会長定例記者会見(みずほ信託銀行 笹田社長)

2026年10月15日

冒頭、川嶋専務理事より、本日開催された理事会において、「規制改革に関する提案」をとりまとめ、内閣府規制改革推進室宛てに提出した旨の説明を行った。
また、遺言関連業務の計数をはじめ、信託に関する主な計数を掲載した信託統計のポケット判を作成したことを紹介し、是非信託の取材時にも活用して欲しい旨案内した。

笹田会長

信託協会会長の笹田でございます。 
本日は、協会長就任後の半年間を振り返り、これまでの活動状況と今後の取り組みについて、ご報告申し上げます。 
協会長就任にあたり、「信託機能の発揮による強い経済と豊かな社会への貢献」と「100年積み重ねた信頼の一層の向上」の2つを所信として掲げました。

第一の所信である「信託機能の発揮による強い経済と豊かな社会への貢献」については、次の3点を主な取組みとして、活動して参りました。

1点目は、「資産運用立国の更なる推進」です。
信託業界は、インベストメント・チェーンにおいて、資産運用を行う主体であるとともに、アセットオーナーや投資先企業の各主体を支える役割を担っています。
こうした役割を踏まえ、今年度、資産形成に向けた年金制度の利便性向上と利用拡大の観点から、確定拠出年金における拠出限度額の引き上げや、運営管理機関による個別アドバイスの解禁などの政策提言を行いました。
また、株主総会等に関する会社法制の見直しの議論においては、企業と投資家の双方が、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を意識し、必要な成長投資が実施されるよう、会社法制部会への参画などを通じ、意見を申し述べて参りました。
本年7月に公表された「日本成長戦略」では、改めて、インベストメント・チェーンの機能強化が重要とされました。
引き続き、インベストメント・チェーンにおける役割を確りと果たすとともに、資産運用立国のアップグレードを支える取組みを進め、強い経済の実現に貢献して参ります。

2点目は、「変化する多様な社会課題解決への取組み」です。
本年4月に施行された新公益信託法につきましては、民間公益活動の一層の活性化に向け、新制度に対応したパンフレット等を策定し、周知に取り組んでいます。
また、中堅・中小企業の円滑な事業承継を実現するため、信託機能を活用した承継を事業承継税制の適用対象としていただけるよう要望して参りました。本年8月の中小企業庁が主催する「中小企業の親族内承継に関する検討会」では、検討会委員より、信託を活用した承継について、前向きな意見をいただいております。
今後も、多様な社会課題の解決に取組み、豊かな社会の実現に貢献して参ります。

3点目は、「次代に向けた成長への取組み」です。
新たな金融サービスの創出として、信託型ステーブルコインに所要の措置が講じられるよう、当協会が要望する内容を金融庁の税制改正要望に採り上げていただきました。
また、スタートアップ企業の優秀な人材確保の観点から、信託を活用した株式給付制度に関する税制措置を要望しております。

次に、第二の所信である「100年積み重ねた信頼の一層の向上」について申し上げます。

当協会では、「顧客本位の業務運営に関するワーキンググループ」を設置しており、各社の取組みや好事例を会員各社で共有いたしました。引き続き、信託の担い手が委託者・受益者に誠実に向き合う顧客本位の姿勢と高い職業倫理を体現して参ります。
また、信託法に係る学術団体である信託法学会が本年50周年の節目を迎えました。本年6月の学会では、研究者、法曹、信託実務家が一堂に会し、信託制度の更なる活用に向け、議論を深めました。

最後に、信託受託残高が、本年6月時点で2,000兆円を超えました。
これは、信託に対する社会の期待と信頼の大きさを示すものと受け止めています。
これまで以上に、信託機能を最大限に発揮し、信頼の向上に不断に努め、信託の発展、普及に取り組んで参ります。
今後共、信託協会の活動へのご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます。


以下、質疑応答

農地の円滑な承継における信託の役割と課題について

問:

農地の相続による権利の分散を防ぐため、農地への信託の活用が一つの焦点となっている。信託業界としてこの動きをどのように受け止めているのか。また、農地の管理や円滑な承継において信託がどのような役割を果たし得るのか、あわせて制度化に向けた課題についても伺いたい。

答:

報道によれば、農林水産省において、農地の相続に伴う権利の分散を抑え、農地の有効活用や耕作放置地の発生抑制に繋げる観点から、信託の活用範囲の拡大を含む制度の見直しに向けた検討が進められているものと承知しています。
農地は、食料生産の基盤であり食料安全保障の根幹を成すことから、その権利を適切に承継し、次の担い手に繋げていくことは大変重要と考えています。この点について、信託には、財産の管理機能、転換機能といった様々な機能があり、これらを活用することにより、柔軟な制度設計が可能と考えています。
現時点では制度の詳細が明らかになっていないため、具体的な評価を申し上げる段階にはありませんが、我々には、長年培った、財産管理や円滑な資産承継を支援するというノウハウが蓄積されており、当協会としても、実効性のある制度の実現に向け、しっかり貢献していきたいと考えております。

新公益信託制度について

問:

冒頭のお話にもあったが、4月に新たな公益信託制度が施行され、半年が経過した。現時点での受け止めや手応えをどのように見ているのか。また、今後、公益信託を広く普及させていく上での課題についても伺いたい。

答:

公益信託は、個人や企業が様々な公益活動に活かすことを目的に金銭を拠出し、信託銀行等がその目的に沿って財産を管理・運用し、公益活動を継続的に行う制度であります。同じく公益を目的とした事業を行う公益法人と比較して、法人設立の手続が不要であるなど、より簡便に公益活動を始めることができます。
本年4月の新公益信託法の主な改正ポイントは「受託可能財産の拡大」、「受託者の範囲拡大」、「事業内容の拡大」の3点であります。このような改正で、これまでの公益信託と比べ、より柔軟で多様な公益信託の設定が可能となり、公益信託がこれまで以上に使いやすく身近な制度になったと承知しております。
9月末現在、新法が施行されてから7件の公益信託が認可を受けています。このうち3件は、新制度により受託者の範囲が広がったことで、特定非営利活動法人や一般社団法人など、公益目的に応じた専門性や実施能力を有する法人が受託者となったものであります。今後は、個人・企業等による公益信託の活用がますます広がるものと期待しています。これに伴い、より多様な公益信託が設定され、社会課題の解決に活用される機会も増えていくものと考えております。
本制度は、本年4月に開始されたところであり、当協会として、今年度パンフレットの発行などにより周知しております。引き続き、本制度の認知度向上に取り組んで参りたいと考えております。

国債の税優遇について

問:

国債の税優遇について検討が始まっているところだと思うが、資産運用立国の観点からは、投資対象の多様化と捉えることもできる一方で、企業への成長資金供給という観点から、貯蓄から投資への本来の政策目的に逆行するという指摘もある。
信託協会としては、預金の面でも運用の面でも影響してくる話だと思うが、こうした国債の税優遇をどのように位置づけていらっしゃるのか教えていただきたい。

答:

本件については、個社としての見解を申し上げます。
日本経済・産業の成長を実現していく上で、戦略17分野における官民共同投資の取り組みなど、財政支出の果たす役割は大きいと考えております。
それを支える財源として、国債の安定消化は重要なテーマと認識しており、また、投資対象の多様化・家計の資産所得の拡大という観点からも、安定した利回りが見込める個人向け国債の果たす役割は重要と考えております。
一方、個別の金融商品である国債に他の商品にはない有利な条件を設けることが、資産運用立国の方針である多様な金融商品を揃え、株式や社債、信託運用商品等への投資を通じて、企業に成長資金を供給する考え方と整合するか、慎重な議論が必要だと考えております。
加えて、信用創造の面から申し上げると、個人向け国債の税優遇や商品性の改善等により、貸出の原資となっている銀行預金から個人向け国債への資金シフトが過度、かつ急速に進むと、信用創造機能の発揮を弱め、足元ニーズが拡大している成長資金の供給等に影響が出る可能性があることにも留意が必要だと考えております。
家計による国債保有の拡大については、貯蓄から投資へのシフトや、金融機関の信用創造機能への影響も踏まえ、全体最適の中で、適切に議論がなされていくことが肝要と認識しております。

不動産市場への見解、また今後のリスクと期待について

問:

長期金利が3%を超えて、不動産市場では資金調達コストの上昇や物件価格への影響も懸念されているところだが、海外投資家による日本の不動産に対する投資意欲が引き続き強いと認識している。信託業界として仲介をされていると思うが、個社の話になるかもしれないが、現在の不動産市場をどのように見ているか。また、今後のリスクをどう捉えているか。

答:

本件も個社として見解を申し上げます。一言で言えば、足元は引き続き活況であり、2026年後半も底堅さは維持しつつも金利影響には留意が必要と考えています。
当行の2026年1月から6月までの統計で国内の不動産売買額は過去最高を更新しています。事業法人による本社ビルや物流施設の売却が増えています。バイサイドとすると国内SPC・私募REIT・不動産ファンド等の外資系法人による取得が増加しています。
特に、財務・資本効率を意識した事業法人による売却傾向が継続していること、また、海外と比較して、投資サイドで言うと依然として相対的な低金利・円安効果・賃料上昇が見込めるため、国内外の投資マネーが流入しており、国内外投資家の投資意欲は依然として底堅いと想定しています。 
一方で、金利上昇・建築コストの上昇が投資判断上の懸念材料と考えています。現時点においては、特に東京都心部のオフィス、賃貸マンションについては賃料上昇の勢いがあり、金利上昇等の影響は部分的にとどまっている。今後は、金利上昇による価格調整圧力を賃料上昇期待が吸収できる物件に、より選別的になっていく可能性があると考えています。

規制改革要望および税制改正要望について

問:

先日行われた税制改正要望と、本日発表された規制改革の提案のポイントについて、それぞれお聞かせいただきたい。

答:

まず、本日公表した規制改革の提案についてご回答いたします。当協会では、内閣規制改革推進室あてに「規制改革に関する提案」を12件提出いたしました。内訳は、継続要望が9件、新規要望が3件です。
例えば、暗号資産ETFに関する制度整備、相続手続きの簡素化、受給者・加入者目線に立った年金制度改善、事務効率化など、幅広い要望を掲げています。
特に、暗号資産ETFに関しては、本年7月に、暗号資産に関する規制の根拠法が資金決済法から金融商品取引法に改正されており、今後、要望の実現に向け、関係省庁などと内閣府令等の整備について協議していきます。
また、年金制度に関しては、DCにおける「運用商品の個別アドバイスの解禁」や「指定運用方法の設定義務化」などについて、自民党の「資産運用立国議員連盟総会」、厚生労働省の「DC懇談会」において提言を行ってきました。
引き続き当協会として、社会経済への貢献や信託の普及・発展に繋げていくことができる要望活動を行って参ります。
続いて、令和9年度税制改正要望については、9月17日に当協会のホームページで公表しています。当協会として、資産運用立国の更なる推進、社会・経済の諸課題・ニーズに対応した商品・サービスの開発、提供が可能となるよう、多岐にわたる項目を要望しています。その中でも、主要要望として、5項目を要望しています。
具体的には、冒頭の挨拶で述べました「事業承継税制の適用対象に信託取引を追加すること」、「信託を活用した株式報酬制度に係る税制優遇措置の創設」、「退職給付や年金制度に係る税制改正」等を掲げています。
引き続き当協会として、社会経済への貢献や信託の普及・発展に努めて参ります。

ミニマムタックス税制と事業承継M&Aへの影響について

問:

富裕層にとって増税となるミニマムタックス税制の適用が来年から控えており、これとM&Aのトレンドについてお伺いしたい。様々な細かい制度設計はあるが、2026年の税制改正で決定されているとおり、この制度では株式譲渡益に対する税負担が増加する。
私が取材を進める中で、事業承継を検討している事業者の間で、「今年中に事業承継を完了してしまおう」との考えから、駆け込み事業承継・M&Aのようなものの需要が高まっているとの声を耳にする。信託業はこうした相談を受けうる立場にあるが、このようなニーズの高まりを実際に感じているのか伺いたい。
また、こうした急ぎ過ぎたM&Aが、M&Aに求められる規律、例えばM&A指針に書かれているようなマーケットチェックをしているかといった規律をないがしろにしてしまうのではないかという懸念をしている。このようなトレンドがあるのかということと、相談を受ける立場として、そのようなプロセスを飛ばしてクロージングしたいという相談を受けた際、正しくアドバイスができるのかどうかについて伺いたい。

答:

本件については、個社としての見解を申し上げます。
まず、必要なプロセスを省略することはありません。
いわゆる高所得者課税ということかと思いますが、これは株式の譲渡益だけでなく、不動産も含まれるため、事業承継やM&Aにも影響を及ぼし得ると認識しております。
今年の税制改正であり、ご相談やニーズ自体はあります。一方で、取引相場のない株式の評価方法見直しが議論されていることにも関連する話だと思いますので、必ずしもミニマムタックス税制だけを意識してということではなく、寧ろどのタイミングで影響するのかを見定めているということが、今私が把握している、個社としての実感です。
当行としていえば、タイミングを誘導することは当然ありません。法人に関しては、中長期的に企業価値をどのように上げていくのか、個人に関しては、資産をどう生かして、次世代に繋いでいくかという本質的な議論をする中で、タイミング、手法について検討していくものだと思っております。

結婚・子育て支援信託について

問:

2点質問をしたい。1点目は結婚・子育て支援信託の関係で、現在、贈与税非課税措置が適用されているかと思うが、来年3月末をもって廃止されるような状況で進んでいるかと思う。現状では、省庁要望にも盛り込まれていないような中で、この方針についてどのように受けとめているのかということと、協会としてはどのような対応をするのかということをご教示いただきたい。

答:

結婚・子育て支援信託は、2015年4月に取扱いが開始され、累計契約数は約8,000件、累計受託額は約260億円となっています。
これまで当協会としては、結婚・子育て支援信託が、結婚・出産・子育てを後押しすることにより、少子化対策の一助となる有効な手段であると考え、制度の恒久化・拡充を要望してきました。
そのため、今年度においても、こども家庭庁への働きかけや、本制度の周知活動に尽力してきたものの、今回、制度の恒久化・拡充に関する要望が省庁要望に盛り込まれなかったことについては、残念に受け止めております。
一方、本制度の意義や重要性は、今回、省庁要望に盛り込まれなかったことによって変わるものではなく、今年度も協会として主要要望の一つとして位置付けています。
少子化対策や子育て支援の重要性が一層高まるなか、若年層への後押しや世代間の資産移転促進は重要であることから、当協会としても、引き続きこのようなテーマに取り組んでいきたいと考えております。

信託型ステーブルコインについて

問:

もう1点は、オンチェーン金融に関することで、先ほど税制改正要望の中で、信託型ステーブルコインの話があったかと思うが、現状信託型ステーブルコインを展開するにあたって、課題感や協会としてどのように重点的に進めて行くのかをご教示いただきたい。

答:

当協会では、今後、信託型ステーブルコインの利用が拡大していくことを見据え、信託銀行等の受託者に提出が求められている税務上の調書等について、一定の要件の下で提出を不要とする措置を講じていただきたいとの要望を行ってきました。
本要望については、金融庁の税制改正要望にも採り上げていただいており、現在、金融庁をはじめとする関係省庁と、要望の実現に向けた制度上、実務上の課題について意見交換・協議を進めています。
引き続き、関係者のご理解を得ながら、要望の具体化に向けて必要な検討を進め、実現に努めて参りたいと考えています。

セキュリティ・トークンについて

問:

セキュリティ・トークンの活用について、決済の高度化や対象の拡大等が進んでいると思うが、業界としてその展望についてお聞かせいただきたい。

答:

セキュリティ・トークンの裏付け資産は代表的な不動産に加え、金銭債権、映画の製作委員会への匿名組合出資持分、非上場株式等、多様化が進んでおります。
公募のセキュリティ・トークンの多くでは、受益証券発行信託が活用されています。当協会では昨年度、受益証券発行信託計算規則の改定を行いました。受益券発行信託の信託期間期間中の元本払戻における課税区分を明確化し、本年4月より施行いたしました。
本改定により、これまで信託財産となりにくかった航空機、船舶等、信託期間中の元本払戻が相対的に大きい動産も対象とすることが容易になりました。当該資産は、セキュリティ・トークンにより小口化することで、個人投資家も含め広く投資機会を提供できるようになりました。
またステーブルコインと組み合わせたトークン化MMFや、国債・上場株式のトークン化など、ブロックチェーン技術を基盤とするオンチェーン金融の実装に向けても業界横断で検討しております。
デジタルと信託を活用した新たな小口化商品の組成に向け、制度改善を含む取組みを通じ、投資家の裾野を拡大することで、成長分野への投資を促進し、持続的な経済成長と国民の資産形成に貢献して参りたいと考えております。

インベストメント・チェーンの機能強化について

問:

冒頭インベストメント・チェーンの機能強化等の話があったが、関連して、投資信託の基準価額の一者計算について、信託協会と当時の投資顧問協会で指針を策定しているが、その後の状況はどういうなっているかということと、合わせて、今後の普及の見通しについて教えていただきたい。

答:

今年度の「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート(以下、「プログレスレポート」)において、資産運用会社から信託銀行への指図、投資信託の計理、資産運用会社から販売会社やアセットオーナーへのレポーティングの3点について、効率化・合理化が課題と指摘されております。一者計算については、今申し上げた投資信託の計理に入ると思いますが、これらのテーマに取り組んでいくことは、資産運用立国の実現に不可欠と考えており、当協会としては受益者の最善の利益の実現に向けて、資産運用業界を含めて関係者と検討、協議をしっかり行っていくということだと考えております。

問:

まさに今話があったようにプログレスレポートで指摘があり、今具体例として一者計算の話を申し上げたが、これが指摘されてから何年経っているか、指針ができてから何年経っているか、ということを合わせると、一言で言うと進んでいないように見える。冒頭会長が発言されたように、インベストメント・チェーンの機能強化が大事であると、資産運用立国の推進を信託業界として頑張りますというわりには、本当にやる気があるのだろうかと感じるが、改めて見通しを教えてほしい。

答:

今回のプログレスレポートの趣旨としても、資産運用会社が運用等の付加価値の高い業務にリソースを集約できるようにすることが、資産運用立国に資するということだと理解しています。信託業界だけでなく、資産運用業界も含め、業界横断で取り組んで行く必要があると考えております。各社で異なる事務など、多くの課題についてこれまで議論してきましたが、先ほどの3点について、改めてしっかりと議論していく必要があると認識しております。

以上