会長就任記者会見(みずほ信託銀行 笹田社長)
2026年04月02日
冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、信託協会の新会長にみずほ信託銀行の笹田賢一取締役社長が互選により就任したこと、また、新副会長に三井住友トラストグループの大山一也執行役社長CEOが、新一般委員長にみずほ信託銀行の椎野常務執行役員がそれぞれ就任した旨の紹介を行った。
また、第101回信託大会を4月13日(月)午後3時から経団連会館にて開催するので、記者クラブの方々にも是非ご来場またはオンラインにてご参加いただきたい旨の案内および令和8年度の信託研究奨励金の募集を開始したことについての説明を行った。
会長就任の抱負
このたび、信託協会会長に就任いたしました笹田でございます。
よろしくお願いいたします。
さて、信託協会会長就任にあたりまして、2つの抱負を申し述べたいと思います。
まず、一つ目の抱負は、「信託機能の発揮による強い経済と豊かな社会への貢献」です。経済全体の成長を支え、社会に安心を提供し、更なる価値創造に取組むことで、強い経済と豊かな社会の実現に貢献して参ります。
主な取組みとして、次の3点を申し上げます。
一点目は、「資産運用立国の更なる推進」です。
我が国では、「成長と分配の好循環」の実現に向けて「資産運用立国」の取組みが進められ、家計、販売会社、機関投資家、アセットオーナー、企業など、インベストメント・チェーンを構成する各主体に対して様々な働きかけがなされてきました。足元では、令和8年度税制改正関連法の成立により、少額投資非課税制度「NISA」の対象年齢が拡大され、また、コーポレートガバナンス・コードの改訂が検討されています。
我々は、インベストメント・チェーンにおいて、年金などの資産運用を行う主体であるとともに、各主体の取組みを支える様々な役割を担っています。例えば、資産管理機関として、貯蓄から投資へと向かう家計の資産形成の拡大に寄与するとともに、アセットオーナーと投資先企業の双方に対するガバナンス強化に向けたご支援なども行って参りました。
我々は、インベストメント・チェーンにおける重要な役割を、これまで以上に確りと果たしていくことで、資産運用立国を更に進め、強い経済の実現に貢献して参ります。
二点目は、「変化する多様な社会課題解決への取組み」です。
これまでの歴史を振り返りますと、戦後の産業振興資金の供給、高度経済成長期における個人資産形成や企業年金制度の整備、バブル崩壊後のバランスシート調整など、社会課題は時代とともに変化してきました。更に近年では、社会構造の変化に伴い、少子高齢化、生産年齢人口の減少、教育機会の均等確保など、課題は多様化の様相を呈しています。
とりわけ、大相続時代を迎え、我が国を支える数多くのファミリー企業を中心とする、中堅・中小企業の円滑な事業承継は、我々が取組むべき重要な課題の一つと認識しています。
また、この4月に施行された新しい公益信託制度の普及を図り、社会全般における公益的活動の活性化に寄与して参ります。
我々信託の担い手は、信託の持つ財産管理、分別管理、転換機能を柔軟に組み合わせ、永く時代の要請に応えて参りました。今後、益々変化する、多様な社会課題に対し、弛まぬ挑戦を続け、豊かな社会の実現に貢献して参ります。
三点目は、「次代に向けた成長への取組み」です。
足元、生成AIやブロックチェーン技術など、テクノロジーは目覚ましい進化を遂げています。テクノロジーを活用し、お客さまに提供する商品やサービスの利便性向上を図るとともに、新しい金融サービスの創出に向け、努力を重ねて参ります。
また、スタートアップ企業へのガバナンスに関するご支援など、次代の担い手の成長に資する取組みを進めて参ります。
次に、2つ目の抱負は、「100年積み重ねた信頼の一層の向上」です。
信託の本質は、委託者・受益者からの受託者に対する高度な信頼にあります。我々は、これまで100年に亘り、受託者としての責任を全うすることで信頼を積み重ねて参りました。
受託者としての責任を全うするには、委託者や受益者に対して誠実に向き合うお客さま本位の姿勢と高い職業倫理を体現する必要があります。加えて、信託財産の多様化、複雑化が進む中、それを管理、運用する受託者には、より高い専門性が求められています。
次の100年においても、お客さま本位の姿勢のもと、不断に、倫理意識を高め、専門性強化に取組み、信頼の一層の向上に努めて参ります。
以上、信託協会会長としての抱負を述べさせていただきました。
引き続き信託協会の活動につきまして、ご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます。
以下、質疑応答
今年度の抱負について
- 問:
-
会長の抱負として、資産運用立国や社会課題の解決に向けてのご発言があったが、具体的にどのように取り組まれるか伺いたい。
- 答:
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先ほど、抱負として申し上げた主な取り組みとして、3点ご説明させていただきました。
資産運用立国の更なる推進としては、今年度はコーポレートガバナンス・コードの改訂が予定されており、投資先企業へのガバナンス強化の支援などを通じて企業価値向上に貢献して参ります。
また、アセットオーナーである年金の管理・運用を担う立場として、関係省庁とも議論の上、年金制度の使い勝手や税制面の改善などを提言して参ります。年金においても、企業価値向上の恩恵が家計に還元される流れを後押しして参りたいと考えております。
変化する多様な社会課題解決への取組みとしては、大相続時代を迎え、中堅・中小企業は円滑な事業承継という課題を抱えています。例えば、突然、経営者の認知機能が低下した場合、株式承継を行うこともできず、経営の空白期間が生じてしまいます。
認知症発症前に信託しておけば、事業を滞らせることなく、円滑な事業承継を実現できる。こういった信託機能について、世の中への普及や、更なる機能向上を進めたいと考えております。
なお、事業承継に関連しまして、非上場株式等に係る相続・税贈与税の優遇措置として事業承継税制が設けられていますが、現行制度では、信託を利用した承継スキームは適用対象外となっております。
当協会では、この事業承継税制を、信託を活用した承継スキームにも適用いただけるよう、税制改正要望を行って参りたいと考えております。
次代に向けた成長への取組みとしまして、例えば人的リソースが限定的なスタートアップ企業に対し、従業員インセンティブ制度の拡充など、人材確保に向けた支援を行って参りたいと考えております。
暗号資産ETFについて
- 問:
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信託も関わると思うが、暗号資産ETFについて伺いたい。組成や受託などの役割もあると思うが、足元の暗号資産ETFの状況、検討動向などについてお話いただきたい。
- 答:
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暗号資産に関しては、昨年の金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」において、暗号資産の位置付けを、資金決済法から金融商品取引法に変更する等の内容を含む報告書が取り纏められました。また、先般の税制改正大綱において、一定の暗号資産を申告分離課税の対象とする内容が盛り込まれました。
暗号資産ETFについては、「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」では直接の議論の対象ではありませんでしたが、今後日本においても暗号資産ETFの組成を可能とするよう、各種制度改正が行われていくと認識しています。
当協会として、暗号資産ETFの組成をしやすくするための規制改革要望を掲げており、引き続き、関係省庁と議論して参りたいと考えております。
また、今後、暗号資産が広く機関投資家を含め、運用手段として広がる中で、ETFに限らず、広く資産運用・管理の手段として信託を利用する場面も想定されます。業界や当局との議論等も踏まえつつ検討して参りたいと考えております。
信託型ステーブルコインのメリット、活用方法について
- 問:
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ステーブルコインが海外や日本で普及の兆しがあるが、信託型ステーブルコインのメリットや活用方法についてお聞かせいただきたい。
- 答:
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信託型ステーブルコインについては、裏付けとなる日本円等の法定通貨、それから日本国債が信託財産となり、発行者の倒産リスクが隔離され、財産が保全されるスキームであり、安全性・堅確性という点が利点になると考えます。また、発行上限額の制約がないため、相対的に金額規模が大きい法人間決済での活用も想定されています。
実際に、例えば3メガにおける企業間のクロスボーダー決済や証券DVP決済など、様々な実証実験も行われており、今後、日本において信託型ステーブルコインが発行されることを期待しております。
一方で、セキュリティやプライバシーなどの利用者保護の観点、あるいはAML、CFTの観点での課題もあり、便利に加え、安心、安全、健全な決済サービスをすることが必要と考えています。信託協会としては、各社の創意工夫を尊重しつつ、必要に応じ、関係当局、業界団体との対話を深め、デジタルマネーの健全な発展に貢献して参りたいと思います。
デジタル遺言について
- 問:
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デジタル遺言について、民法改正の動きのなかで保管証書型の遺言方式が追加されたが、こちらの創設について、お考えを伺いたい。
- 答:
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近年の急速なデジタル技術の進展や普及を受け、遺言制度をより利用しやすい制度として、高齢化社会における円滑な資産承継を促していくためにも、デジタル技術を活用した新たな遺言制度の創設は、遺言の普及・促進、および円滑な資産承継の実現の観点からも前向きに捉えております。例えば、現在の自筆証書遺言には厳格な方式が求められており、遺言書作成のハードルになっている一面もあると考えられます。
ご質問にあったデジタル遺言制度が創設されれば、より幅広い世代が将来に備える契機となり、円滑な相続の実現に寄与するものと期待しております。信託協会としては、引き続き関係省庁と連携し、デジタル遺言制度の創設およびお客様の利便性向上に貢献して参りたいと考えております。
バーチャル株主総会について
- 問:
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会社法改正の中間試案が出されたが、そちらでバーチャルオンリー株主総会の要件緩和が出ている。こちらについて、信託協会としてどのように受け止めているか。
- 答:
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昨年6月の株主総会では、バーチャル株主総会の導入企業は378社、これは(全体の)17.8%でした。コロナ禍対応が終息に向かった2023年以降、導入割合の推移としては微減となっています。足元では、産業競争力強化法で導入がなされたバーチャルオンリー株主総会を会社法に導入し、制度化する議論が法制審議会で、議論されております。当協会としては、本制度実現に向け、法制審議会の場で、実務的な観点から意見を述べさせていただいております。
実質株主の把握について
- 問:
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ただ今の質問でお話にあった法制審議会での会社法改正の議論に関連して、実質株主の把握や特定について伺いたい。実質株主確認制度の法制審議会で議論が進んでいると思うが、この受け止めと、信託銀行が株主を特定するサービスを提供しているが、そこへの影響についても伺いたい。
- 答:
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会社法改正の内容はまだ確定しておりませんので、検討状況については、個社として把握している内容を説明いたします。
今回の制度改正の趣旨の方向性としては、「発行会社と実質株主との間の建設的な対話の促進」と「支配に関する重要な情報の把握および開示」の両面で議論されていると承知しております。
本制度が創設されることは、発行会社と株主との対話促進の実現のため望ましいことと捉えており、発行会社が効率的かつ安定的に実質株主の情報を取得できる仕組みを構築することを通じて、コーポレートガバナンスの強化の一助になると考えています。法改正の検討と並行して、実務運用について検討する「実質株主確認制度整備に向けた実務者検討会」が全国銀行協会によって設置され、当協会もメンバーとして参画しております。当協会は主に株主名簿管理人および名義株主である資産管理信託銀行の立場として、本制度の実務構築に関わっており、関係機関と共に引き続き尽力して参りたいと考えております。
もう一つのご質問については、信託銀行のビジネスへの影響についてと受け取りました。これも各社によって見解が違うと思いますので、個社としてご説明いたします。今申し上げた通り、発行会社が実質株主を把握することは、発行会社としての現状把握のために必要であり、本制度の実現により、効率的かつ安定的に実質株主の情報を取得できる仕組みを構築することは、望ましいと考えています。
本制度により発行会社が第三者による調査を経ずに実質株主の情報を入手できるようになった場合でも、投資家とのエンゲージメントに向けた支援や株主総会に向けた議決権行使の分析など、IR・SR分野のコンサルティングニーズは引き続き強く、むしろサポート領域が拡がるものと考えています。
株主・投資家との建設的な対話促進の実現に向け、制度全体が円滑に機能するよう、実務運用や運用スキームの構築を目指して、関係機関とも引き続き協力して尽力して参りたいと考えています。
株主総会における株主提案について
- 問:
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ここ数年、ガバナンス改革を始めとする株主提案が増加しているかと思うが、株主提案が増加していくことに対する協会長としての受け止めを伺いたい。また、2026年6月の株主総会の見通しについて伺いたい。
- 答:
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まず、少し足元の状況等をご説明させていただきます。昨年6月の株主総会で株主提案を受けた会社は113社で過去最多、機関投資家、アクティビストによる提案も52社に増加しました。定款変更の形態を通じて、ガバナンス体制の強化、政策保有株式の縮減を求める株主提案が多かったと思います。
一昨年に比べ、投資単位が低い銘柄を中心に、個人株主による提案が増加する傾向も見られました。
株主総会開催日については、総会集中日を避ける傾向は継続していますが、召集通知の発送・電子提供開始の早期化傾向は一服して、総会開催日の21日以上前に発送した企業は約4割に留まりました。
2025年3月に、金融担当大臣から有価証券報告書の総会前開示の要請があったことも影響して、昨年の3月決算先の57.7%が総会前開示を実施しております。ただ、その大半は総会前日の開示にとどまっております。
一方、2026年3月に開催された株主総会は、全体で570社程度ありました。そのうち株主提案を受けた会社は15社で、そのうち機関投資家、アクティビストによる提案は、半数程度の8社を占めており、アクティビストの動向は、引き続き活発であると認識しております。
株主提案の内容としては、定款変更や役員選任議案を通じて、ガバナンス体制強化を働きかけるものや、増配または自己株式取得を通じて株主還元を求めるものなど、経営体制と資本政策の両面から企業価値向上を追求する傾向にあると思っています。
2026年、今年度6月の株主総会の見通しとしては、これは我々個社の見通しですが、足元においても、機関投資家、アクティビストを含む株主の動向は活発であり、株主提案の件数は昨年を上回る可能性もあると見ております。
政策保有株式の持ち合い解消と機関投資家の議決権行使基準の厳格化、この流れを背景に、企業の経営姿勢もより一層緊張感が高まると、考えております。
株主提案の活発化について
- 問:
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株主提案のハードルが低いことが企業側の負担になっているのではないかという指摘もあるが、それに対する協会長としてのお考えを聞かせていただきたい。
- 答:
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証券取引所からの要請もあり、投資単位の引き下げが進展したことで、これまでより少額の株式購入で株主提案を行うことが可能となっています。一部、濫用的と思われるような提案がある現状を鑑みて、議決権個数要件等の見直しが検討されていると認識しております。
個人等が投資しやすくする環境整備として、更なる投資単位の引き下げを進めるにあたり足かせとならないように等の指摘もあることから、株主権保護にも留意しながら、適正な水準のあり方について議論を続けていくものと理解しております。
以上