会長就任記者会見(三菱UFJ信託銀行 長島社長)

2022年04月05日

冒頭、川嶋専務理事より、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から会場を変更して開催したことを説明したうえで、本日開催された理事会において、信託協会の新会長に三菱UFJ信託銀行の長島取締役社長が互選により就任したこと、また、新副会長にみずほ信託銀行の梅田取締役社長が、新一般委員長に三菱UFJ信託銀行の石川取締役専務執行役員がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第97回信託大会を4月13日(水)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非ご来場またはオンラインにてご参加いただきたい旨の案内および令和4年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。

会長就任の抱負

この度信託協会の会長に就任いたしました長島でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。会長就任にあたり抱負を2点申し上げます。

1つ目は、信託機能を一層活用して社会・経済課題の解決に貢献してまいりたいという点です。本年度は、具体的な取組みとしては3点考えております。
1点目はデジタル化への取組みについてです。足もと、コロナ後の社会を見据えた様々な取組みが進んでおり、金融分野におけるデジタル化はその一例になります。デジタル証券やステーブルコインの法制化等、新たな金融サービスの提供や決済インフラの高度化が進んでおります。私どもは信託の機能を活用することで、金融分野のデジタル・イノベーションの推進に貢献してまいりたいと考えております。
2点目はESG課題への取組みについてです。持続可能な社会の実現に向けて、ESG課題解決に向けた取組みが進んでおります。私どもは責任ある機関投資家としての立場のみならず、企業のガバナンスに関する課題解決のご支援・サポートをしており、その立場から、ESGやサステナビリティに関する取組みの促進に資する制度の提言等を行ってまいりたいと思っております。
3点目は家計の資産形成・管理・次世代への承継に関する取組みについてです。少子・高齢社会において、家計の資産形成・管理・次世代への承継の重要性は非常に大事なものですが、信託を活用することで、お客様(委託者)のご意志に沿って世代を超えて財産を管理することが可能となります。このように信託の長期間にわたる財産管理機能を発揮すること等を通じて、すべての世代が安心して生活できる社会の実現に貢献してまいりたいと思っております。 

続いて抱負の2つ目は、信託に対する信頼の向上に努めてまいりたいということです。
信託協会には信託銀行のみならず、2004年の信託業法改正を機に信託会社の加盟が進み、現在の加盟会社は合計82社にのぼっております。信託の担い手が広がってきたということだと思います。
担い手の広がりにより、広く信託商品・サービスの提供が進んでまいりましたが、私ども信託の担い手である受託者が改めて強く意識しなければならないのが、「受託者責任」の重みであります。
信託は「信頼」を基礎に置いた制度であります。我々受託者は、お客様の信頼に応えるために、フィデューシャリーとして高い倫理観と専門性に基づいて、常にお客様のために誠実に行動しなければなりません。
社会・経済課題の解決に向けて受託者責任を全うすることで、確りとやっていきたいと思っております。今年は1922年の信託法制定から100年という節目の年になります。100年にわたる長い歴史の中で培われてきた信託に対する信頼の更なる向上に努めてまいりたいと考えております。

以下、質疑応答

ウクライナ侵攻を踏まえての経済情勢と信託業務への影響

問:

コロナ禍から経済が回復していく途上で、ウクライナで危機が起き、また物価の高騰等、経済が混迷している。現在の経済の情勢をどのように見ているか。また、信託業務への影響はどうか。

答:

ロシアのウクライナ侵攻を踏まえての経済情勢と、信託業務への影響ということで、お答えいたします。
経済情勢については、コロナ感染が広がり、2020年に経済が下押しされたことをボトムに、感染が徐々にコントロールされるにしたがって回復基調をたどっていると認識しております。その中で、今回のウクライナ侵攻が起こったことに伴い、資源価格の上昇や、一部製品の供給不足により、ソフトパッチ(経済成長が一時的に鈍化)があると認識しております。一方で、ロシア経済の世界経済に占めるウエイトは決してそれほど高くなく、長いトレンドで言うと、やはりデジタルやグリーンといった大きな経済変革のトレンドがあるので、長期的な投資を主導とした景気回復の基調は変わらないのだろうと思っています。その中での、ソフトパッチというような状況が、どの程度続くかについては、注視をしていきたいと考えております。
信託業務への影響ですが、加盟会社に対する直接的な影響は、それほど大きくないと認識しています。信託関連で言うと、機関投資家として運用している資産の中に、ベンチマークに連動する運用商品があり、一部ではロシア国債や分散投資をしているロシア株式がインデックス構成銘柄として含まれております。資産の管理をしている中でも、ファンド運用者が運用する資産に、ロシア関連の国債や、企業の株式が入っているところもあります。現在は、流動性がなかったり、取引所が閉まっていたりということで、必ずしも売買ができないという状況だと認識しておりますが、今後の市場動向や経済制裁・金融制裁の動向についても注意深く、丁寧に把握して、運営を行っていきたいと考えております。

税制改正要望への対応

問:

今年度の税制改正に向けて、どういった要望をされるお考えがあるのか、現時点でのお考えを伺いたい。

答:

税制改正の要望について、これから加盟会社の皆様のご意見等を聞きながら、進めていきますが、基本的には、今年度末に教育資金贈与信託および結婚子育て支援信託が適用期限を迎え、贈与税の非課税措置が期限切れとなります。当非課税措置の恒久化、少なくとも期限の延長を税制改正要望として掲げたいと考えております。特に、教育資金贈与信託については、2021年の9月末の信託設定額が累計約1.8兆円、実際に教育目的に払い出されたご資金が約8,000億円になっておりますので、一定の効果、制度的な実績を果たしているのではないかと考えています。そうした役割の重要性があると認識しておりますので、非課税措置の恒久化、適用期限の延長を要望させていただきたいと考えております。

ESG、DX課題への協会としての取組み

問:

冒頭でも少しお話があったが、ESG課題への取組みと、デジタル化、DXについて、協会としてどのようなことができるのか、もう少し詳しく伺いたい。

答:

ESGに関しては、信託協会で令和2年の税制改正要望から、役員報酬制度において損金算入が認められる業績連動給与の算定指標に、ESG成果指標等の非財務指標を追加するという要望を掲げております。現状こうしたESG成果指標が、評価の透明性や客観性に課題があるということで採用されておりませんが、こうした課題を解決しながら、引き続き、要望活動を続けていきたいと考えております。また、昨年度、企業のESGへの取組み促進に関する研究会を行い報告書も発表しております。その中で、役員報酬にESGへの取組みを連動させるような仕組みを取り入れると、結果として、会社のESGへの取組みが促進され、国全体、あるいは企業としても、ESGに関する活動が活発になるという分析をしております。実際に、ESG成果指標を役員報酬の対象にしている会社も増えてきていると認識しておりますので、非課税対象にESG成果指標等の非財務指標を追加させていただきたいと考えております。
デジタルに関しては、今まさに資金決済法の改正法案が国会に上程されており、信託スキームを活用したステーブルコインの取り扱いが審議されていると認識しております。この信託スキームを活用したステーブルコインには、倒産隔離機能があり、今後、実際に制度化するにあたって、政令や府令の整備が必要となるので、協会としても情報発信や整備に向けて、関係省庁と意見交換をしていきたいと考えております。

貯蓄から投資への流れ

問:

家計において貯蓄から投資へということが最近言われているが、信託財産総額の直近の傾向から、貯蓄から投資への流れが今どうなっているかというご認識と、先ほどの税制以外の部分で協会としてPRしたいことをお伺いしたい。

答:

信託財産は、株高や投資信託を中心としたスキームの提供によって、2021年9月末時点で約1,400兆円まで増加しているのが足もとの状況になります。投資信託のみならず、DC(確定拠出年金)の加入者は統計によると2017年から2021年までに約1.5倍に増えているので、貯蓄から投資への流れというものは一定程度進んでいるのではないかと認識しております。協会でも、今年度の信託経済研究会のテーマで「家計の資産形成促進と信託」という内容で活動する方針で、その内容をコンファレンスなどで発表していきたいと考えています。その他では、大学や地方公共団体などと連携して、講師を派遣し金融経済教育などを行っております。また、民間で実施している若い方々への投資教育を広めることを推進しているコンソーシアムを後援しており、特に若い方々に投資や資産形成の重要性を訴えていきたいと考えております。

問:

今の質問に関連して、日本において貯蓄から投資が進んでいないという指摘があり、先ほど触れたDCにおいても、元本確保型商品である保険や銀行預金での運用割合が半数程度になっていて、実は投資になっていないのではないかという指摘がある。この部分の理由や課題、世代間、日本と海外の違いなど、どのように分析されているか。

答:

個人的な意見になりますが、実態として日本のDCの多くの部分が銀行預金のままで運用されているのが現在の状況だと認識しております。アメリカ、イギリス、オーストラリアのDCは、大半が株式などのリスク資産に長期投資をされていて、その結果として、2、30年で資産も非常に増えたという事実がありますので、日本でも若いころから銀行預金だけではなく、株式や不動産に分散投資をして資産を増やすということを進めていく必要があると考えております。
特に若い方には長期投資することの重要性、ある程度長い目で見て、株やそれ以外の資産を含めてリスク資産に投資することの大事さ、そうした投資をすれば資産が増えるということをご認識いただくことは、信託協会としても行っていきたいし、非常に重要だと認識しています。

ステーブルコイン

問:

ステーブルコインについて、資金決済法の改正でしっかり枠組みが作られると世界でも先進的な取組みだと聞いている。今後、他国でもステーブルコインの枠組みができ、広がっていくことが想定されると思うが、日本だけでなく、世界的に協力してやっていくのか、他国への普及等も図っていくのか、そのあたりのお考えを伺いたい。

答:

ステーブルコインは、いわゆる電子決済手段の一つとして、徐々に広がっていくと考えております。そのときに、なぜステーブルコインかというと、価値が変動する決済手段の場合、受け取った人や決済手段を使っている人が当然不安になり、商取引にも使われなくなっていくことから、やはり欧米でも価格が安定したステーブルコインに対する需要というのは非常に大きいと考えております。今回の法改正により、取引業者をきちんと登録制にするという縛りを入れたということ、取引対象として信託スキームを入れていただくことと認識しております。信託スキームの場合は倒産隔離機能があるので、安全性の高い仕組みだと認識しており、こうしたステーブルコインの堅確性、安全性というものを確保し、今後、色々な商取引や決済に活用できるような仕組みというものを増やしていきたい、ということだと理解しています。
世界の他の国とこれから連動されていくのかについては、正直に言うとよくわからないところもありますし、それぞれの国で規制等も入っていますので、日本の仕組み自体を即、海外でも使えるわけでは必ずしもないと理解しています。この辺りはグローバルな規制の流れや実際の取引がどのように行われていくかということも合わせて注視していきたいと考えております。

信託型ステーブルコイン

問:

信託型ステーブルコインには他のスキームと比べてどのような利点があり、それによりどのように広がっていくかというイメージがあれば伺いたい。

答:

信託型については今回、信託の中身が銀行預金等の法定通貨に限って行うということになっております。その意味では、結果として銀行預金型と似ているところがありますが、信託スキームには倒産隔離機能がありますので、安全性、堅確性というものが一つの利点になると考えております。どのスキームがよいかは利用者が判断することだと思いますが、銀行預金型とは異なるスキームというものを提示できる点に非常に意味があるのではないかと考えております。

問:

財産を分離して倒産隔離ができるとすると、個人というよりも企業で信託型ステーブルコインが使われていくということなのか。いわゆる資金移動業者のステーブルコインとは違った特徴があるということなのか。

答:

おそらくリテールでも法人でも、利用者としてはどちらでも、同じ価値判断をされるのではないかと思いますが、より堅確性や倒産隔離を重視されるのであれば信託型を使ってみようと判断されるのではないかと思っています。

株主総会デジタル化への対応

問:

今年の株主総会について、デジタル化の面でどのような特徴・傾向が見られると考えているか。それに対して信託銀行がどのようにフォロー・支援するのかについてどのようにお考えか。

答:

株主総会は、コロナ感染から、あまり多くの人を会場に呼ばず、その内容をデジタル配信するという流れが徐々に進んできているところだと思います。その良いところは、株主がわざわざ会場まで来られなくても、遠地からでも見ることができるとか、お年寄りの方がネットで見る、参加することができるというところだと思います。そうした利便性は今後も変わらないと思うので、本年もバーチャル総会が増えていき、一定数の方、企業様がご利用するのではないかと思います。
協会からは離れますが、信託銀行でそうしたサービスを提供している会社もありますので、先ほどの利便性等のプロモーション・宣伝は引き続き実施していきますし、バーチャル総会における突然の通信障害等のリスクもきちんとマネージしながら、バーチャル総会を普及させる取組みをしていくと理解しております。

以上