会長就任記者会見(三井住友トラスト・ホールディングス 大久保社長)

2018年04月04日

冒頭、振角専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長に三井住友トラスト・ホールディングス 大久保取締役執行役社長が互選により就任したこと、また、新副会長に三菱UFJ信託銀行 池谷取締役社長が、新一般委員長に三井住友トラスト・ホールディングス 白山執行役専務兼執行役員がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第93回信託大会を4月11日(水)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非出席いただきたい旨の案内および平成30年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。

会長就任の抱負

この度、信託協会会長に就任いたしました大久保でございます。
これから1年間よろしくお願いします。就任にあたりまして信託協会会長としての抱負を述べさせていただきたいと思います。

抱負の1つ目として申し上げたいことは、「信託機能の活用を通じた社会・経済への貢献」でございます。具体的には、3点ありまして、1点目に「安定的な資産形成の促進など社会・経済の発展への貢献」、2点目に「高齢社会への対応」、3点目に「アジア諸国へのノウハウや知見の提供」というものです。

まず、1点目の「安定的な資産形成の促進など社会・経済の発展への貢献」について申し上げます。
私ども、信託協会加盟各社は、これまで担って参りました資産運用や資産管理などの重要な役割を改めて認識したうえで、お客様本位の業務運営に努めていく必要があると認識しています。お客様のご期待にしっかりとお応えし、将来の生活への不安感を払拭いただけるよう、安定的な資産形成の促進に知恵を絞って参ります。
また、「教育資金贈与信託」など資産の世代間移転により経済の活性化に資する商品の提供や、機関投資家としての実効性あるスチュワードシップ活動の推進などを通じて、社会・経済の発展に、より一層貢献して参りたいと考えています。

次に2点目の「高齢社会への対応」について申し上げます。これまでも、私どもは、高齢社会におけるお客様のニーズを踏まえ、「遺言代用信託」や「後見制度支援信託」など、信託の特性をいかした商品を開発し、提供して参りました。引き続き、長期的な財産管理機能を活用した、商品・サービスの提供と普及に努めて参ります。

最後に、3点目の「アジア諸国へのノウハウや知見の提供」につきましては、アジア諸国での足許の法制の改正動向等を踏まえ、受託者としてこれまで蓄積してきた信託に関するノウハウや知見の提供を行うことにより、アジア諸国の信託制度の発展にも貢献して参りたいと考えています。

抱負の2つ目として申し上げたいことは、私どもは信託の担い手として、「変化への対応と安心の提供」の両立を強く意識し、実践しなければならない、ということです。
社会・経済が大きく変化する中、新たな潮流を捉えた創造性の発揮と専門性の更なる向上を図るとともに、受託者精神をまっとうし、お客様に安心して信託をご利用いただくことが重要な使命であると考えています。今後も、変化への対応と安心の提供を両立させ、信託の更なる普及と健全な発展に尽力して参ります。

以下、質疑応答

信託の利用状況と今後の課題

問:

「信託商品・サービスの更なる普及」との話があったが、足許の信託の利用状況と今後の更なる普及に向けた課題は。

答:

信託の残高ということで言うと、2018年1月末には1,100兆円を突破し、過去最高額を更新しています。最近の残高の伸びの主な要因は色々とありますが、その中で主なものを2つ挙げますと、1つは、貯蓄から資産形成の促進による投資信託の増加、もう1つは、大口の機関投資家による信託スキームを活用した運用の増加というものが挙げられます。残高の伸びというものは信託に対する信頼と期待の表れと認識していまして、引続き、このご期待にお応えするために、これまで以上に経済の発展や社会の課題の解決に貢献して参りたいと考えています。
それから、今年度の課題・テーマについてお話します。私ども信託協会の加盟各社は、これまでも社会・経済の変化や多様性を捉えて商品・サービスを提供してきました。今年度のテーマといたしましては、安定的な資産形成の促進といった政策的課題や、まさに高齢社会におけるお客さまのニーズに対して、信託という切り口からの貢献についてさらに知恵を振り絞っていくということです。因みに、その関連で申し上げますと、平成31年度税制改正要望につきましては、来年3月に期限を迎えます教育資金一括贈与の非課税措置の恒久化等に関する要望や、そのほかに、国民の安定的な資産形成に資する提案を行っていきたいと考えています。要望の具体的な内容については、機関決定次第、信託協会のホームページ等を通じてご案内いたしますので、宜しくお願いします。

高齢社会への対応について

問:

先程の抱負ならびに質疑応答でもあったが、「高齢社会への対応」ということで、今後、健康寿命が延び、「人生100年時代」の到来が予想されているが、その中で、信託商品やサービスに対して期待される役割は。

答:

高齢社会への対応は、私どもの中でも中心的な課題ということで、これまでも遺言代用信託や後見制度支援信託等々、高齢者のお客さまの財産の管理を安心して任せていただけるような信託商品・サービスを提供してきました。これについては、件数も、それぞれ、15万件、2万件を超え、非常に延びているわけですが、さらにニーズは非常に多様化しており、そういうものに対して色々な商品を我々業界としても知恵を出していかなければならないと思っています。1つ付け加えますと、「人生100年時代」というお話がありましたが、これまでの高齢社会への対応と言うと、財産の管理や承継ということを中心にやってきましたが、「人生100年」という中では、どこからを高齢者と言うかということはありますが、「高齢者の資産運用はどうあるべきか」という課題にも色々と検討して対応を考えていかなければならないと思っています。

マイナス金利について

問:

個社に関わる部分もあろうかと思うが、マイナス金利による投資家への手数料については、現状、基本的に信託各社が顧客に賦課していると思うが、どういう状況にあるのか。

答:

マイナス金利については、個社ベースでそれぞれ対応されているところでございますので、この場でのお答えは控えさせていただきたいと思います。

マイナス金利について

問:

マイナス金利が続いていることに対して、信託協会としてはどういう意見・要望を持っているのか。

答:

現在の金融政策の評価ということに関して、私どもの方で評価をしてお答えするという立場にはございませんが、私の現在の認識というレベルでお話をさせていただきます。実際、この金融政策自体は、出口戦略というものも色々と語られていますが、政策の効果とその裏側にある副作用のバランスの中で決定されているものと考えています。黒田総裁が再選され、副総裁は2人交代されていますけれども、これまでのご発言等や、物価2%という目標への距離感を考えますと、現在の金融政策は当面大きく変わることはないのではないかと考えています。いずれにしましても、金融機関としては、どこかの段階で通常の金利の状況まで戻ってくることを期待していますが、そこに至る道筋については、マーケットとの対話を慎重に行いつつ進められるものと考えています。

仮想通貨ビジネスの可能性

問:

仮想通貨について伺いたいが、先月の会見で、「仮想通貨を不動産とか金銭と同じような形で信託財産として扱えるかどうか」という話を聞いた際に、前会長は、「改正資金決済法における財産的価値に読めるということであれば、信託法改正等に取り組む必要なく信託財産として受け入れることができるのではないか」というような認識を示したが、こうした発言を踏まえて、仮想通貨ビジネスへの信託の関係の仕方や可能性について大久保会長はどう考えるのか。

答:

昨年4月に改正された資金決済法において、仮想通貨は「財産的価値」と位置づけられています。資金決済法上の「財産的価値」ということが、いわゆる信託法上の「財産」ということになれば、信託財産として受託ができますが、現段階では、信託法上の「財産」であるという整理がなされたとは認識していませんので、私どもとしても、引き続き、関係当局の整理の方向性を注視していきたいと考えています。そういう意味では、先般の飯盛前会長がご回答されたことと同じ認識です。

仮想通貨のビジネスとしての魅力

問:

仮想通貨のビジネスとしての魅力をどのように捉えているのか。

答:

仮想通貨自体に関して言うと、制度として見ると、ある意味、決済の新しい社会インフラの取り組みということでもあると思いますが、当然のことながら、利便性の向上と同時に利用者の保護、マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策等の整備が必要になってくると思っています。
ビジネスということで言いますと、色々な動きが出てきている中で、ある意味、投機の対象になったり、先般も多額の仮想通貨が盗まれたり、というようなことも起こっていますので、いわゆる新たな社会インフラとなる制度としては、これから色々やるべきことは出てくると思います。この辺りは、当局もかなり取り組まれているという認識を持っています。先程、「信託財産として受ける入れることができるのか」というご質問もありましたが、今の段階で、どのようなビジネスがあるかということにつきましては、各社がそれぞれ検討されているところと思いますので、協会としてのコメントは控えさせていただきたいと思います。

スチュワードシップ・コードの改訂

問:

スチュワードシップ・コード改訂にあたって、社外取締役の充実、役員の選解任の手続きの明確化等の方向性が示されているが、資本市場の主要なプレーヤーとして、信託業界はどのように実効性を担保するのか。

答:

スチュワードシップ・コードへの取組みについては、各企業において相当進んできていると思っています。そういう中で、私ども機関投資家の立場で申し上げますと、いわゆるエンゲージメント活動をどれだけ拡大し深めていくかということだと思っています。
エンゲージメント活動にはいくつかのパターンがあって、1つは、1社1社とのエンゲージメント活動です。これは、機関投資家各社がかなり体制も整えつつ対象も広げて進めているところと認識しています。
もう1つは、パッシブ運用におけるエンゲージメントです。現状、運用の中身については、アクティブが減少してパッシブが増えている、というのがグローバルなトレンドですが、パッシブ運用に係るエンゲージメントについては各社ごとにそれぞれ進められていると認識しています。
因みに、三井住友信託銀行個社について申し上げますと、パッシブ運用についてもエンゲージメントを進めようとしており、東証一部の時価総額の9割をカバーすることを目指しており、近いところまでカバーできています。また、パッシブ運用のエンゲージメントを進める際に、もう1つ言われているのが集団的エンゲージメントということがありますが、これも個社ベースで申し上げますと、機関投資家協働対話フォーラムという団体に参画しています。これは昨年10月に発足して、活動を始めたところではありますが、こういった集団的エンゲージメントの方策も使いながらさらに拡大していきたいと考えています。

仮想通貨への取組み

問:

仮想通貨については、これから当局と協議しながら、状況を見てというところかと思うが、三菱UFJ信託銀行が参入というか商品、サービスを出すような意向がある中で、個社として取り組まれていくことをどのように見守っていくのか、個社が取り組むのであれば協会としても何らかの対応をとるのか、それとも別の動きになるのか。

答:

三菱UFJ信託銀行が仮想通貨に関して色々とビジネスを考えているというのは報道ベースでしか存じ上げないのですが、これは、個社それぞれの事業戦略の中で色々な戦略をお考えになっていることなので、これ以上のコメントはご容赦いただきたいと思います。
協会としてどうかということについては、今後のあくまで仮定の話になります。仮想通貨のビジネスの中で、例えば、信託に関する色々な法制整備が進むなど、色々な取り組みが広がる段階・時点において、全体の中でやるべきことはないか、ルールを定めたり啓蒙活動をしたりすることはないかといったことに関して、協会として判断することになろうと思います。

米中貿易摩擦

問:

信託に関する話ではないが、アメリカと中国との間で貿易摩擦が激しくなっているが、こういった米中の貿易摩擦がマクロ経済に与えるインパクトを会長はどのように考えるのか。

答:

私個人としての考え方について申し上げます。米国の保護貿易主義的な様々な提案というか通告により世界経済が少し不安定になっているところもあります。それに対して中国からのカウンターということで、米中の貿易摩擦が懸念されるという認識は皆様と同じです。ただ、全体的なリスクとしては、実際問題として、米国、中国という世界の貿易の中の2つの大きな国がどこまで全面的な貿易戦争と言われる状態まで考えているのかと言うと、私個人としては懐疑的です。これは、貿易に限らず、色々な国際間、国対国の協議は、ある意味、高めのボールを投げてある程度の着地に落ち着かせるといった協議の手法があると思いますので、これによってマーケットが大きく動いたりすることは、気になるところではありますが、本格的な米中間の貿易戦争になるとは今のところ私自身は考えていません。

以上