではありますが、協会として、例えばコードを作るだとか、プロトコルを作っていくといったことに取り組んでいる訳ではございません。こういったことについては、加盟各社において取り組んでいただいていると考えています。
ご質問の1つ目でございますが、昨年の4月に施行された改正資金決済法において、仮想通貨について「財産的価値」という言葉で定義されています。信託の受託可能財産は「財産権一般」であり、資金決済法における「財産的価値」がこれにあてはまるということであれば、信託法改正等に取り組む必要なく信託財産として受け入れることができるのではないかと考えています。
また、仮想通貨についての位置付け等々については、協会として当局と協議をしているといった事実はございません。

地方銀行による信託業務参入

問:

地方銀行の間で信託業務に参入するという動きが相次いでおり、少子高齢化が進んでいる中で需要があると思います。一方で、地方銀行に十分なノウハウがあるのか、また、利用者保護の観点から課題があるのではないかと思うのですが、協会として、こうした動きをどのようにご覧になっているでしょうか。

答:

現在、信託協会に加盟している地域金融機関は21行あります。直近では、昨年4月に、南都銀行に加盟していただいています。最初の振り返りのところでも申し上げました信託に対する期待の高まりの証左として、地域においても信託に対するニーズが高くなってきています。地域金融機関が新たなビジネスとして参入を図り、お客さまのニーズに広くお応えするという観点においては大変望ましいことではないかと思っています。
一方で、ご質問にもありましたように、信託自体は高度な専門性ならびに相応のインフラを要するものであります。そういった観点で、新たに参入される方々につきましても、これも振り返りのところでも申し上げましたセミナーの開催や、我々の倫理綱領を通じて勉強していただくといったことで、協会として各加盟会社におけるクオリティの確保に取り組んでおります。

メガバンクにおける商業銀行と信託銀行の連携

問:

メガバンクにおける商業銀行と信託銀行の連携についてお伺いしたい。三菱UFJ信託銀行が商業銀行と一体化を進め、この4月からはフロアも一緒に仕事をされるという話を聞いています。みずほとしては従前からOne MIZUHOということでやっており、信託業界として、または、みずほ信託としてでもよいが、このような動きをどのように見ているかということと、みずほとしてどのように連携を進めていきたいかということについてお伺いできますでしょうか。。

答:

本日は信託協会長としての記者会見なので、みずほとしての個別の戦略の回答については差し控えたいと思います。
先ほど申し上げましたが、デジタルイノベーションの発展、それをどう活かしていくかということも含め、お客さまの利便性に叶うものであることが重要であり、そのような観点で連携戦略も考えていくことが必要ではないかと、私個人として考えています。

民法改正に係る遺言信託への影響

問:

少し細かい話かもしれませんが、民法の相続法改正の影響で遺言の縛りが緩くなるという話があります。これは信託銀行のビジネスの1つである遺言信託にどのような影響があるのか、あるいはそもそも影響がないのか、信託協会として、あるいは会長の個人的な見解でも良いのですけれども、どのように見ていらっしゃるのか教えてください。

答:

相続法改正については、まだ国会で審議中ということであり、何か申し上げられる状況ではなく、また、現在協会としての対応を何か検討しているものではないので、個人的な意見としてお話します。
我が国において少子化・高齢化が進んでいく中、また「相続=争続」というような状況が人口に膾炙されている中において、円滑な相続(資産承継・事業承継)についてのニーズに対応することが今回の法改正の方向感と認識しています。
ご質問にあった遺言信託は、遺言執行引受予諾などを想定されていると思いますが、信託業界が予てお客さまの相続・資産承継のお手伝いをする際に重視しているのは、「いかに円滑な資産の承継、事業の承継を実現していくか」、そのために「どんな分配案にするのがいいのか」、あるいは事業承継であれば、具体的な承継の方法、例えば非上場企業であれば、資産管理会社を設立するといったことにより、自然人の承継から法人の承継という形にしていくといったコンサルティングであり、各社それに取り組んでいるところです。
改正案を読んだ限りでは、遺言をお預かりするという業務について、場合によっては信託の受託件数が減る可能性も考えられます。現時点では、改正される内容や制度を利用する方の属性、例えばどういう方を利用の対象と想定しているのかについて分析していないので正確には答えられませんが、遺言信託業務も承継コンサルティングの一部分として行っている業務ですので、法改正によって、直接的に大きなビジネスとしてのコンフリクトがあるとは考えていません。

成人年齢引き下げによる信託銀行のビジネスへの影響

問:

先日閣議決定されたが、成人年齢の引下げについては、信託銀行のビジネスに何か影響を及ぼすことは考えられるでしょうか。

答:

例えば、後見制度支援信託への影響が考えられるかと思います。未成年者の後見を目的として取組んでいるケースがあり、そういったところのルールの見直しが必要かもしれませんが、今のところはあまり大きな影響は想定しておりません。

遺言代用信託の受託状況等

問:

先程の地銀の信託への参入について、遺言代用信託を信託銀行が地銀を通して販売しているケースもあると思うのですが、そちらはどの程度伸びているか、また、地銀が自前でやられているところと代理店としてされているところの棲み分け、動機付けの違いについて、どのように見ていらっしゃるのでしょうか。

答:

遺言代用信託は、高齢化の中で資産承継の非常に有力な手段の1つであり、全体としての計数が受託累計15万件と伸長しており、増加基調と言えます。
地域金融機関での取扱いですが、信託への本体参入を果たしていらっしゃるところで遺言代用信託を取扱商品として掲げられているところが多数ございます。代理店として取扱いいただいている金融機関については、考え方としては、本体参入をしていない、ないしは本体参入をしていても、取扱いの信託商品として、リストアップしていないところだと思います。先程も申しましたが、信託は相応のインフラが必要でございますし、個社の遺言の例ではありますが、お預かりして執行するまで平均7年から8年程度要しており、その間、確りと管理するインフラが必要です。こういったインフラを新たに作るということと、それを作らずに代理店として自行のお客さまに提供して行くことのプロスアンドコンスをそれぞれの地域金融機関がお考えになって、方法をお決めになっているのではないかと考えます。

以上